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「赤い輪」

 

北條 久美

久しぶりに家族と夕食を食べに中華料理店へ行ったとき、私は中国とある約束をした。

その日は店の中が混んでいて、家族6人が全員座れるところへ案内してもらうと、赤色で円形のターンテーブル席にやってきた。そこにはすでに2人の親子が座っていて、私たちが入るとちょうど8人席が埋まった。私の隣は少年で、親と何か話している。聞こえるのは、なんと中国語だ。知らない人というだけでも気まずくて緊張するが、外国人となると急に焦ってきた。こんなに近くに中国人がいるなんて初めてのことだったからである。

中国を近くに感じることは日常の中でどれくらいあるだろうか?道を歩いていれば中華料理店、駅には中国語の標識、お気に入りの店には中国産のものが売ってあったり、中国人の客が爆買いをしていたり、店員さんが中国人だったりする。テレビのニュースで中国を耳にすることや、授業で中国語や中国史を学ぶこともある。さらには日本語の漢字が羅列しているのを間違えて中国語だと思って読んでしまうこともあるくらいに、私は中国に毎日触れていると気づくのだが、しかし、中国の人とは直接触れ合ったことがないのだ。

そうこう考えているときに、餃子を食べようとしていたおばあちゃんが、ラー油がないと言い出した。けれど家族は皆、中国人がラー油を使っていることに気づいているからか、誰一人取りになど動かない。隣に座っている私が声をかければいいのだろうけれども、その勇気がなかなか出ない。外国人には話しかけられないと自分で現状から避けるように壁を作ってしまっていた。その時だった。目の前のテーブルが回り始めたではないか。私の前をラー油が通り過ぎていくとき、驚き振り返ってみるとあの中国人親子の笑顔があった。私はほっとし、嬉しくなった。私もその回るテーブルへ手をかけると、家族も一緒になって同じように手をかけ、おばあちゃんの前までラー油を届けた。この時の光景を私は忘れられない。自分と家族、そして2人の親子、全員の手が同じこの赤いターンテーブルをつかんだ瞬間があった。まさに日本と中国が「赤い輪」でつながったように見えたのだ。

帰る支度をしていた親子に「ありがとうございます。」とお礼を言うと、少年が「さよなら。」と、にっこりとした笑顔で返してくれた。そのやわらかな日本語に、私の体は震えた。彼らは私の壁を押してくれ、同時に大切なことを教えてくれたのだ。主観的なステレオタイプをつくり、自分から違う目線で外国人を見てしまう、そんな壁はもういらない。同じ人間という視点で隣に並び、相手と縦ではなく横のつながりをもつ、この輪こそが大切であるのだと。また、テレビなどで見たり聞いたりする噂や情報を頭で理解できても、実際に触れることでしかわからないこともあると気づかされた。それは、その人の笑顔であるように、心で感じる温かいものであった。

今世界では南シナ海問題など、国家間の関係が揺らぎ、日中関係も懸念されている。けれども私は、断じて日中友好が崩れるようなことがあってはならないと思う一人だ。なぜなら、アジアの中心部である日中の友好が深まれば深まるほど、それが世界の平和へと直接つながっていくと信じているからである。世界平和というものは決して簡単でない。時には矛盾が生じ、流動し維持できるものではないだろう。しかし、だからこそ、私は一人の人間とつながることを大切にしたい。心と心とでつながる「赤い輪」を一人一人がつかんで、その輪を回し続ける限り、いつか平和へのチャンスが巡ってくると確信している。

日本にいる私に、中華料理店の赤いターンテーブルが中国とのつながりを考えさせてくれる機会を与えてくれた。日中国交正常化50周年を目指して、私はこれから日中友好のため、中国語の勉強に励み中国人との友情を築いていくと、この「赤い輪」に誓った。

 

人民中国インターネット版2016年9月

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