終息に向けた協調で経済安定を

2020-04-09 12:02:32

キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 瀬口清之(談)

新型コロナウイルス(COVID−19)感染拡大の影響を受けて世界経済が大きく揺れ動くなか、中国経済の先行きは特に多くの注目を集めている。新型コロナウイルスによる経済への影響と、いかにこの危機を乗り越えられるかについて、在中国日本大使館経済部書記官や日銀北京事務所長を歴任し、中国経済事情に詳しいキヤノングローバル戦略研究所の瀬口清之研究主幹に語ってもらった。

ウイルス被害は自然災害

今回の新型コロナウイルスは、基本的には大きな自然災害と同じと私は捉えている。

通常の景気循環での下で、例えば不動産・株式バブルが崩壊したりすると、あらゆる企業のバランスシートが破壊的なダメージを受ける。そうした場合、極めて巨額の財政支援や金融支援を行わない限り、経済が回復に向かわないほか、正常軌道にまで回復するには数年以上といった非常に長い時間がかかる。しかし今回については、中国経済が2カ月ほど止まっただけなので、資金繰りがきちんとつながりさえすれば、企業の経済活動がスムーズに元に戻っていく可能性が十分あると思われる。しかも、感染拡大が沈静化した後の消費を考慮に入れれば、もともとたまっていた需要が吹き出すので、これが経済の回復力にもつながっていくと考えられる。

現在中国経済の三大エンジンとなっている「京津冀」(中国首都圏の三大行政区である北京、天津、河北)、「長三角」(長江デルタ)、「珠三角」(珠江デルタ)は、比較的早い段階から立ち上がり、回復に向かっている。このように経済を引っ張るエンジンがきちんと立ち上がっていけば、中国経済は比較的順調に回復に向かえるはずだ。ただし上半期中は新型コロナウイルス問題が十分には終息せず、非常に厳しい状況が続くかもしれない。下半期以降、急速に回復していく可能性があるのではと私は見ている。

一方、中長期的な視点から見れば、新型コロナウイルス危機への対応上、やむなくテレワークの導入拡大、オンライン教育の拡充、遠隔医療の活用など、中国で新たな需要が生まれつつある。これにより産業構造が大きな転換を迫られる可能性も高まるだろう。

もし多くの企業による新たな産業分野への転換が進み、従来の非効率な分野の産業が縮小し、IT、AI等の新技術を活用した新興産業の拡大が促進されれば、中期的にはむしろ経済の活力が高まる可能性もあると考えられる。

高まる日本ブームを予測

現在、日中両国は経済活動において、国境がないと言っても過言でないほど相互に緊密に連携し合っている。加えて、今回の新型コロナウイルス危機の中で、日本と中国が互いに応援し合い、心の絆を強めているという大きな事実を、私たちは見逃してはならない。

最初は日本が中国の方々を非常に心配し、「頑張れ中国」「頑張れ武漢」とエールを送り、政府から企業、個人に至るまで、温かいメッセージを添えたマスクなどの医療品や義捐金を贈った。その後日本での感染が広がると、逆に中国の方から「頑張れ日本」とエールが送られ、政府から民間まで、盛んに支援を行った。

日中両国が困難に直面する状況下、互いに応援し合うことで心の絆が強まった。こうした取り組みを政府同士が続け、国民同士が続けることが非常に重要だ。真心のこもった相互信頼こそ、日中関係にとって最も大切なことだと改めて認識できたように思う。

今後も両国の友好ムードが続くとすれば、日本への感謝の想いとともに、中国での日本ブームが一段と高まることは想像に難くない。日本企業はその状況変化を認識し、中国国内市場での自社製品やサービス需要の増大、中国向け輸出の急増、インバウンド旅行者の大幅な増加などを的確に予想し、ビジネスチャンスをしっかりとつかむことが大切だ。

非政府機構組織も一役

日中を超えて、よりグローバル的な視点で{ふかん}俯瞰すれば、新型コロナウイルスの感染は国境を越えて拡大し、予想外の速さで全世界を巻き込んだ。これはグローバル化の進展に伴って、国家を越えた経済活動や人の往来が増大し、グローバル社会全体が以前に比べてはるかに緊密化し、一体化が進んだことに伴う副作用だ。しかし、グローバル化の時計の針を元に戻すことは不可能であり、今後ますます緊密化が進展していくはずだ。

そうしたグローバル社会の長期展望に立てば、今回の危機をどのように乗り越えていくべきかを考えて、従来の国家間の合意に基づくルールによって対応することにはすでに一定の限界があることが鮮明になった。そこで、今後は国家の枠組みを超えて、企業、大学、民間団体、個人などの非政府組織がグローバルレベルで協力し合うことが必要になると思われる。その新たなステージへの移行期において、非政府組織の横断的な自発的協力が世界秩序安定の鍵を握るだろう。

人民中国インターネット版 2020年4月9日

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