宋·哥瓷貫耳瓶
高さ14.8·センチ、口径3.9~4.5センチ。首都博物館蔵。

 「哥窯」は宋代の名窯だが、宋人の記載にその名はなく、元代になって「哥哥洞窯」の記載が見られ、明初、「紫、汝、官、鈞、定」とともに宋代の名窯に正式に名を連ねるようになった。器身全体に亀裂が走っているのが哥窯の磁器の特徴で、この自然に形成された釉の文様と造形が、荘重で優雅な趣を見せている希世の絶品である。

 哥窯の磁器の焼成、とくに表面に現われている亀裂の文様についてこんな故事が残っている。

 宋代、浙江省竜泉県にそれぞれ窯を持つ兄弟がいた。兄の窯は「哥窯」、弟の窯は「弟窯」と呼ばれ、兄の焼く磁器は形が美しく、種類も豊富で質も良いため人気があったが、弟のそれはまったく売れず、兄の成功をねたんでいた。ある日、兄が窯をあけようとしたところ、弟が嫉妬から窯いっぱいの磁器に冷水をかけたため、表面にさまざまな亀裂が生じたが、それは格別風韻に富んでいた。このことが伝わり、従来の磁器より美しく、典雅な自然美があると一層人気を呼び、以後、兄は亀裂形成の研究を重ね、この種の磁器を専門に焼くようになった。

  これは民間に残る伝説に過ぎないが、芸術の創作には終わりのないことを教えてくれる一つの故事でもある。

 哥窯の作品は以来、絶品と称されてきたが、南宋時代には瓶、炉、洗(せい)(よごれ水を捨てる壺)、盤(平らな皿)、罐(かめ)などを主に数多く作られている。だが、哥窯がどこにあったかは、いまでも中国陶磁器史上最大の謎である。(写真・谷中秀 文・劉秀中)

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