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時代劇大作、低コスト、作家主義映画……
百花繚乱の今年の中国映画
                                                                                       高原=文

  2006年は中国国産映画市場にとって、豊作の一年であった。この一年には『夜宴』『満城尽帯黄金甲』といった時代劇映画大作あり、『理髪師』『雲水謡』といった主流系ラブストーリーあり、さらに低コストでめざましい興行成績を記録したダークホース『クレイジー・ストーン』……映画の多様性、クオリティー、そして興行成績、いずれもここ数年稀に見える高水準に達し、中国映画復興の希望の光が見えてきた。

時代劇大作がリード

 年頭の『プロミス』から『夜宴(バンケット)』、そして年末の『満城尽帯黄金甲』に至るまで、時代劇映画は年間を通じて風を切って走り続けた。映画評論家が、大げさすぎるスタイルの割りに内容が貧弱でクリエイティブに欠けると批判する声も高かったが、観衆の熱情は変わらなかった。

   『夜宴』を例にとってみると、この豪華な時代劇のプロットは取り立てていうほどのものではなく、話の背景を中国の五代十国(907〜960年)の時代に変えてはあるものの、シェークスピアの『ハムレット』をほぼそのまま引用したものである。しかし、国内トップレベルの監督(馮小剛)に、多くのトップスター(章子怡、呉彦祖など)、ゴージャスな古代の衣装、剣の舞いの優雅なシーン、寂しげなムードの漂う『越人歌』……こうした「中国的要素」は、観衆にこのうえなく新鮮な印象を与えた。これまではアメリカの商業映画ばかりで、ほとんど欧米的な文化的コード――十字架、天使、キリスト教徒があふれていたといっていい。しかし、こうして今「中国的要素」がもたらす美感を「大作」で観賞することがかない、観衆は非常に親しみや誇りを感じ、中国映画に夢中になっている。
 
  こうして、『夜宴』は一般に映画のオフシーズンといわれる9月になってから依然として一億元に達するという驚くべき興行収入を挙げた。今後数年、時代劇大作映画は引き続き国内で盛り上がっていくことが予想される。
 
 おすすめの映画 『プロミス』『夜宴』『満城尽帯黄金甲』

『クレイジー・ストーン』 思いがけぬ喜び

 『夜宴』『満城尽帯黄金甲』の興行成績も悪くなかったが、今年中国映画界で最も話題の作品といえば『クレイジー・ストーン』を挙げるべきであろう。このわずか300万元の低コストで製作された商業映画は、封切り一カ月で2000万元という予想外の興行収入を記録し、同時期に上映中のハリウッド映画をも凌ぐ、2006年における一番人気の国産映画となった。劇中の多くのセリフが若者たちの間で使われるようになり、流行語にもなった。少なからぬメディアが、この映画を社会学的に分析した長い文章を相次いで掲載した。

 『クレイジー・ストーン』は、重慶にある倒産の危機に瀕している工場が、補修工事の際に莫大な価値のある宝石を発掘したことから始まる。大金持ちの買い手を招き寄せ、高価で売却して工場を復活させようと考えた社長は、その宝石を展示して公開する。一方、四方八方から集まってきた泥棒たちも、この宝物からじっと目を離さず見つめている。宝石をめぐって激しい争奪戦が繰り広げられることはもはや避けられず……

 若手の寧浩監督は西洋のブラックユーモア劇の手法を真似て、無駄のない、かつ面白みのあるにぎやかなストーリーを作り出した。さまざまな笑いのネタが、次から次へと休むまもなく観客を笑わせるが、笑いの後には、考えさせることもあるようだ。ギャグで人を笑わせると同時に、工場のリストラ、路上詐欺、出稼ぎ労働者の生活などさまざまな社会問題に触れており、一般的な商業映画に比べずっとリアルであり、芸術映画のような重々しい表現はない。

 さらに喜ぶべきことは、寧浩だけでなく、芸術性やリアリティーをいかに商業映画に融合させるかを探索している若い監督たちが他にもいるということだ。中国映画市場にとって、このような思想のある、大衆向きで分かりやすい商業映画は、純粋な芸術映画よりも重要である。

 同種の映画 『好奇害死猫』『小さな赤い花』

作家主義映画 孤独の堅守

 2006年9月、中国の賈樟柯(ジャ・ジャンクー)監督作品『三峡好人』が、ベネチア国際映画祭の最高賞である金獅子賞を獲得した。これは2000年以来アジアの監督が三大国際映画祭で獲得した最高の成績である。

 映画で描かれているのは、こんなストーリーだ。ある炭鉱労働者が、16年前に嫁を買って子供を生ませた。まもなくその嫁は救い出され、子供を連れて三峡の故郷に戻った。16年後、子供を探しに三峡までやってきたその労働者と、「元妻」との間に本当の愛情が生まれる。一方、三峡で商売をしている山西省の看護師・沈虹の夫は、2年間まったく帰ってこない。三峡まで夫を探しに来た彼女は、夫にはすでに新しい生活があることを知り、きっぱりと別れを決める。三峡地区は全世界に知られる巨大なダムとして大きく変わり、ここに住む人々の生活も大きな変化を迫られる……

 過去の賈樟柯作品と同様に、この作品でもゆったりとしたリズム、辛抱強いロングショットの長回しシーン、そして市井の人々への関心は失われていない。喝采を浴び続けてきた賈樟柯作品だが、国内での配給状況は低迷を続けている。しかし、すでに上映された『世界』が惨憺たる興行成績だったその一方で、なかなか賈樟柯の作品を映画館で観ることができないと不満をこぼすファンも少なくない。

 これは非常に多くの中国の作家主義映画監督が直面している共通の問題であろう。現在のところ、中国は日本のように作家主義系の映画館チェーンは充実しておらず、多くの素晴らしい作品が上映の機会に恵まれないか、宣伝不足のために惨憺たる興行成績に終わってしまっている。多くの作家主義映画は海外での配給でコストを回収し、利益を上げている。中国の映画ファンにとっては、非常に残念なことである。

 同種の映画 『ドジョウも魚である』『私たち』『江城夏日』

2006年上映のおすすめ中国映画

1月
『SPIRIT』 (李連傑 主演)
  
 
2月
『芳香之旅』 (張静初 主演) 
『シャンハイ・ルンバ』 (彭小蓮 監督)
 
3月
『小さな赤い花』 (張元 監督) 
『私たち』 (馬儷文 監督 第18回東京国際映画祭に出品)
 
4月
『理髪師』 (陳逸飛 監督)
『ジャスミンの花開く』 (章子怡 主演)
『ドジョウも魚である』 (楊亞洲 監督 第18回東京国際映画祭に出品)
 
6月
『夢想照進現実』 (徐静蕾 監督・主演)
『クレイジー・ストーン』 (寧浩 監督)
 
7月
『新街口』 (雪村 監督)
 
8月
 『江城夏日』 (王超 監督)
 
9月
『夜宴』 (章子怡、呉彦祖 主演)
 
10月
『好奇害死猫』 (劉嘉玲 主演)
『円明園』 (ドキュメンタリー映画)
 
11月
『雲水謡』 (中国大陸、台湾、香港提携作品 ビビアン・スー 主演)
 
12月
『満城尽帯黄金甲』 (張芸謀 監督 周傑倫 鞏俐 周潤発 主演)


 
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