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日本人が中国で働くには ――覚えておきたいビザの違い |
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森脇 最近中国で働きたいという日本人の声をよく耳にしますね。 鮑 実際働いている人もたくさんいますね。森脇先生もそうでしょ。 森脇 ええ。私の場合は、日本の法律事務所の北京駐在員事務所常駐代表、つまり駐在員という身分で働いています。ただ、その手続は結構大変でしたよ。まず、法律事務所の監督官庁である司法部に認可の申請を出しました。そして、司法部の認可をもらった後、「Zビザ」という職業ビザを取得して、その後「就業証」を取得してようやく働くことができるようになりました。 鮑 ずいぶん大変でしたね。でも、中国で働く日本人全てが、先生と同じ手続を必要とするわけではないですよね。 森脇 それはそうかもしれません。でも、出入国管理や外国人の就労に関連する中国の規定では、中国で「就業」するには「居留証」を取得しなければならない、ということになっています。また、居留証さえ取得できれば誰でも就業できるというわけではありません。「Xビザ」の長期留学生や実習生、駐在員の家族としてZビザを取得した人もそのままの身分で就業しちゃいけない、ということになっています。ですから、定住ビザとか特殊なビザを持っている人を除けば、結局自分の資格でZビザを取得しないと就業できない、というのが原則だということになります。そして、Zビザを取得するには、私のように、監督官庁の認可などをあらかじめ取っておかないといけない場合も少なくないのではないかと思います。 鮑 Zビザといわれる短期訪問ビザや「Lビザ」といわれる旅行ビザなどで入国した人は、居留証が取得できませんが、だからといって中国で一切仕事ができないというわけではありませんね。 森脇 そうですね。もしそうだったら、中国に商用で出張に来ることも許されないことになってしまいますね(笑)。実際、中国の規定でも、「Fビザ」の渡航目的に「商用」というのも列挙されていますから、出張という形で外国人が中国で仕事をすることは認められていますね。私が、先ほどから「就業」という言葉を強調してきたのは、こういった出張ベースで短期間仕事をする場合などは「就業」に当らないから許される、という理屈があるからです。 鮑 ええ、私もこの前依頼者から相談を受けて調べてみたのですが、「労働契約が外国法人との間で締結され、労働報酬が国外において支払われる場合であっても、中国国内で三カ月以上勤務する者は、中国で『就業』するものとみなす」という規定があります。逆に言えば、労働契約が外国法人との間で締結され、労働報酬が国外で支払われている場合、例えば日本企業の職員として日本国内で給与を受けている人の場合は、中国国内での勤務が三カ月に満たなければ、「就業」に当らないということになりますね。また、技術譲渡契約などのために中国に来る技術スタッフや専門スタッフについても、「就業」に当らない場合があるとされています。 森脇 「就業」に当らない限り、「居留証がなければだめ」という先ほどの規定も関係がないことになりますね。ですから、その限りではFビザで中国に来て働いてもいい、ということになりますね。 鮑 まあ、短期出張者の話題はとりあえずこの程度にしておいて、本題の中国で本腰を入れて働くという場合、結局は、駐在員の家族としてではなく独自にZビザを取得することが前提で、これを取得するにはあらかじめ監督官庁の認可が必要となる場合も少なくない、ということでしたね。いずれにせよ、Zビザが取得できるかどうかが問題ということですかね。 森脇 定住ビザなどの特殊なビザを持っている人を除けば、それが原則だといわざるを得ないのではないでしょうか。少なくとも、中国で雇われて中国で給料をもらう、というケースを念頭に置くならばそういえるでしょう。そうでないと、私がはじめに話した就業証を取得できないのではないでしょうか。 鮑 なかなか大変だということですね。でも、これを全部自分でやるというわけではないですね。 森脇 そうですね。Zビザの取得に必要な書類は基本的には外国人を雇おうとする企業がそろえることになっています。例えば、その企業の監督官庁の認可が必要な場合、認可の取得や招聘状の作成などの準備はその会社がやってくれるはずです。また、Zビザの取得や、先ほど言った就業証の取得なども全て代わりにやってくれる企業もあるでしょう。ここで、私が申し上げたいのは、日本人が中国で働くには一定の制限が存在する、ということです。もし企業の方で認可が取れないのであれば、結局Zビザが取得できず、通常は適法に就業できない、ということになります。 鮑 ただし、認可の要否や取得方法などは企業の方で心得ているはずだから、自分でこの点を調べたり、実際にいくつもの役所を回ったりする必要はない、と。 森脇 そうですね。まあ、最低限ビザの取得について企業に確認する必要はあると思いますが、具体的な手続は企業に任せてよいのではないでしょうか。ともあれ、これからある程度長く深い付き合いをしようというわけですから、まずはよく話し合う、ということでしょう。法的に自分の立場を守るためにも、この辺の手続について事前に十分確認しておく必要があるでしょう。 豆知識 |
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鮑 栄振 (ほう・えいしん) 中国弁護士。中国法学学術交流中心副主任。86年、佐々木静子法律事務所にて弁護士実務を研修、87年東京大学大学院にて会社法などを研究。 |