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座談会 上海万博はなにをもたらしたか

 

未来を語るパビリオン

加藤青延解説主幹 1954年、東京生まれ。1978年NHK入局。1989~91年、2002~06年、北京駐在。現在、NHK解説主幹。

――印象に残ったのはどの館でしょうか。

加藤 中国の航空館、宇宙館、石油館、船舶館、上海企業連合館などを見て回ったのですが、びっくりしたのは石油館でした。最初に「心臓や血圧に問題がある人は見るのをやめましょう」「途中で気分が悪くなったら申し出てください」という警告が出る。そして上映されるのは石油ができるまでを描いた映画です。それが3Dを越える4Dの技術で映し出される。恐竜やワニが画面から飛び出してくる感じで、本当に噛まれるように感じるのです。座席も動くので、まるで絶叫マシーンに乗ったように、観客は大人も子どもも大声をあげていました。そして最後には「石油は限りのある資源だ。大切にしよう」と観客に訴えかけるのです。

 朱 私はやはり中国館ですね。イデオロギーや政治色が極めて薄く、むしろ生活や科学技術、環境などを強調した館が多かったことです。これまでの中国の展示は、実績を並べて成果を誇るというものが多かったのですが、今回は未来の社会像を示すことによって、若者たちに夢と希望を与えることに力を入れていたと思います。

 阮 女性は、ファッションやデザインに目をひかれます。イタリア館やフランス館はすばらしかったと言われていますが、全体的にはあまりファッション性を感じませんでした。でも、大多数の中国人、中でも女性はほとんど海外旅行をしたことがありません。万博で、世界にはこんなに多くの国々があり、多様な文化があることをじかに見て知ったことの意義は大きいと感じました。

――日本館や日本産業館はどんな印象でしたか。

 阮 日本館のロボットは、子どもたちに人気でしたが、他の館と違うのは、将来、人間社会と機械がどのように共存するのかを、子どもたちに具体的に示したことでしょう。トキをテーマにしたパフォーマンスも、未来の社会はどうあるべきなのか、環境を保護することがいかに大切かを、子どもたちにわかりやすく示していました。

 加藤 日本産業館は人の流れがスムーズで、他の館のように待たされるということがなかった。非常によく計算されていたと思います。黄金のトイレなど、籤に当たった人が見ることができるなど、人を引きつける演出もありましたね。ここに出展した日本の企業が、これからの中国市場への展開をにらんでいることがうかがえる内容でした。

阮蔚研究員 1962年生まれ。上海外国語大学日本語学部卒。新華社勤務を経て1992年来日。1995年、上智大学経済学修士卒。同年から農林中金総合研究所研究員。

――中国館はどうですか。

朱 これほど巨大な館を造った背景には、中国人一人一人に誇りを持たせるという意図があったのではないでしょうか。なんと言っても万博の開催は中国人の百年の悲願だったのです。

いまからちょうど百年前の1910年に陸士諤という小説家が発表した未来小説『新中国』の中で「百年後には上海・浦東で万博が開かれ、租界地は中国に返還され、威張っていた西洋人が礼儀正しくなり、黄浦江の下を地下鉄が走る」といった情景を描いています。その悲願が達成されたのですから、中国人が誇らしいと思う荘重な建物を造るのは理解できることです。  阮 確かに中国館は、見る人を圧倒します。でも荘厳すぎて、おしゃれな上海にはそぐわない感じがしました。ただ、中国は、やると決めればあっという間に完成させてしまう力があることを示しているのでしょう。

小島 今回の万博のテーマが「より良い都市、より良い生活」でしたから仕方がないのかも知れませんが、中国は巨大な農業国でもあり、人口は農民がもっとも多いのですから、もう少し農業や農民の生活をとり上げても良かったのではないかと思います。

加藤 中国館を含めて中国のパビリオンに共通して言えることですが、どれも「将来、中国はどんな姿になるのか」というメッセージを発しているのが特徴です。中国館では上海の将来を、高層ビルが林立する姿で描くのではなく、黄浦江に浮かんでいる二羽のオシドリで象徴させていました。

また船舶館では、手漕ぎの舟から始まる造船の歴史を紹介しながら、最後は大きな帆を持つコンピューター制御の帆船を登場させる。これが将来の省エネで超エコの船舶だというように、人々に将来の姿を示していました。

――上海万博のパビリオンは、中国館などいくつかの例外を除いて取り壊されますが、その跡地の利用はどうなるのでしょうか。  

朱 まだ決まっていないようですが、現在出ている話としては、高層住宅群をつくるという案があるようです。大阪万博の跡地にも千里ニュータウンが建てられたように、大きな経済効果を生むと予想されます。

加藤 中国の産業館はぜひ残してほしいと思います。法的にはそのまま保存することができないということなら、他の省や市に移築することはできないか。そうすれば、非常に大きな教育的効果があるに違いありません。

 

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