少年野球の交流で友情を築く
                                            于文=文・写真


 中国で、子供たちのために野球教室を開き、中日両国の子どもたちの交流を進めているNPO(非営利組織)がある。このNPOに招かれて中国の小学生チームが訪日し、日本の子どもたちと交流試合をした。すでに3年近く続けられてきたこの交流の中で、中国の子どもたちのわだかまりが次第に解け、相互信頼と友情が育まれつつある。

アニメが現実になった野球

中国人民対外友好協会の李小林副会長(左)から記念品を贈られた久米信廣さん(写真・牧田司)

 このNPOは「RBAインターナショナル」という。「RBA」は「Reform By Action」の頭文字をとったもので、青少年の健全な育成と国際人養成のための国際交流を行う団体だ。2000年4月、特定非営利活動法人として認可された。

 理事長は久米信廣さんで、広告会社「第三企画」の最高経営責任者・社長。RBAのすべての活動経費は、久米さんが経営する企業が負担している。

 現在の中国では、野球はまだ、あまり普及していない。北京市にある1400余りの小学校で、野球チームをもっているのは15校しかない。しかもその多くは、野球のうまい子を優先入学させているので、一般の子どもたちが野球に接触する機会はきわめて少ない。

 資金が足りないことも、野球がなかなか普及しない原因の一つだ。北京オリンピックが近づくにつれて、多くの企業がプロの野球チームに寄金を出すようになってきたが、それでも、野球の普及のための資金は依然、不足している。

中国の少年野球チームの代表に、野球用品を贈る久米信廣さん(左)

 RBAの交流活動は、北京の小学生たちに、野球を実際に体験する貴重な機会を提供した。北京大学と清華大学の附属小学校に開設された野球教室には、日本から野球選手が来て、直接、プレーのテクニックを教えている。

 RBAが寄付した野球用品で「完全武装」した子どもたちは、打撃や投球、捕球の動作を練習している。中国の子どもたちにとって野球は、日本のアニメでしか見たことがなかったが、アニメのシーンが現実のものになったのだから、みな興味津々だ。現在、両校とも、全校児童が野球を体験するカリキュラムを開設した。これによって、両校の野球チームのレベルも大いに高くなった。

 RBAがこの活動を始めたのは、野球の好きな久米さんが「中国でお金を儲けるのではなく、中国の子供たちのために何かをしたい」と考えたからだった。久米さんは「古代の日本は、政治体制や文化など、その多くを中国から学びました。だから今度は、日本の野球を中国に普及させ、子どもたちといっしょに楽しみを分かち合いたい」といっている。

 野球による交流活動の中国側の主催者、中国人民対外友好協会の李小林副会長は「久米さんとRBAからの支援は無私のもので、私たちはこうした着実な交流を必要としています」と評価している。

スポーツが意識を変える

東京ドームを訪れた清華大学附属小学校の野球チーム(写真・牧田司)

 この数年、中日関係はずっと難しい状態に陥っている。今年初め、日本の内閣府が行った世論調査によると、アンケートに答えた1756人の中で、中国に好感を持つのは、わずか32.4%しかなかった。これは、内閣府が行ってきたこれまでの世論調査の中で、最低の数値である。

 中日両国の国民の間に、信頼できないという感情が出てきている。しかし、互いに非難したり、成り行きに任せたりしていては、問題を解決できない。だが、スポーツには言葉が要らないし、スポーツによって楽しみがもたらされるというのも万国共通だ。スポーツは人の意識を変え、相互理解を深めるきっかけになる。

 3年近く続けられてきた野球交流の中で、こんなことがあった。

 このNPOのメンバーである関根綾子さんは、日本企業の野球チームに同行して2回、中国にやってきた。あるとき、野球練習中に、ボールが小さな女の子に当たってしまった。女の子は泣き叫んで、いつまでも泣きやまなかった。関根さんはすぐに走っていって、女の子を抱きかかえ、ずっと慰め、あやし続けた。無論、女の子は、関根さんの話す日本語が分からない。でも、お姉さんの優しい眼差しを見て、もう怖くはなくなった。涙を流していた顔に微笑みが浮かんだ。そしてついに女の子は、関根さんと特別に親しくなった。

RBAインターナショナルの野球選手が、北京で中国の子どもたちにボールの投げ方を指導した

 「心と心をじかに交わらせることが、人と人とのもっとも純朴で、もっとも有効なコミュニケーションの方法ではないでしょうか」と関根さんは言っている。

 清華大学附属小学校の野球チームの20人は、RBAの招きで昨年6月、日本を訪問した。それに参加した11歳の徐劭陽君は、日本に着いて最初に書いた日記に、「僕は日本に好い感じを持っていない。今回の訪日は、練習だけに専心しよう。日本人との交流には興味がない」と書いた。

 ところが、日本の成蹊小学校や学習院初等科の同じ年ごろの子どもたちと交流する中で、英語と漢字を使って自分の故郷や野球練習で得たものを紹介するうちに、仲良くなった。そうなるまで、時間はあまりかからなかった。

 徐君は、日本の子どもたちの礼儀正しさに深く感銘を受けた。そして日記にこう書いた。「帰国する日がまもなくやってきますが、名残は尽きません。今回、日本の友だちと交流して、日本に対する印象は大いに変わりました」

信頼構築には時間がかかる

 現在、RBAはすでに、中国と野球交流を定期的に行うことにしている。今年の秋には、日本から3度目の訪問団が北京を訪れる。同時に、北京大学附属小学校の野球チームを東京へ招いて、日本の小学校野球チームと親善試合を行う予定だ。

中国の少年にバッティングを教える日本の野球選手

 その他、今年の新企画として、中国の大学で野球教室を開設することにしている。大学の野球のレベルを向上させるとともに、交流の範囲をさらに広げたいと、久米さんは考えている。「そう遠くない将来に、北京でも『早慶戦』のような、人気のある大学対抗の野球のゲームが行われるようになるかもしれない」と、久米さんは自信満々だ。

 今年の6月には、RBAは、ユネスコがモンゴルで開催する音楽祭に、一部の中国の学生が参加するのを資金援助する。ユネスコの駐北京代表処の総代表、青島泰之さんは「人と人、国と国が信頼関係を築くには、10年、20年の歳月が必要です。日本と中国が相互に理解し、相互に信頼する友好関係を打ち立てるために、RBAの皆さん、中国人民対外友好協会のみなさん、さらに多くの人々の、たゆまぬ努力を期待しています」と言っている。



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