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こんなに違う中日の裁判制度 ――もしものための基礎知識 |
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森脇 鮑先生、今日は中国の裁判制度について話し合おうと思います。 鮑 じゃあ、まず裁判所について簡単に。裁判所は中国では人民法院といいますね。 森脇 そうですね。そして日本の最高裁判所に当たるのが最高人民法院、その下に高級人民法院、中級人民法院と続きますね。 鮑 更に基層人民法院というのもありますね。 森脇 ええ。そこで、まずどこに訴えたらよいかが問題になるわけですが、全ての事件がまずは必ず基層人民法院に訴えられるわけではないんですね。 鮑 もちろん違います。つまり、第一審裁判所がどこになるかという問題ですが、民事事件についていえば、請求金額の大きさや、事案の複雑さ、社会への影響の大小などを勘案して、この事件は基層人民法院から、この事件は中級人民法院からというように決められます。基準については一応規則化されていますが、事案の複雑さや社会への影響といった要素は判断が難しいので、実際に裁判を起こす場合には個別に検討する必要があると思います。 森脇 ただ、一般的に外国人や外国企業が関わる訴訟は金額的に高額なものが多かったり、社会への影響大、と判断されたりして、中級人民法院や、高級人民法院からスタートというケースがほとんどだと思いますが。 鮑 そうですね。 森脇 次に、中国の裁判制度の特徴についてですが、弁護士代理の原則が取られていないことが挙げられますね。つまり、日本の場合、民事訴訟を起こそうとする時、原則として、本人が直接自分で訴訟手続を行わず第三者にお願いする場合には弁護士に依頼しなければならない、とされていますが、中国の場合は必ずしもそうではない。弁護士でない人を訴訟代理人に指定し、その人に訴訟手続を任せてもよいことになっていますね。 鮑 そうですね。でもこの点はむしろ日本の方が厳しすぎるのかもしれません。現に日本ではこの原則を緩和しようという動きがあるのではないですか。まあ、中国でも結果として弁護士が訴訟代理人に選ばれるケースが多いので、 実際にはさほど大きな違いはないのかもしれませんが。 森脇 そうかもしれませんね。それから、中国の訴訟の制度的特徴としては、二審制を挙げることができますね。 鮑 そうですね。これは大きな違いですね。日本では地方裁判所の判決に不服があれば、高等裁判所に控訴し、高等裁判所の判決に不服があれば更に最高裁判所に上告する、というようになっていますが、中国では上訴は一回だけですね。 森脇 そのほか、実務的な特徴というか、外国人である日本人や日本企業が中国で訴訟をする場合に気をつけた方がいい点は何かありますか。 鮑 一般に中国の方が訴訟審理が早いといわれていますね。 森脇 確かにそれはいえるかもしれませんね。日本も随分改善されてきてはいますが、中国の方が審理が早いといえるでしょう。特に、日本の場合、さみだれ式に証拠を提出する、例えば、後で重要な書類が見つかったといって裁判所に提出することも許される場合が多いと思います。しかし、中国でこれをやろうとすると間に合わない場合があります。だから、初期の段階で書類をしっかり整理しておく必要があるといえますね。 鮑 他に何かありますかね。 森脇 強制執行の申立に期限があることも違いとして挙げられるでしょう。つまり、勝訴判決を取得した後、相手が任意に履行をしない場合は、強制執行の申立をする必要があるわけですが、この強制執行の申立に期限がありますね、中国の場合。この点も日本とは随分違っていて、注意が必要だと思います。 鮑 そうですね。民事訴訟法の規定によれば、強制執行の申立は判決などで定められた履行期限の最後の日から起算して、一年以内とか六カ月以内といった短期間に行わなければならないことになっています。日本には、こういう制限はないんですよね。 森脇 一定期間内に訴訟を起こすなどしないと権利がなくなってしまう、という意味の時効制度はありますが、このように判決を取得した後、その判決に基づく強制執行をいついつまでにしなさい、という規定はないですね。そこで、日本ではいろんな理由から、勝訴判決は取得してもそれに基づく強制執行の申立は当分見送る、ということをよくやるわけですが、中国ではこのような措置を安易にはとれない、ということになります。 鮑 そうですね。このように見てくると、外国人である日本人にとって、中国で裁判手続に関与するというのは大変なことだと思います。思わぬところに日本の制度との大きな違いがあったりするものです。そういった違いを早い時点でお伝えし、方針を見誤らないようにしてさしあげることが、日本人及び日系企業に対してリーガルサービス(法律業務)を提供するわれわれ中国人弁護士の重要な任務の一つだと考えています。 豆知識 |
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森脇 章 (もりわき・あきら) 日本弁護士。98年4月より中国北京にて中国語(北京語言文化大学)及び中国法(北京政法大学)を学ぶ傍ら、アンダーソン・毛利法律事務所北京事務所にて研修を積む。99年4月より、同北京事務所常駐代表。 |