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ネットも訪日熱?!『囧日之東京大冒険』

 

文=井上俊彦

中国映画を北京市民とともに映画館で楽しみ、そこで目にしたものを交えて中国映画の最新情報をお届けするという趣旨でスタートしたこのコラムも5周年を迎えることができました。中国社会がモノを消費する時代からサービスを消費する時代へと変化する中、この5年間で年間興行収入は130億元から440億元に急拡大、郊外や地方都市にもシネコンが続々開業して全国的に娯楽の定番となりました。その間にネット予約が当たり前になるなど、映画を楽しむスタイルも変化しています。そうした周辺事情も含めて中国社会の発展をよく映し出す映画は、日本人の私たちが中国を理解する一つの窓口にもなると思います。6年めもできるだけたくさんの映画をご紹介したいと思いますので、お付き合いいただければ幸いです。

 

 

3日で330万回見られた動画コンテンツ

ネットムービー事情についてはこの6月にレポートしましたが、その「網絡大電影」に日本人にとって興味深い作品が登場しました。劇場映画で記録的ヒットとなった『泰囧』があるため、『囧日之東京大冒険』というタイトルを見ただけで、こちらの映画ファンはそれが日本旅行をテーマにしたコメディーだと分かります。

上海で働く3人の若者(チェン・レイ、ター・リンフー、ワン・ジンシー)は仕事が忙しい上に、それぞれに奥さんからプレッシャーを受けており、息抜きのため日本旅行を計画します。東京に着いた3人はさっそくナンパしたり、メードカフェに行ったり、大いに楽しみます。ところが、ハメをはずしすぎて歌舞伎町のヤクザに追われることになり、いったんは不思議な女の子・優(矢神久美)に助けられます。そして、逃げる途中で妻たちも東京に来ていることを知った彼らは、彼女たちに知られるよりヤクザにつかまることを選びますが……。

知人から「楽視ネットで、こういうのが公開されるよ」と教えてもらい、公開翌日の24日に見たのですが、私が見た時点ですでに視聴数が120万近くになっていました。新作で有料コンテンツですから、その数字にはちょっと驚かされました。日本人の感覚では、1日に120万人に伝わるコンテンツなど、無料でもそうはありません。改めて中国のネットパワーを感じました。3日後に確認したら330万を超えていました。

中国の若者の日本理解度が分かる

 さて、物語では途中の歌舞伎町ヤクザがらみの展開は荒唐無稽でかなり振り切れていますが、個別のギャグにはそれほど新鮮味はありません。また、物語のおさまりは比較的お行儀よく、健康的です。安心して見ていられる反面、もう少しハチャメチャぶりを見たかった気もしました。

興味深かったのは、中国の若者と日本との距離感です。物語を見ていると、日本旅行が彼らにとって本当に身近になりつつあることが分かります。そして、旅行映画では観光案内的なシーンが盛り込まれるものですが、3人が向かうのは有名景勝地ではなく新宿歌舞伎町で、メードカフェでのエピソードも挿入されています。日本に対する彼らの興味がどこにあるかが見て取れます。

一方、海外旅行映画で気になる言葉の問題では、スマホの翻訳読み上げ機能を使って日本人とコミュニケーションを取るというユニークな工夫がされています。ま、時代と言えばそれまでですが、いちいち通訳をはさまず物語をスピーディーに進める効果も狙ったと思われます。そして、無理に吹き替えをせずに日本人アイドルの声をそのまま使うのは、ネットユーザーのニーズを意識してのことでしょう。ユニークといえば、奥さんに内緒で旅行するためのユニークなテクニックや注意事項(笑)も紹介されていて、このあたりからもイマドキの中国の若者の意識を知ることができます。

そして、製作側の日本理解もなかなかです。正直、これまでの中国映画に登場する日本人は、中国人の抱いている日本人イメージに合わせた人物設計、中国語を直訳したままのセリフなどのため、日本人が演じているのに日本人ぽくなく、言葉遣いも不自然というのが普通でした。この作品はそうした不自然さがほとんどありません。もちろん、コメディーですから登場するヤクザたちが誇張され、現実離れしているなどはありますが。

なお、3人が東京で出会う「女神」は、元SKE48の矢神久美です。セーラー服姿からコンビニの店員姿、旅館の中居さん姿、そして浴衣姿と、着せ替えで中国の若者の目を楽しませています。彼女は全編でナレーションも担当していますが、もちろん全て日本語で話しています。

 

【データ】

 囧日之東京大冒険(Lost In Japan)
 監督:ホー・タイラン(何泰然)
 キャスト:チェン・レイ(陳雷)、ター・リンフー(塔林夫)、ワン・ジンシー(王景羲)、矢神久美(特別出演)
 時間・ジャンル:61分/コメディー、愛情
 公開日:2016年8月23日

 

プロフィール

1956年生まれ。法政大学社会学部卒業。テレビ情報誌勤務を経てフリーライターに。

1990年代前半から中国語圏の映画やサブカルチャーへの関心を強め、2009年より中国在住。

現在は人民中国雑誌社の日本人専門家。

 

人民中国インターネット版 2016年8月26日

 

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