『南京写真館』を見て考える――加害責任、戦犯処遇、そして日中不再戦
元航空自衛官、軍事ジャーナリスト 小西誠
今、中国で大変話題になっており、反響を呼んでいる『南京写真館』を、私は9月中旬、北京で見ました(英語字幕版)。そして9月17日には、中国大使館での上映会・シンポジウムに招かれ、日本語字幕版を見ました。
映画は、南京大虐殺の歴史をリアルに描いた、とても心を揺さぶられる作品です。しかしこの映画を見ていて、日本人である私にはどうしても辛いものがありました。もちろん中国の人々にとっては、私たちとは比べられないはるかに辛いものであることは言うまでもありません。
見過ごされてきた「加害責任」
なぜ私が辛かったのか。
一つには、この大虐殺を実行したのが、私の父親世代であったこと、その父親世代がこれほど残酷な仕打ちを中国の人々に対してなぜ行ったのかという問いが、あらためて突きつけられたからです。
しかしそれ以上に辛いのは、「南京大虐殺はなかった、存在しなかった」とする「歴史修正主義」が、日本社会にまん延しているという事実です。
この歴史修正主義がまん延してきた理由について、私は以前から考えてきました。その一つは、アジア太平洋戦争における「加害責任」の軽視にあります。
今年は戦後80年ということで、メディアは数多くの戦争特集を報じています。しかしそのほとんどは、原爆や東京大空襲などを含めた日本の「被害」を強調する報道ばかりで、「加害責任」に触れる報道は皆無に近い状況です。
私はいわゆる「団塊の世代」「全共闘世代」にあたりますが、私たちの世代は当時からあの戦争のアジアへの「加害責任」を問うてきたつもりです。それにもかかわらず、この視点は次第に後景化してしまい、日本社会全体に浸透させることができませんでした。
知られていない戦犯処遇の事実
もう一つの問題は、日本人がこの「加害責任」の自覚がないままに、「日本軍戦犯」たちがどのように処分されてきたかという基本的な事実さえほとんど知らないことです。
『南京写真館』のラストシーンは、南京の日本軍責任者である陸軍師団長ら4人の処刑場面で終わっています。この師団長らの処刑は、1947年に蔣介石政権のもとで行われました。
一方、中華人民共和国の成立は1949年10月ですが、中国共産党のもとでは約1000人の旧日本軍戦犯を一人も処刑しませんでした。まったく処刑しなかったどころか、すべての戦犯を無事に日本へ還したのです。ところが、この寛大過ぎるほどの寛大さを、ほとんどの日本人が知らないのです。
ひるがえって、米英などによる東京裁判をはじめ、フィリピン、シンガポールなどの軍事法廷では、旧日本軍戦犯約1000人(A・B・C級戦犯、日本軍に徴兵された「朝鮮人兵士」を含む)が処刑されました。
では、なぜ中国共産党は戦犯を処刑しなかったのか。この中国の「超寛大さ」の背景には、戦後の日本との関係について、平和的な関係を築きたいという、強い願いが込められていたのだと思います。当時の金額でも約1000億ドルとも言われる戦争賠償金の放棄もその一環です。
さらに付け加えるなら、周恩来首相など日本に留学した人々は、日本社会の二面性を深く認識していたのではないでしょうか。あの戦争下に治安維持法で逮捕された日本人は約10万人にのぼります。また、中国大陸で「日本人民反戦同盟」や「日本人民解放連盟」を結成して日本軍に戦争反対を呼びかけた日本人・日本軍兵士たち(中国帰還者連絡会や鹿地亘など)も存在しました。こうした人々を中国軍は、絶大な好意をもって迎えていたのだと思います。
「日中不再戦」の旗を掲げるために
さて今、日本では「台湾有事」の口実の下、九州―沖縄―琉球列島のミサイル基地化(「敵基地攻撃能力」)が急ピッチで進められています。再び日米による対中国への戦争態勢づくりが策動されていることは明らかです。
しかしこの戦争態勢は、日本がNOと言う限り現実のものとはなりません。日本が米軍に基地を「有事提供」しない限り、戦争は起こりえないのです。また、「沖縄―九州のミサイル基地化」に対してNOと言い続ける限り、それは起こりえません。
今必要なのは、日中平和友好条約に基づく日中の「平和共存の原則」です。すなわち「日中不再戦」です。この旗を、今こそ強く、高く掲げていきたいと思います。
高市「台湾海峡有事への武力介入」発言とレーダー照射問題
そして、この間の日中問題に付け加えるべき重大な事態が生じました。高市首相の「台湾海峡有事への武力介入」発言問題です。この国会という場での高市発言が、1972年の日中共同声明、1978年の日中平和友好条約などで合意した「一つの中国」を否定し、なんと日本が「台湾海峡有事」へ「存立危機事態」として軍事介入し戦争を行うという、とんでもない、恐るべき主張です。
この高市発言は、残念ながらすでに自衛隊が強力に推進している対中国への琉球列島のミサイル基地化=南西シフト態勢の公然とした宣言に他なりません。そして、この状況は自衛隊による中国軍演習への威嚇・介入としてさらに進み始めています。
中国軍が自衛隊に正式に通告し、西太平洋で行っている演習に航空自衛隊戦闘機がスクランブルをかける、これは紛れもなく自衛隊による中国軍への軍事的威嚇であり、妨害です。航空自衛隊の「領空侵犯による措置」という法律上の権限は、演習を通告し、公然と飛行を行っている国に対して行うのではなく、日本に向けて全く不明の飛行を行ってきた航空機に対して取るべき措置です。
こうした自衛隊による中国軍演習への妨害は、エスカレートし、常態化しています。その重大な行動が、2024年7月の中国領海内での海上自衛隊の領海侵犯事件です。中国海軍の警告を受けても公然と領海に侵入し、演習の妨害を行うという事態でした。これは米国による台湾海峡での「航行の自由作戦」と一体化した、中国への挑発行動の一環です。
いずれにしても私たち日本の国民は、政府や自衛隊による中国への軍事的エスカレート―戦争行為に発展しようとする事態を絶対的に止めるための世論を創りださねばならない、重大な時に来ています。
あえて繰り返します。あの中国への侵略によって膨大な犠牲を中国人民に強いてしまった歴史を再び繰り返すのは、決して許されることではありません。
人民中国インターネット版