People's China
現在位置: コラム中国伝統の技

江蘇省揚州市 伝承の古籍復刻技術 世界文化遺産に登録

魯忠民=文・写真

活版印刷術は中国の四大発明の一つである。六世紀の隋・唐の時代、仏教伝播と文化交流の必要から、当時の人々は文字や筆、墨、紙と印章彫刻および拓本の技法を結びつけて、木版印刷術を発明した。唐代に印刷された『金剛経』は、現在世界で最も古い、年月日が明記された木版印刷品(868年、現在大英博物館所蔵)である。11世紀中ごろ、北宋の畢昇が活字印刷術を発明し、活版印刷はさらに普及した。中国の印刷術は唐代に日本へ、八世紀にアラブへ、11世紀にヨーロッパへ伝えられ、「ルネサンス」において重要な働きをした。

広陵古籍刻印社博物館

千年以上の歳月が流れたが、現在も江蘇省揚州市には昔ながらの木版印刷術が継承されている。2006年5月20日、木版印刷術は『第一期国家級無形文化財リスト』に登録された。また、2009年9月30日、揚州市広陵古籍刻印社は中国を代表して木版印刷技芸を申請し、国連ユネスコの批准を得て、『人類の無形文化遺産の代表的な一覧表』に記載された。

歴史 揚州の木版印刷

揚州の木版印刷は唐代に始まり、明・清代に盛んになった。腕のいい印刷職人が多く、官営民営の工場の他にも街の印刷屋もある。清の康煕年間(1662~1722年)に、中国著名な古典小説『紅楼夢』の作者・曹雪芹の祖父曹寅は、勅命を受けて揚州で『全唐詩』を刊刻した。書体・彫刻・校正・印刷の全てにわたって立派だったため、康煕帝は朱筆で「刻した書甚だ好し」と賞した。

活字印刷術を発明した北宋の職人・畢昇

広陵古籍刻印社は1958年に設立され、社員約30人、主に古書版木の収集・収蔵・整理・補修及び出版、印刷業務を行い、中国最大の和綴本製作基地で、年間50万冊以上の生産が可能だ。設立四十数年間で、同社は所蔵の20万以上の版木をもとに、『楚辞集注』、『里堂道聴録』(41冊)、『全唐詩』(120冊)、『昆劇手抄曲本』(百冊)、『揚州地方文献叢刊』など5000種類以上の古書と学術専門書を印刷した。

木版印刷とは、木の板に彫刻刀で反転した文字を彫り、墨を塗り、紙に印刷することである。

畢昇が発明した活字印刷術は、粒子が細かく粘り気のある粘土を方柱に作り、反転した文字を彫り、それを焼いて活字にした。これを本の内容によって、活字を木枠に入れて版を作り、毎ページを一つの木枠に入れ、松脂と石英の砂を加熱して底に固定して平らにし、冷却後、印刷する。筆者は広陵古籍刻印社で、泥、木、錫、銅、瓷など様々な材料で作られた活字とそれを使って印刷された書籍を見た。

広陵古籍刻印社が作成した唐代の『金剛経』(868年)の復刻本(部分)。大英博物館所蔵

木版は主に梨や棗、銀杏の木を使う。材料を選び、板に挽き、水に長く浸したあと、乾燥させる。理想的な木材は、木目が細かく彫刻しやすいが、長く使うことができ、均等に墨を吸うものだ。印刷用の紙は、明・清時代以降は「毛辺紙(竹の繊維を原料とし、やや黄色味を帯びた紙)」と「連史紙(福建、浙江両省に産する上質の特産紙)」、現在は浙江省と安徽省に産する画仙紙が多く用いられる。墨は江西省景徳鎮の磁器窯の松煙灰を使う。細かく研ぎ雑物を除いて、小麦粉と混ぜて蒸し、牛骨膠など秘方を加え、練り固めて成型し、貯蔵場に3、4年保存する。墨色は真っ黒で、長く保存すればするほどいい香りが出る。印刷された古書を和綴本に装丁し、錦の箱に入れる。木版刷りの古書と版本は手工芸であり、高い収蔵価値があるため、国内外の人々に珍重され、各国首脳への国の贈り物としてよく使われる。1972年、毛沢東主席が田中角栄首相に贈った『楚辞集注』は、広陵古籍刻印社の製作したものである。

 

1   2   3   >  

同コラムの最新記事
玉と金の結合「金鑲玉」 乾隆帝が独占指示 名工の執念で再現
貴州省黔東南ミャオ族トン族自治州 女性を飾り護る銀細工
貴州省黔東南ミャオ族トン族自治州 蘆笙の音色は母のささやき
内蒙古自治区ウーシン旗 草原に流れる馬頭琴の音色
湖南省城歩県の山歌祭と打油茶 おもてなしの技と心