中日関係をどう見つめるべきか

  昨年10月、日本を訪れた中国の朱鎔基総理がTBSの番組に出演した時に胡弓を弾いた。もちろん、日本国民に対するサービスである。中日関係は90年代に入ってからぎくしゃくした状態が続いている。こうした局面を何とか打開したいというのが朱鎔基総理の訪日目的の一つであったと思われる。
 
  中日関係がなぜ冷え込んでしまったのか、その原因はいったいどこにあるのか。こうした問題を根元から突き止めて解決すれば、朱総理の胡弓の音色も長く響きわたることになるだろう。

  中日両国の状況、特にマスメディアの現状を知る人間として、この問題に対して私なりに感じたいくつかのことに焦点を当てたいと思っている。

中国を多角度的に見つめるべきだ

  まずは日本サイドから問題を指摘したい。90年代に入ってからの中国の経済発展のスピードは目覚ましいものがある。日本との距離が大幅に縮まっているのに、日本はこの事実をとかく見落としがちだ。

  中国取材に行くと、日本のテレビ局は決まって大都市の自転車の洪水を撮影したがる。だが、いまや道幅が広くなり、自動車による移動も増えたため、かつては壮観だったこの光景をなかなか撮ることができない。それでもなんとか絵になるように悪戦苦闘して撮影している記者たちを目の当たりにして、私は苦笑いするほかない。

  自動車が増えたことは必ずしもいいこととは言えないが、自動車の急増と自転車の激減が事実である以上はその変化を取り上げてもいいのではないかと思うのだが、それは中国的でないという理由で無視されてしまう。先入観や既成観念に縛られている典型例だ。中国の都市部は、新しい建築物が雨後の筍のように現れている。市内の再開発や区画整理もどんどん進められている。確かに没個性的な建物が多すぎる。デザインセンスの悪さも事実だ。しかし、日に日に変化を遂げる様子に、前へ進もうとしている中国の姿勢を読みとれるはずだ。だがやはり日本のマスコミ関係者はこれを取り上げようとはしない。カメラのレンズはもっぱら朽ちかかっている旧市街地に向けられる。

  日本で伝えられている中国の現状は暗い話が多い。イメージも暗い。これらの報道を見ている日本人は、中国と日本の格差は非常に大きいものだとどうしても思ってしまう。中国の東部地域、特に沿海部の住民の生活水準がかなり向上しているという事実も案外知られていない。

  実際は90年代の半ば頃から中国人の所得水準の向上が続いており、民衆の生活も質的に大きく変わった。中流階級とも言える階層が日増しに厚みを増している。ここ2年で、私は日本のマスメディア関係者とともに中国人の家庭を何度か訪問している。面積が100〜140平方メートルもある家も珍しくない。しかも、みな競い合うように豪華な内装を施している。見た目では日本の億ションにひけを取らないくらいだ。中国は日本に大きく遅れをとっている貧しい国だと思いこんでいるだけに、たいていの日本人はそれを見た瞬間に絶句する。

  だが、このような変貌ぶりは日本ではほとんど報道されていない。報道のテーマはやはり下崗労働者、つまりリストラされた労働者に集中している。下崗労働者問題は確かに中国が直面している深刻な社会問題の一つだ。これを正面から取り上げる必要はある。しかし、生活水準が大きく向上したことも事実だ。だから、私から見れば、中国を的確に捉えるためには多角的に問題を見つめる視点が必要なのだ。

留学生の動きから時代の流れを読みとれる

  中国では80年代から出国ブームが続いた。硬直した計画経済と社会体制が支配的だった当時の中国と比べたら、日本は遙かにチャンスが多い国であり、努力した分だけ報われる社会だった。だから、その魅力に惹かれて多くの中国人留学生が日本にやってきた。これはつい数年前まで続いた流れだった。しかし、最近この流れに微妙な変化が起こった。

  10月中旬に、私は上海市政府の招きで上海に一週間滞在した。訪問団のメンバーには今年日本の大学院を出たばかりの若い女性が数人いた。日本での就職活動も一応はしたが、あまりいい職が見つかりそうもないのであっさり上海に帰ることにした。現在は外資系銀行の上海支店長秘書や上海市政府傘下の人材派遣会社の幹部社員になっている。

  「なぜ上海に帰ったの?」と彼女たちに聞いた。

  「上海のほうがチャンスが多いような気がしたので。就職先の仕事内容を見ても、上海のほうがやり甲斐があると判断したからです」

  その笑顔には、日本での生活を手放したという悔しさの色は微塵も見られない。つい最近まで不法滞在者になっても日本に残りたいと考えていた在日中国人とはまるで別人種のようだ。

  数年前に上海に戻った帰国組の留学生の自宅を訪ねてみた。200平方メートルもある広いマンションに日本では到底考えられない豪華な家具、日本への愛情を込めて作った和室、パートタイムで雇っているメードさん……。月に1万元(約13万円)近い月収。中国の物価は日本の8分の1から3分の1であることを考えると、それは月40万から100万円に相当する。日本でも充分に暮らせる額だ。帰国したばかりの若い留学生たちは先輩たちの生活を目の当たりにして、すっかり安心した表情になった。

  社会制度がどうこうというよりも、庶民の日常生活の実質的な内容が大事だ。立ち遅れているはずの中国、特に上海などの大都会では、一部の裕福階層だけとはいえ、すでに日本の中レベル程度の生活水準を超えている。実際の生活の質で比べれば、さらに多くの日本人が負けてしまうだろう。

  海外メディアの報道によると、海外に留学していた中国人が今年1万3000人も中国に戻るという。米国誌のニューズウィークも最近この動きを取り上げる特集を組んだ。時代の流れは大きく変わろうとしている。70年代に米国から多くの留学生が台湾に戻り、新竹工業団地を起こし、コンピュータ産業を立ち上げた。このような動向が現在中国で見られる。海外のことにも中国国内のことにも明るい留学生の動きを見れば、案外時代の流れの変化を先取りすることができるかもしれない。

  このような中国の変化をより公平に取り上げれば、日本人が中国を見る目もかなり変わるのではないかと思われる。

知らされていない日本人の努力

  次に視点をかえて、中国から日本を見てみよう。中国の対日報道にも改善してほしい点がある。血の通った中日間の人的交流に対する地道な報道が足りない。紋切り型の政治報道が多すぎる。

  今年9月、15年ぶりに鹿児島を訪れた。せっかくなので一泊して東京に戻ろうかとも考えたが、翌日町田市の市民大学で講演することになっていたので諦めた。内心では町田市の講演を引き受けたことをかなり後悔した。

  しかし、講演先に駆けつけた私は、満員の会場を見て驚いた。定員60名の講座だが、応募者が多いために10名もオーバーして受け入れたという主催側の話を聞き、さらにびっくりした。

  講演は一時間半行った。なかにはかなり辛口の日本批判もあったのだが、皆さん静かに聞いてくださった。時には頷いて賛同の意思を表し、時には目を大きく開いて話の内容に驚きの表情を見せたり、話し手にとっては非常に話しやすい環境だった。

  会場を見渡すと、中高年層がほとんどだ。すでにリタイアした方がその大半を占めている。余暇を過ごす方法として、こうした勉強会に参加することを選んだらしい。あらためて日本人とは勉強熱心な人種だと感心した。

   市民大学のこの講座は三ヵ月間で中国のいまを知るというのがテーマだ。各分野で活躍している新華僑を講師に迎えている。一都市の市民大学なのに、こんなにも多くの人が集まって中国のことを熱心に勉強し、理解を深めようとしている。彼らの存在こそが日中友好の礎となっている。

  しかし、こうしたことは中国ではあまり知らされていない。日本に駐在している中国のメディアの特派員は目まぐるしく変化する政治事件の報道に追われ、こうした草の根の努力を見落としがちだ。

  この間、エアチケットの販売を業務とする旅行会社の女性社長と一緒に食事をした時、非常に感動的な話を聞いた。静岡県に住む18人の日本人が、中国の少数民族の子供のために50の学校を建てる計画を立てているのだという。60、70代という高齢にも関わらず、頻繁に中国に足を運んでこの計画を着実に進めている。経済的な余裕のある地方ではその地方と共同で学校を造る。貧しいところでは学校建設の資金を全額負担する。

  雲南省のペー(白)族のために小学校を建てる時、県政府は彼らの生活を考えて共同出資を提案した。彼らは喜んでこの提案を受け入れた。だが、県の財政事情を配慮した結果、彼らは名義上では共同出資にしたが、実際の費用は最初の計画通り全額を負担した。

  このグループを構成しているのは経営者や芸術家が多いが、高齢化が進んでおり、また景気が長く低迷していたために収入が落ちている人もいる。最近ではグループの活動を支える会費がそろばん通り集められないという問題に悩まされており、グループの発起人が自らその不足分を埋めているという。

  中国へ行く際、彼らはいつも中国の航空会社を指定する。どうしてもチケットが取れない場合もある。日本や米国の航空会社を勧められても、頑として首を縦に振ろうとしない。すこしでも中国を応援したいから、お金は中国の会社に落としたいのだという。

  彼らの活動はこれまでほとんど知られることがなかった。彼ら自身もそれを知らせるために活動しているわけではない。中日友好のためにこうして黙々と汗水垂らして努力している日本人は決して少なくない。もし、中国のメディアが彼らの存在をより積極的に報道すれば、中国人の日本理解もより全面的なものになることだろう。  (在日中国人作家  莫邦富)

 
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