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契約法に対処するコツ ――「格式条項」って何? |
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鮑 栄振 (ほう・えいしん) 中国弁護士。中国法学学術交流中心副主任。86年、佐々木静子法律事務所にて弁護士実務を研修、87年東京大学大学院にて会社法などを研究。 |
森脇 鮑先生、とうとう十月になりましたね。 鮑 国慶節のことですか。先生は、本当にお祭り騒ぎがお好きですね(笑)。 森脇 いえいえ、そうではなくて、十月一日といえば『契約法』の施行日でしょう。 鮑 あっ、そうですね。契約法は重要な法律ですね。 森脇 日本の民法の半分くらいの内容に相当する法律ですからね。売買、賃貸借、請負など、あらゆる契約の解釈の基本となる法律がこの十月から施行されたわけです。 鮑 でも、以前に全く法律がなかったわけではありませんよ。契約法は、これまでに制定されてきた契約に関する法令の集大成と考えてよいでしょう。 森脇 そうですね。確かに契約法施行前にも「民法通則」(注参照)という民事的な権利関係の原則を定めた法律が既に存在していたし、『経済契約法』『渉外経済契約法』『技術契約法』(いわゆる「三大契約法」)という法律や、それについての司法解釈といわれるものもありましたね。 鮑 そうです。三大契約法は一九八〇年代に、中国経済の急激な発展に対応して段階的に制定されたものです。契約法、三大契約法の統合化や統一化を大きな目的とするものです。 森脇 でも鮑先生、三大契約法の統合・統一化もさることながら、契約法には新たな規定もたくさん設けられましたね。 鮑 そうですね。ファクスや電子メールによる契約の締結方法など、新しい問題についての規定も盛り込まれました。 森脇 契約の締結方法で思い出しましたが、契約法には「格式条項」を用いた場合の規定が設けられましたね。「格式条項」というのは中国語で、日本語では「様式条項」、「フォーム契約」などと訳されているようです。条項が定型化されたフォーム(様式)がすでにあって、契約内容について当事者間で交渉する余地のないもの、つまり、契約当事者の一方が既にきっちりと契約書を準備しておいて、相手方に「はい、これにサインしてください」と言って締結する契約のことです。この「格式条項」についてはかなり厳しい規定が設けられました。実はこの点について、既に数多くの依頼者から質問を受けています。例えば、ある日本の貿易会社が中国の複数の輸入業者に同じような商品を何度も輸出しているとします。このような場合、日本の貿易会社はサンプルフォームを用意しておいて、商品の品種、数量、価格などを書き込むだけで契約書は完成、後は中国の輸入会社にサインを求めるだけ、ということが多いのです。こうした場合どういった注意をすればいいか、というような質問です。 鮑 なるほど。契約法第三十九条によれば、フォームを提出する側は、自己の免責条項などについて相手方に注意を促し、相手方の要求があればその説明をしなければなりませんね。 森脇 そうなんです。でも単に口頭で済ませただけでは、後で紛争になった時、本当に注意を喚起し、説明をしたかどうかを証明できないという事態になりかねない。ですから、あらかじめの準備が必要だと思います。例えば、契約書の免責条項などに下線を引いたり、太字を用いたりする、という工夫をするのも一つの方法でしょう。また、万全を期すためには「免責事項等について十分な説明を受けました」といった念書を取っておく方法なども考えられます。 鮑 なるほどね。それから、一つの契約条項について複数の解釈が可能な場合は、格式条項を提供した側、つまり今の場合ですと、日本の貿易会社側に不利に解釈しなければならない、という規定もありますね。これは、複数の言語で契約書を作るときに特に注意が必要ですね。誤訳があったりしたら、まず自分に不利に適用されることを覚悟しなければなりません。 森脇 おっしゃる通りです。そのほか、日本の貿易会社が契約フォームを輸入会社に提示し、条項の一部を輸入会社の意見に基いて修正したときなどは、その交渉経過を示すファクスなどの交信記録を保管しておくことも検討すべきでしょう。 鮑 なるほど。そもそも格式条項というのは、フォームの提示を受ける側にとって各条項についての交渉をする余地のないものとされている。だから、もし紛争が起きた時、相手方の修正意見を取り入れてあった場合にはそもそも格式条項にあたらない、という主張を展開するための証拠にするわけですね。 森脇 そうです。そのほか根本的な対処法として、契約書の準拠法を日本法にするという手もありますね。とにかく、契約法に限らず、法律を予防的な観点から見るといろいろな問題が出てきます。これらへの対処法を考えていくことも私たちの重要な仕事です。 鮑 そうですね。紛争が発生する前に予防する。本当はこれが一番重要なことですね。 (注)「民法通則」は現在も有効ですが、「三大契約法」は今回の契約法施行と同時に廃止されました。(1999年10月号より) 豆知識 |
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森脇 章 (もりわき・あきら) 日本弁護士。98年4月より中国北京にて中国語(北京語言文化大学)及び中国法(北京政法大学)を学ぶ傍ら、アンダーソン・毛利法律事務所北京事務所にて研修を積む。99年4月より、同北京事務所常駐代表。 |