明·癭杯

高さ8センチ、ロ径7.5センチ。河北省赤城県博物館蔵

 明清時代の工芸美術品は種類が多い。磁器、刺しゅう、漆器、金属工芸、家具、そして民間や少数民族の工芸品も高度に発達していた。また、生活用品など小物の彫刻品も多数作られている。主として民間職人の製作だが、節約勤倹という立場から材料の特性を生かすことに力を入れており、経済性、美しさ、実用性を追求しながら清新で素朴ななかに、生活の息吹が色濃く感じられる。

 癭はこぶのことである。樹木のこぶの自然に形成された形や文様をそのまま利用して、杯、樽や瓢などの酒器が作られた。優美さとともに、異体の趣が歴代の文人墨客に愛用された理由である。こうした酒器は唐代にもすでにあり、同代の詩人李益や明代の詩人高啓は、その詩のなかで」櫻樽」や「木瓢」に絶賛の言葉を送っているほどである。

 この「癭杯」は、河北省赤城県に住む老人が1985年に博物館に寄贈したものだ。

 コノテガシワの木のこぶの内部をくりぬいて作ったため、形は全体にいびつである。口は平らで、底は楕円形、木地は厚く堅い。流動感あふれる起伏した文様。内側は褐色の漆、外側には紅色の漆が薄く施されているので光沢がある。ところどころ漆がはげ落ちているのは、恐らく長い間使用されていたせいだろう。

 この杯は、明の宣徳年間にある有名な画家が大将軍楊洪に献上したものだといわれる。楊洪は明代初期に赤城や長城一帯の鎮定にあたった、誰もがよく知る国民的英雄。生前、楊洪はこの屡杯をこよなく愛し、常に身辺において将軍らと杯を傾け、詩を吟詠しては勝利をともに祝っ,たという。 (写真·孫克譲 文·王国栄)

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