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3D武侠映画登場『龍門飛甲』

 

文・写真=井上俊彦

「今、中国映画が絶好調です。2008年には43億人民元だった年間興行収入は、10年には101億と急上昇、公開本数も増え内容も多彩になっています。そんな中国映画の最新作を実際に映画館に行って鑑賞し、作品だけでなく周辺事情なども含めてご紹介します」

 

武侠映画もついに3Dの時代突入か!?

2009年の『アバター』以来、ハリウッドの3D映画が中国で大人気となっています。普通の映画の1.5倍から2倍という料金にもかかわらず、いずれも大ヒットとなっています。これを、地元映画界が見逃すはずもなく、ついに「国産3D武侠映画」が登場しました。しかも、アクション映画で高い評価を得ているツイ・ハーク監督が、かつて自らプロデュースした『新龍門客桟』をリメークしているのですから、見逃せるはずがありません。さっそく、3Dの設備も整っているUME華星国際影城に行ってきました。

明代、皇帝の子どもを身ごもった宮女(メイヴィス・ファン/范曉萱)が、宦官らの魔の手から逃亡、西廠督主の雨化田(チェン・クン)はこれに追っ手を差し向けます。ところが、以前から宦官らに対抗してきた趙懐安(ジェット・リー)の名を騙る侠客(ジョウ・シュン)が宮女を救って逃げたことで、雨化田は自ら彼らが通るに違いない嘉峪関の龍門に向かいます。その頃、追っ手の一団は龍門客桟に到着していましたが、そこにはブルド(グイ・ルンメイ)率いる韃靼人の商隊など怪しげな輩が多数たむろしていました。彼らの目的は何か、本物の趙懐安は宮女を救うことができるのか、緊張が高まる中、60年に1度の巨大な砂嵐が龍門に迫っていました……。

キン・フー監督の『残酷ドラゴン 血闘竜門の宿』(1967)以来の基本プロットを踏襲しながら、新たなキャラクター設定をしていますが、新作の特長が最もよく出ているのはやはり3Dを使ったアクションの数々です。特に英語タイトルにもあるように剣がよく飛びます。3Dは、砂嵐、飛びモノの武器には相当の効果を発揮しますが、狭い場所での動きの速い戦いなどは目がチカチカしてしまいます。だからといって、あまり飛びモノのアクションを多用すると、本当にカンフーがうまい俳優の良さが分からなくなります。武器が飛ぶ部分はCGでできてしまうからです。難しいところですが、さすがはツイ・ハーク、ぎりぎりのバランスを保っていたように感じました。

メガネをかけて動きの激しい映画を120分見続けるのは確かに疲れますが、退屈する場面はまったくありませんでした。後で考えると、「あれはどうなったんだっけ」という、ツイ・ハーク作品らしい疑問はわいてきましたが、やはり毎度ツイ・ハーク作品を見た後の「ま、いいっか、おもしろかったし」という結論に落ち着きました。

出演作が相次ぎ公開のジョウ・シュン

中国の武侠アクション、歴史スペクタクルもいよいよ3Dという時代に入ってきたのでしょうか、新しい時代の訪れを感じさせる作品でした。日本での公開も期待したいところです。そんな中、ネタバレになりますので詳しくは言えませんが、二枚目俳優のチェン・クンが独特のとてもいい味を出しています。そして、ヒロインを演じたジョウ・シュンは日本でもおなじみの女優ですが、この作品でも強さともろさを併せ持つ侠客を、魅力的な演技で表現しています。

昨年の年末年始にはグー・ヨウ(葛優)が3作品に出演、いずれもが大ヒットしましたが、今年はジョウ・シュンが1月12日上映の『大魔術師』にも出演しており、トニー・レオン(梁朝偉)、ラウ・チンワン(劉青雲)との共演でこれもヒットが期待されています。さらに、夏には『画皮』の『Ⅱ』が予定されており、ほかにもトニー・レオンと再度共演する『聴風者』も控えています。2012年は、彼女から目が離せない年になりそうです。

最後に、この作品には歌手のリー・ユーチュン(李宇春)が重要な役で出演しているのですが、彼女が登場すると場内からクスクス笑いが起こりました。『孫文の義士団』(2009)の時もそうだったのですが、なぜなのか不思議です。

映画館の近くには、人文・社会科学系を中心に多くの人材を輩出している名門の中国人民大学をはじめ多くの教育機関があり、学生客も多い 付近には学生街らしくファストフードの店が並ぶ。映画館のある通りの名前も「科学院南路」と学生街らしい

データ
 龍門飛甲(Flying Swords of Dragon Gate)
 監督:ツイ・ハーク(徐克)
 キャスト:ジェット・リー(李連傑)、ジョウ・シュン(周迅)、チェン・クン(陳坤)、グイ・ルンメイ(桂綸鎂)
 時間・ジャンル:120分/武侠・アクション
 公開日:2011年12月15日

映画館の入り口には、上映中、上映間近の「賀歳片」(お正月映画)のポスターが掲示されていた

 UME華星国際影城
 所在地:北京市海淀区楡樹科学院南路44号
 電話:010-82112851
 アクセス:地下鉄4号線人民大学駅B出口から東へ徒歩2分

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2011年12月19日

 

 

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