ポンフェイ先生の旅アドバイスF
「面食」と「酷男」にびっくり

中国の「人体写真」(人物写真)

  中国には何回も行ったが、一度も中国の銭湯に行ったことはない。中国には銭湯があるか。 

  もちろんある。上海で話題になっているのは「雲都温泉浴場」(滬青平公路268号、電話・上海021―6421―7878)、「小南国日式温泉浴場」(虹梅路3337号、電話・上海021―6465―8888)。いずれも日本にはない広い浴場だ。 

 「雲都温泉浴場」では広い畳の部屋で中華料理を食べることもできる。けっこう日本の大浴場の影響を受けている。「小南国日式温泉浴場」は「雲都温泉浴場」より新しい。驚いたのは日本と同様「男湯」「女湯」と書かれている(中国語では本来「男浴室」「女浴室」という)。子どもの遊び場もあり、卓球やマージャンもできる。一日、ゆっくりできるように作られている。

 両店とも値段は600円程度で手頃。マッサージはもちろん、垢スリ、耳そうじまでもある。特に「足の手入れ」(中国語では「修脚」という)は日本では体験できないので、おすすめする。革靴をよく履く人は足裏のたこ、がさがさを手入れしてもらえば、足がいっぺんに軽くなる。

 何よりもうれしいのはあつあつのお湯だ。旅で疲れた身体と心がゆったり、のんびり、ほぐれていく。

  中国のレストランでメニューを見ると、「刺身」の文字がまず目に飛びつく。「刺し身」は中国語で「生魚片」というが、「刺身」も通じるか。

  「さしみ」のことを「刺し身」と書くのは確かに日本語である。近年、一部のレストランで「刺身」が使われるようになった。しかし、まだ中国語としては定着していない。日本料理店が増えるにつれ、「料理」という語も中国人によく知れわたっている。中国語として認められるのも時間の問題だ。

 ここ数年、日本語の漢字が中国で流行している。「写真」のことは通常、中国語で「照片」「相片」というが、近年、「拍写真」(写真をとる)、「写真集」「写真館」「人体写真」(人物写真)、「写真冊」(写真アルバム)のように、中国でよく使われるようになった。

 そのほか、「痩身」「営業中」「〜族」「居酒屋」などもそうである。

  同じ漢字の国なので、中国で旅するとき、看板や広告の漢字を見るのも楽しい。観光バスから、「家教」と書かれている看板を見たことがあるが、これはどんな意味なのか。辞書を調べたら「しつけ」と書いているが、なぜ看板に「しつけ」と書くの ゥ。 

  「家教」は本来は確かに「しつけ」の意味である。「しつけが悪い」ことは中国語では「家教不厳」という。しかし、ここ20年、「家庭教師」の略語として「家教」の語が使われるようになった。香港や台湾から伝わってきたのかもしれない。看板に書いたのは「家庭教師」派遣の広告か、教え子を募集する広告かもしれない。

 観光客がよく驚くのは「面食」。これは「面食い」の意味ではない。「めんの専門店」の意味である。「酷男」は「残酷な男」の意味ではなく、「かっこいい男」の意味である。「股民」は「株を買っている人(個人投資家)」、「AA制」は割り勘の意味、「休閑」は「レジャー」の意味である。中国旅行で驚いた漢字、おもしろい漢字、それにまつわる笑い話、愉快な誤解があれば、教えてください。

 ※新型肺炎SARSの影響で、中国旅行のキャンセルが相次いでいます。一日も早く、事態が終息することを願っています。


 彭飛(ポンフェイ) 中国上海生まれ。上海復旦大学卒業。1993年、大阪市立大学文学部で文学博士号を取得。現在、京都外国語大学助教授。旅関係の本に『中国旅行ハンドブック』(DHC)、『海南島をゆく』(PHP)、ほかに『大阪ことばと外国人 例文中国語・英語訳つき』(中央公論新社)など、著書多数。