知っておくと便利 法律あれこれO     弁護士 鮑栄振
 
 
 
 
 
氏名変更が認められるには

 先日の報道によれば、中国で最多の氏名は「王涛」で、「王涛さん」は10万人を超えるという。中国の13億の人々に常用されている苗字は2000余りで、常用されている名前は3000余りしかない。その結果、同姓同名の中国人がいっぱいいるのだ。

 世の中には、変わった氏名の人もいる。珍しい苗字は、時として由緒ある家柄を彷彿させたりもするが、場合によっては日常生活で、著しい不便が生じることもある。また、現在の氏名では、生活上、非常に不都合だという人もいる。

 遼寧省盤錦市在住の苟さんは、現在の苗字で悩んでいる一人だ。苟が「狗」(犬)と同じ発音なので、小さいときは「小狗」と呼ばれ、大人になってからは「老狗」と呼ばれてきた。イヌ年の今年に入ってからは、彼の悩みはいっそう深刻になった。

 かつて、熱心な隣人が、当時26歳だった苟さんに、見合いの相手を紹介したが、話を持っていった数人の女性はみな、「苟」という苗字を聞いただけで、見合いを拒否した。つい最近、苟さんとしばらく交際していた恋人も、苟さんの苗字をめぐるさまざまな風評に耐え切れず、分かれてしまった。

 苟さんは、苗字変更をする決意を固めた。だが、戸籍管理機関である公安局の担当者から、苟さんの年齢と変更したいという理由では、その苗字の変更は認められないと言われた。

 苟さんのような苗字の変更を希望するケースは少なく、ほとんどは名前の変更を希望するケースだ。しかし、名前の変更も、成人の場合はなかなか認められない。

 最近、人々の権利意識が高まり、これに伴って氏名の変更をめぐる紛争事件が発生している。そのうち、マスコミで大きく取り上げられ、インターネットで全国的に論争を巻き起こしたのは、上海在住の定年した教師、王さんの、日本人氏名への改名だ。

 王さんは、再婚した夫の日本人継母から、あなたは柴岡家の唯一の嫁であり、「柴岡英子」と名乗るよううるさく言われ、「柴岡英子」と氏名変更する決意をした。所在地の公安派出所に申請したが、関係する法令の定める氏名変更が認められる理由に該当しないとして、不許可決定を受けた。

 そこで自己の「氏名権」を守ろうと、裁判所にこの不許可決定の取消しを求めた。しかし敗訴してしまった。

 インターネットの掲示板では、王さんの行為は「文化的アイデンティティーや歴史的帰属感に欠け、中国の文化や歴史を裏切った」という批判がある一方、「日本人の肉親もいるから、氏名変更は法により認められる権利ではないか」と同情する見解もあり、賛否両論だった。

 中国では、個人の「氏名権」について、『民法通則』や『戸籍登記条例』などが主に規定している。『民法通則』第99条は、「公民は、氏名権を有し、自己の氏名を決定、使用及び規定に基づいて変更する権利を有し、他人の干渉又は盗用は許されない」と規定している。「氏名権」には氏名変更権等の権利が含まれる。

 「氏名変更権」については、『戸籍登記条例』第18条で、18歳未満の者が、その氏名を変更する必要がある場合には、本人あるいはその父母、養父母が戸籍登記機関に変更登記を申請し、18歳以上の者は、本人が変更登記を申請すると規定している。

 ところが、公安部の「戸籍登記条例の執行に関する初歩的意見」は、18歳以上の者がその氏名を変更する場合には、適当に抑制しなければならない、十分な理由がなければ、簡単に変更を認めてはならない、と規定している。

 「十分な理由」とはなにかについては、国の法令に明確な規定はないが、地方ごとにそれぞれ、関係するその地方の法規に、氏名変更を認める理由をある程度、規定している。

 『上海市戸籍管理暫定規定の執行に関する実施意見』では、18歳以上の住民で、戸籍登記の際に誤ったり、同姓同名の人が多すぎて勤務上、生活上、不便であったり、氏名の漢字の発音が人格を侮辱する言葉の発音に似ていたりした場合に、氏名変更を許可するとされている。

 最近制定された深セン市の法規は、時代の流れを反映している。『深セン市公安局氏名変更登記手続規定(試行)』は、氏名変更不許可の理由の1つとして、「不良な信用記録がある場合」が掲げられている。すなわち、債務を踏み倒した経歴のある人は、氏名変更が認められないのである。

 


 
 
鮑栄振
(ほう・えいしん)
 中国弁護士。毅石律師事務所北京分所所属。86年、佐々木静子法律事務所にて弁護士実務を研修、87年東京大学大学院で外国人特別研究生として会社法などを研究。
 





 
 

 
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