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中国に活路得た日本のエコ技術

 

沈暁寧 于文=文  単濤=写真

製品の電子回路について討論する張志軍さん(左)と有光博文さん(中)
昨年9月以降の中日関係の急激な悪化により、両国の経済関係は深刻な打撃を受け、日本の自動車の中国における販売は冷え込み、一部の日本企業は中国からの撤退を考え始めている。しかしこのような時にも、依然として多くの日本企業が、中国市場の潜在力と、それによりもたらされる利益を堅く信じており、提携パートナーとの約束を守り、相互に理解し、迷いを捨てて、さらなる発展のための提携モデルを探索している。ここでは、政治関係を含む多くの不利な要素を取り除き、両国企業が同じ舟で共に船出したという素晴らしいストーリーを紹介したい。

生かせぬ新技術 

2013年1月30日、有光博文さん(47)は作業服を着て、テスト器具がいっぱい詰まったカバンを手にさげて、北京国際空港から出てきた。彼を出迎えたのは、北京電通偉業電子設備有限公司社長の張志軍さん(56)だった。20年前、たった一度中国に観光に来たことがあるだけの有光さんは、2012年6月以降は北京空港の常連客となった。彼が毎回来るたびに張さんはいつも自ら出迎えた。簡単なあいさつを交わした後、張さんが待ちきれないといった様子で、「テスト結果はどうでした?」と聞いてきた。

有光さんは、広島にあるセンシンテクノ株式会社の社長である。この会社は、鉛バッテリーの延命・再生技術を開発し、2011年にテストを終え、特許を申請した。自己資金の投資と5年間心血を注いだ製品の生産と販売がもうすぐ実現という時を迎え、有光さんの心は喜びで満ちあふれていた。鉛バッテリーは現在広い分野で使用されている主流製品で、その生産と処理は大いに生態環境に影響を与えるので、使用寿命を延ばすことは環境保護に大きな貢献をすることとなる。しかし、彼が日本政府の補助金を申請すると、意外な結果に終わった。東日本大震災の後、国は大量の資金を被災地に回したため、このような小さな技術への援助は困難だったのである。有光さんはまた、大企業の投資によって研究開発コストを回収しようとし、さまざまな企業を回って歩いたが、効果テストに何カ月もかかるため、これらの企業からも良い返事が得られなかった。さらに、モデル品を作るために、彼は多くの資金を投入したため、最終的に生産コストがかさみ、販売価格が高くなりすぎてしまい、消費者には受け入れ難いものになってしまうことを発見した。このような前途に満ちた新技術を、このまま実験室に眠らせておけというのだろうかと、彼は悩んだ。

そこで、有光さんは希望を中国に求めた。なぜなら、日本企業が中国で工場を設ければ、コストを下げることができるばかりか、広い市場を得ることができ、そうした成功例には枚挙に暇がなかったからだ。彼は中国企業との仲介業務を行っている株式会社CMCを通じて、張さんと連絡をとった。「意外なほどに事はスムーズに進みました」と有光さんは言う。「しかし、相手の企業の規模がどのくらいであるか、そして技術レベルが高いか低いかも知らず、さらに日本では中国市場には多くの不確定要素があると聞いていましたので、ずっと不安なままでした」

北京電通偉業電子設備有限公司(以下は電通偉業と略)は2000年に設立され、道路交通機械、電気設備の設計・開発、生産・製造、設置と改造工事を行う会社である。従業員が100人ほどの中型企業ではあるが、しっかりとした技術研究・開発力を持ち、先進的な製造技術であっという間に頭角を現してきた。首都空港高速など多くの高速道路のETCシステムや、北京、上海など多くの都市の道路信号装置が電通偉業のものである。社長の張さんは技術畑出身で、自ら幾つもの特許を持っている。彼のイノベーション意識は高く、特に国内外のハイテクノロジーに注目しており、米国やスペインの会社とも技術提携を行っている。張さんは鉛バッテリーの再生に関してはあまり熟知していないものの、資料を見るなり、これは中国ではとても将来性のある製品だと感じた。

行き詰まった交渉 

2012年7月、有光さんは会社の技術者を連れて、北京の電通偉業の工場を見学し、現地の技術者と突っ込んだ交流を行った。「張さんは親しみやすく、会社も専門性が高い。信用できると思いました」と彼は語る。2週間後、張さんは有光さんに誘われ、広島への返礼訪問を行い、技術研究開発室を見学し、製品の使用状況を視察した。製品のテスト地点の1つが東広島市消防局で、その非常用電源のバッテリーに、センシンテクノの製品が取り付けられており、それには「5年後に交換」という目立つマークが貼られていた。有光さんによると、このバッテリーはもともと2011年末に交換の予定だった。しかし、センシンテクノの製品を取り付けることで、その後1年半過ぎても依然として正常に動いており、彼は引き続き5年以上は使えるデータがでていると話している。「こういった約束を製品に貼り付けるなんて、その信用と自信は並大抵ではありません」と張さんは感心し、消防局員も、「バッテリー一セットを取り替えるには100万円以上かかるので、これが節約できるのは本当にすごい」と語った。

双方は交渉に入り、その焦点はコア技術譲渡の有無、そして譲渡金の問題に置かれた。改革開放以来、中国は多くの分野で日本と技術協力を行ってきたが、大多数の日本企業は、設備を提供し、生産を指導するが、絶対にコア技術を公開しなかった。これは、中国の工場は最初から最後まで独立生産を実現できないことを意味している。張さんは、日本側のコア技術譲渡が交渉の最低条件で、コア技術がなければ主導権が持てないと考えた。これに対し、センシンテクノの取締役らは難色を示した。

ちょうどこの時、日本国内の大手電子設備生産企業がセンシンテクノに興味を示した。彼らは原子力発電所事故の発生後、日本国内では太陽光や風力による発電が大いに発展し、バッテリーの需要もそれにつれて増加しているため、この技術は必ず広大な市場を開拓できると考え、1回の買い切りを決断したのである。センシンテクノの取締役らはコストの回収が一番の要務だと考えており、この会社のオファー額は大いに利益を上げることができるものだった。また、中国の生産技術が合格レベルに達するものなのか疑問を持つ人も多く、さらに、製品が中国市場で販売された後模倣品が出たらどうするか、中国企業が約束通りにロイヤリティーを払うかなどを心配する声もあった。

それと同時に、張さんの理事会からもさまざまな懸念の声があがっていた。中国国内でいわゆるバッテリー再生技術は非常に多いが、いずれも効果が乏しく、同類の製品の信用度が低いので、市場開拓の難度が非常に高いのではないか。また、日増しに緊張を増す中日関係が協力の中断を招き、料金は払ったのに技術をもらえないこともあるのではないか。こうして、交渉は膠着状態に陥った。

トップ会談で決断 

張さんと有光さんはある時、二人だけで協議を行った。双方は誠意を持って各自の懸念と協力に対する期待を伝え合った。その結果、有光さんはコア技術を全部譲渡し、電通偉業によって中国で特許を申請し、その譲渡金は日本の電子企業が提示したわずか3分の1だが、その代わり、利益から一定の割合のロイヤリティーを受け取るという決定を下した。有光さんがその決定を発表した時、取締役たちは騒然とし、理解できない、支持しないという声があがって、ほとんど口論にまで至った。有光さんは反対の声を顧みず、提携協議書にサインした。

有光さんにこの決断を下させたのは、張さんの以下のような言葉だった。「中国における自動車保有台数は1億台を超え、電動自転車数も1.4億台を超えました。そして、急速に発展している通信や有線テレビ基礎施設などの領域は、どれも鉛バッテリーなくしては語れません。3億余りの電池を生産するためにどれほどの汚染がもたらされるか、そして3億個を処理するにどれだけのお金がかかるのか、考えてみてください。広大な市場がわれわれの目の前にあることは言うまでもないでしょう」

張さんが中国市場の魅力と実力を一言で喝破した通り、最近のAP通信の報道によると、今や中国は米国を超えて、世界の大多数の国・地域の主な貿易相手国となっている。中国共産党第18回全国代表大会報告では、2020年までに、国民所得を倍増させるとの目標が示された。その時には、64兆元の購買力が生まれるはずだ。広大な内需市場は中国ないし世界における経済発展持続の新たな原動力となるだろう。日本企業の一部は東南アジアに目を向け始めているが、日本の海外貿易の研究者も率直に語っているように、「中国は比較的合理的な工業産業構造と完全な産業チェーンを持っています。例えば、東南アジア諸国で加工した製品は完全なシステムによる支えがありません。それに対して中国では、研究開発、部品、包装、物流などのシステムが完備した開発区をたやすく見つけることができます。東南アジアの小さな国で工場を建設し、わずかな部品のために頻繁に税関を行き来するより、中国の効率的な資源配置というメリットを生かしたほうが得策といえます」

2012年9月、譲渡金の一部が有光さんの会社の口座に送金され、電通偉業の工場で製品試作が始まった。万事が順調に進んでいるその時、人々の懸念はまさに的中した。9月11日、野田政権が釣魚島の国有化を宣言し、中日関係が急速に悪化したのである。それがため、多くの日本企業が中国との提携プロジェクトを中止し、資金の引き上げ、工場の閉鎖を考えることとなった。両国の人的往来はさらに困難になった。このまますべてが停止してしまうと、張さんの試作品は日本でのテストと認証を受けられなくなり、廃物同然となり、投入した資金も全部水の泡になってしまう。同時に、有光さんも残りの譲渡金が回収できるかどうかを心配していた。そのため、双方はすぐに協議を行い、引き続き提携プロジェクトを推進してゆく意思を確認し合った。

試作品の細部を確認する中国側技術者の李さん(左)と有光さん

明るい未来 

何カ月にもわたる努力によって、電通偉業が自主生産した鉛バッテリー再生機は日本側の技術指標に達し、中国での特許も申請し、商標と認証を受けた。間もなく日本での認証を受けるところだ。

2013年春節(旧正月)の直前、有光さんは再び北京へやって来て、技術の細部を確認し、張さんと日本での販売協力について検討した。張さんに盛大な年次総会への出席を誘われ、会社の一員として歓迎を受けた。「今でも盛んに報道されている反日デモの記事を読んで、北京へ来るのは安全かどうかずいぶん心配しましたが、来てみて感じたのは繁栄と活力です。貴社に来ると、まるで自分の家に居るかのような気がします」と、有光さんが言った。

「中国の新しい指導部はより一層環境保護と科学技術を重視しています。国家発展において、エコ文明建設はひとつの要務とされ、科学技術革新が国家発展の中心に置かれています。国は国際的な視野で技術革新を図り、促進しています。さらに何か別の技術があれば、すべて中国で根づかせることができますよ」と、張さんは嬉しそうに有光さんに言った。

 

人民中国インターネット版 2013年5月

 

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