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中国人留学生の目に映る中日の“奇異”──使われないクルマ

文=薩蘇

日本で十年余りも暮らしていると、中日文化の違いに次第に鈍感になってくる。初期のころ感じたカルチャー・ショックはすでに薄れているが、日本にやってきたばかりの留学生と話すと、彼らは、口々に“奇異”に思うことを挙げる。それらの“奇異”は聞いていると、笑いたくなるものもある。例えば、中国人留学生の目に映る中日の“奇異”の一つは、「使われないクルマ」というものである。

日本はクルマ王国といわれ、その印象は、中国人の頭に強く焼き付いている。鄧小平は名古屋のクルマ工場を見学し、現代化とは何かを知った。日本はまさに世界のクルマ生産大国であり、トヨタ、三菱、日産、ホンダなどのプレートをつけたクルマは世界各地に見られる。ゆえに、中国人留学生は、日本にやってくる前、日本はアメリカのような「タイヤの上の国」だと想像している。けれど、日本に到着すると、彼らは日本人の外出時、その多くが電車を使うことを知る。社会的地位が高い人さえ、みなと一緒に電車に乗る。電車のなかで大相撲の力士を見かけることも珍しくない。日本のほとんどの家庭は、クルマを所有しているが、その多くはそのまま置かれ、休日に子供と遊びに出かけるか、または買い物の時にだけ使われる。十年以上も使っているのに、数万キロしか走っていないクルマもある。中国の家庭のクルマは、その距離を一年で走るというのに。

中国では、クルマを所有することは、自慢であるうえに便利である。所有者は、クルマで出勤する。この一点においてはアメリカに似ている。所有者でありながら運転しないのであれば、それは中国でよく言われる「手潮」である。(運転の下手な者がなぜ「手潮」と呼ばれるのか、私はよく知らない。が、おそらく下手なドライバーほど、運転時に手に汗をかき、それが手を濡らすからだろうか)

中国人になぜ出勤にクルマを使うのかと聞けば、各種の答がかえってくるだろう。クルマのほうが速い、クルマを持つのは地位と名誉の象徴だから、など。どうであれ、バスや地下鉄で他人と押し合いへしあいしながらの出勤よりも、羨まれるものである。

それなのに、日本人がクルマを持ちながら使わないのは、中国人にとっては、悩ましい。けれど、日本をよく知る者にとっては、別に不思議ではなく、中国と日本のマイカー出勤の優劣を比べてみれば、自ずと理性的な結論がでる。

まず、日本の都会では、一般自動車道は、時速40~50キロに速度制限されており、対して電車の速度は、時速100キロ、そのうえ信号がない。多くの線路は、できるだけカーブのない、直線に設定され、両地点の間の走行距離は、クルマに比べ長いものではない。マイカー通勤はどうしても電車に劣る。

けれど、中国では、地下鉄はまだそれほど発展しておらず、通常の通勤の公共交通はバスである。バスと乗用車が同じ道路に並べば、小型で、動きがよく、細い横丁を抜けて進む乗用車のほうが速度が速い。

また、日本では仕事のストレスが高く、多くの人々は朝から深夜まで会社のために奮闘している。このような状況下、もしマイカー通勤をすれば、ドライバーは、交通事故が起きないよう、気力をふりしぼらなければならない。中国人も仕事のストレスも高く、最終便に間に合わない時間まで残業することもあるが、もしマイカーがあれば、家に帰ることができる。もし、残業がなければ、中国人は、息抜きの活動や、友達との集まりに好んで参加し、様々な異なる会社の友人と集まるには、マイカーが便利である。

日本は土地が狭く、土地一寸、金一寸、ゆえに大きな建築物の周囲に駐車場が少なく、あるにしても料金が非常に高い、ということもある。中国では、法の目こぼしにより、路上駐車はどこにでも見られ、駐車難の問題を解決している。

さらに、もう一つの原因として、クルマの普及により、日本人はクルマを成功者の証とはみない、ということもある。このような落ち着いた態度でマイカー通勤に対するため、日本は「タイヤの上の国」にはならないのだ。このあだ名からすると、隅々まで電車のネットワークがいきわたっている日本は、「レールの上の国」と称えられるべきだろう。

薩蘇

2000年より日本を拠点とし、アメリカ企業の日本分社でITプログラミングプロジェクトのマネジャーを務める。妻は日本人。2005年、新浪にブログを開設、中国人、日本人、およびその間の見過ごされがちな差異、あるいは相似、歴史的な記憶などについて語る。書籍作品は、中国国内で高い人気を誇る。文学、歴史を愛するITプログラマーからベストセラー作家という転身ぶりが話題。

 
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