東北振興を引っぱる「五点一線」構想
 

 「五点一線」――まだあまり知られていないが、中国の東北振興の鍵を握るとも見られる構想が動き始めた。「五点」とは、黄海と渤海に面した5カ所の重点発展区であり、「一線」とはその海岸線を貫く海浜道路である。

 遼寧省は今年2月、『沿海重点発展地域の対外開放拡大に関する若干の政策についての意見』(若干の政策に関する意見)を発表し、「五点一線」の建設を正式に打ち出した。

 「五点一線」とは、どういう構想か、現場はどうなっているのか、その持つ意義は何か――本誌の王衆一編集長と日本貿易振興機構企画部の江原規由・事業推進主幹がこのほど、それぞれ遼寧省を訪れて、関係者から取材した。これはその結果を報告する。


黄海沿岸の開発現場を見る
                                                                                           王衆一=文

  「五点一線」という開放的な経済構造をつくる構想は、東北にある古い工業基地を振興する国の戦略の実施にその端を発している。2004年に、東北アジアにおける重要な国際航空センターを大連に建設することが、渤海沿岸の重点地区の大開発や環渤海海浜道路の建設などの開放的な思考を引き起こした。

   古い工業基地の振興と沿海の開放という二重のチャンスに直面して遼寧省が出した『若干の政策に関する意見』は、環渤海地区の開放促進を基礎に、黄海地区の開発をいっしょに開放経済構造の中に納めるよう提起した。こうして、遼寧省のすべての沿海地区を網羅し、黄海、渤海の5カ所の重点発展区域と全省の海岸線を貫通する一本の海浜道路を建設するという「五点一線」の構想が、はっきりと浮かび上がってきたのである。

恵まれた沿海の土地資源

 「五点」とはどこを指すか。(地図参照)

 渤海側では

 @遼西錦州湾沿海経済区(錦州西海工業区と葫蘆島北港工業区を含む)
 
 A遼寧(営口)沿海産業基地

 B大連の長興島の臨港工業区
 
 黄海側は
 
 C大連の荘河花園口工業園区
 
 D遼寧丹東産業園区

遼寧省の李万才副省長は、日本で、経団連の御手洗富士夫会長(右)と会見した(遼寧省新聞弁公室提供)

 「一線」とは、西は葫蘆島市の綏中県から東の丹東の東港市までの全長1443キロの海浜道路で、5カ所の沿海重点発展区域を含む全省の沿海地区を結び、開放経済を大いに促進する。

 瀋陽で取材に応じた遼寧省の李万才副省長は、遼寧省が地理的にも土地資源の面でも優位性があることを強調した。李副省長の説明によるとこうだ。

 まず東北地区について言えば、沿海にある遼寧の港が東北三省の大部分の輸出入を引き受けているところに遼寧の優位性がある。また全国的に見れば、海岸線に多くの干潟や塩田の跡地があり、ここは、外国の産業を迎え入れることのできる、めったにない貴重な資源があり、ここに土地資源の優位性がある。沿海の経済ベルト地帯につくられる5カ所の重点発展区域の総企画面積は374平方キロに達し、そのうち当初計画面積は140平方キロを超す。

 そして李副省長は、国内の一部地区の土地資源が、日増しに経済発展にとってボトルネックになってきていることが明らかとなっている今日、遼寧の港に近い海岸線の「黄金地帯」に設計された数百平方キロの開放された空間は、沿海の重点発展区域が対外開放の拡大を促進する優遇政策の実施とあいまって、国内外の投資家から特に注目されている、と楽観的に見ている。

本誌の取材を受ける丹東市の于懐楽副市長(右)(写真・朴成哲)

 李副省長の話には根拠がある。彼はこの4月、遼寧省の経済貿易代表団を率いて日本と韓国を一週間訪問し、宣伝と推薦、紹介活動を行ったが、日本でも韓国でも非常に熱心に受け入れてくれたことを、自ら体験したからである。

 『朝日新聞』は、この代表団の訪問前夜、このニュースを大きく報道し、「五点一線」について紹介した。代表団は、日本では東京と大阪で、韓国ではソウルで、「遼寧省沿海重点発展区域説明会」を開催したが、招待状をだしていない多くの人がやってきて、参会者は予定人数をはるかに上回った。例えば東京では、150人を予定していたが、実際に来た人は360人に達した。

 日中経済貿易センターの谷井昭雄会長や日本国貿促の中田慶雄理事長は、沿海経済ベルト地帯の戦略構想に反映されている開放の更なる拡大に対する決意と気迫を賞賛した。関西経済連合会の秋山喜久会長は、なるべく早く大阪地区の中小企業を組織して遼寧省を訪問し、5つの重点地区を視察したいと表明した。

 韓国の優秀中小企業連合会の会長も、四十数人の代表団を率いて遼寧省を訪れ、「五点一線」を視察したいと言い、STX造船も、営口と葫蘆島を訪れて、造船の組み立てプロジェクトを視察したいと表明した。

国境の特性生かす丹東

本誌の取材を受ける遼寧省の李万才副省長(右)(写真・朴成哲)

 こうした大きな構想の下で動き出した「五点一線」の現場はどうなっているだろうか。「五点」の一つ、黄海に面した丹東を訪ねた。

 鴨緑江の河口にある東港から丹東市内を鴨緑江に沿って北上すると、約10キロで、「遼寧丹東産業園区」の建設予定地に着く。道路はまだ整備されていないのでややデコボコだが、鴨緑江沿いにはすでに高級な住宅ビル群が建ち並んでいる。この一帯が「五点」の一つになったため、商機がたかまり、ビルの値段もウナギのぼりだ。

 丹東市は朝鮮の第二の都市である新義州と河を隔てて互いに望むことができる。近年、朝鮮経済の需要の増加につれて、中朝二国間貿易は絶えず増加し、鴨緑江に架かる鉄橋上を、たえずトラックが往復しているのが見える。

 当然、韓国との経済交流はさらに多い。丹東市内では韓国語で書かれた商店の看板がいたるところにあり、一つのストリートすべてが韓国商品を商っているところもある。朝鮮側が経営するレストランと韓国側が経営するレストランが平和共存し、この国境の都市に、独特な風景を作り出し、彩りを添えている。

 丹東は、東北の重要な交通の要衝である。鉄道は、朝鮮の平壌まで220キロ、韓国のソウルまで420キロ。丹東港は韓国の仁川港までわずか245カイリしかなく、韓国や日本と結ぶ重要な海の玄関である。

丹東市の鴨緑江沿いの一帯は、新しいビル群がそそり立っている(写真・王衆一)

 国内交通も四方八方に通じ、瀋陽―丹東、瀋陽―大連を結ぶ高速道路は、丹東と瀋陽、大連を往来する時間を大いに短縮した。

 丹東市の于懐楽副市長は、丹東が将来、発展した姿をこう定義している。それは、「東北東部の近代化された沿海港湾都市」になることであり、また「東北東部の地域的な物流センター」になることであり、最終的には「製造加工業、特色ある農業、電力資源」の三大基地を形成し、「自動車とその部品、電子情報、農産品加工、紡績服装、医薬化学工業、製紙と紙製品、電力および観光業、物流業などを重点とする近代的なサービス業」の8つの重点業種を完備することである、と言う。

 2005年に丹東市は、16.3%の経済成長率を達成した。しかし于副市長は、冷静にこう指摘した。「現在、丹東は遼寧省に14ある地区クラスの市の中で、第9位でしかない。東北東部の内陸部により良いサービスと発展のチャンスを提供するために大いに産業構造を改革し、同時に大いに交通を整備しなければなりません」

 「もっと重要なことは、引き続き開放を拡大することです。電子産業の分野では、丹東はずっと、三菱電機、アルプス電気、コニカミノルタなどの日本企業と良い協力関係を保って来ました。丹東産業園区の設立にともなって、日本を含む外資とその技術、管理の経験がさらに丹東に入ってくると信じています」と于副市長は述べた。

新農村の建設と結びつく荘河市

花園口新区は、建設当初から、緑化などの環境に気を配っている(写真・王衆一)

 黄海に面したもう一つの「五点」である大連荘河花園口工業園区を訪ねた。

 荘河市は、大連市の下に属する地 諠Nラスの市であり、「五点」の中で、その行政的地位はもっとも低い。大連開発区から西へ80キロのところにあり、北の瀋陽とは330キロ、東の丹東とは80キロの距離にある。

 花園口工業園区の25平方キロの土地は、元は国有の塩田で、2003年に、荘河市政府が大連市政府から買い取った。現在、この一帯は泥沼の状態だが、整地作業やインフラ工事が終わりに近づいている。建設しながら誘致する、という方針で、すでに24の国内外の企業の進出が決まっており、すでに7企業が操業を始めている。

 荘河市の董呈発市長は「荘河はこのチャンスを生かして東北振興を先導する役割りを果たしたい。と同時に、新農村の建設問題をも考慮しなければなりません。ここを、農村の都市化のモデルにし、産業を発展させることによって、さらに多くの農業人口を労働者に転換し、就業ゼロの家庭をなくさなければならないのです」と、工業園区の建設を新農村建設と結びつけて進めることを強調した。

 また、工業園区の鞠伝キン主任は、園区の将来像に関して「2010年までに、ここに人口8万のエコロジー型の小工業都市を建設する」と述べた。実際、園区の建設工事現場で、エコ都市の構想の第一段階はすでにある程度、意識されており、園区の緑化や街路中央の緑地がすでに、整地された埋め立て地に出現している。


  本社:中国北京西城区車公荘大街3号
人民中国インタ-ネット版に掲載された記事・写真の無断転載を禁じます。