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リストラなんて恐くない? 中国の就職・転職事情 |
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鮑 インターネットで日本のニュースを見ていますと、政府が「痛みの伴う改革を断行する」ということで、失業者がますます増えるのではないかと心配されているようですね。 大西 日本を代表する大企業でも、あいついで希望退職制度を発表するようになり、しかも、即日で定員いっぱいになる時代ですからね。終身雇用ということばは幻になりつつあるようです。「明日がある」なんて歌がひところ流行っていましたが、本当は、「明日のことはわからない」というのが今の日本人の実感ではないでしょうか。 鮑 何だか深刻な話になってきましたね。 大西 北京オリンピックなどで盛り上がっている中国に比べれば、日本は暗い話題ばかりですからね。 鮑 中国だって社会問題が無いわけではないのですよ。それでは、今日は中国の就職・転職問題についてお話してみましょう。 大西 わかりました。まず、就職についてですが、中国では、就職はどのようなシステムで行われているのですか? 鮑 かつての中国では、大学を卒業する学生が自分の希望する職場に就職できるわけではなく、人を採用する側の都合によって「分配」がなされ、それに従わなければなりませんでした。でも、今では採用する側も採用される側も自由に募集・応募でき、日本と同じように、大学時代から就職活動をして、自分にあった職場を探せるようになっています。 大西 日本の場合、有名大学の卒業生ばかりがちやほやされ、そうでない人達は苦戦を強いられることが多いのですが、中国ではどうなのでしょうか? 鮑 中国でも、清華大学や北京大学などの有名大学の学生は企業からひっぱりだこで、このような有名大学に入学すれば「人生の勝利者」と言われる風潮があります。 大西 まあ、コネやお金で決まるよりはまだまし、というところでしょうか。就職に関する「法律」は、どんなものがありますか? 鮑 一番の基礎となるのは、やはり『労働法』であり、国が就業を拡大させること、職業紹介機構を発展させること、就職について民族、人種、性別などによる差別をしてはならないことなどを定めています。また、就職の年齢については、満十六歳に満たない未成年者を公募で採用することを禁止しています。 大西 なるほど。「性別による差別をしてはいけない」ということで、日本でも『男女雇用機会均等法』などで同じ建前を打ち出しているわけですが、現実には、日本には根強い差別がありますね。あまり自分の国の悪口は言いたくないのですが、仕事で日本企業の会合に出席すると、男性ばかりで「この国には女性は存在しないのか?」と、絶望的な気分になることがよくあります。それに比べて、中国では女性の社会進出が当たり前のことになっていて、羨ましく思います。 鮑 中国も、旧社会の時代には、女性は差別に苦しんでいたのですが、共産党の強力な指導を基礎として、『婦女権益保護法』や『企業従業員生育保険施行弁法』などの法律も制定され、今のように女性が活躍できる社会になったわけです。また、就職一般についての特別法としては、『労働力市場管理規定』という規定により、労働者の求職と就業、雇用者の人員募集、職業紹介機構の設置などが定められています。 大西 就職を市場化しながらも、管理はきちんと行いますよ、ということですね。管理といえば、医師とか美容師とか弁護士とか、一定のスキルを必要とする仕事については、国の管理に基づく資格や検定を通らなければいけないですよね。 鮑 もちろん中国でもいろいろな資格や検定があります。去年の末頃には、「労働及び社会保障部」(日本の厚生労働省にあたる)が「ファッションモデル等級制度」の制定準備をしていることが報道されて、話題になったことがあります。 大西 身長、体重や足の長さとかを決めるわけですか? 中国でモデルになる予定はないので直接は関係無いですけど。 鮑 日本でモデルになる予定があるんですか? 大西先生の地元・成田山表参道商店街の大バーゲンセールの広告とかでしょうか。それはさておき、現在検討されている「ファッションモデル等級制度」は、ファッションモデルを一級から四級までに区分し、一級は少なくとも大卒で、モデル業務に関する論文少なくとも一本を中国の一級刊行物上に発表していること、英語の検定も最低四級という基準を満たさなければなりません。一番下の四級については、職業高校卒業の学歴が必要とされています。 大西 ファッションモデルの仕事に、教養がある方がもちろんいいでしょうけど、学歴や英語の等級が必要だとはとても思えないのですが。 鮑 教養があるかどうかを計る物差しなんてないから、仕方なく学歴などを持ち出しているのではないでしょうか。いずれにしても、この基準によると、世界的に活躍している中国出身のトップモデルも中国に帰国した途端に最下級モデルにされてしまったりするわけで、現実的でないという批判もあり、まだ正式な制定には至っていないとのことです。 大西 面白い話題ですね。一方、暗い日本では、冒頭でお話したように失業と再就職が話題に上ることがとても多いのですが、中国ではいかがですか? 鮑 中国では、「労働年齢にあって労働能力を有しながら、現在仕事が無く、仕事を探している人」のことを失業者と定義しています。人口が既に12億人以上、経済活動人口は七億人以上に達している中国で、全ての労働者の雇用を常に確保することは簡単とはいえません。統計によると、今年6月末の時点で、国有企業の失業者の総数は632万人となっており、昨年の同期に比べて45万人減少しています。しかし、再就職率については、1998年が50%、1999年が42%、2000年が35%と悪化傾向にあるため、政府もこの事態を重視して、施策を講じている最中です。 大西 日本では、失業してしまった場合の生活維持の為に失業保険という制度がありますが、中国にも同じような制度はありますか? 鮑 中国では、1986年に『国営企業従業員待業保険暫行規定』が制定され、これにより失業保険制度が創立されました。その後、いくつかの法制定を経て、本格的な『失業保険条例』が1999年に発布され、これを具体的に実施するための地方の規定が各地方で既に制定されています。この規定によれば、雇用者と労働者は働いている間に一定額の保険料を積み立て、労働者が失業した場合には失業保険金の給付を受けることができます。 大西 失業しても再就職先を安心して探せるように、ということですね。再就職という方法のほかに、「働く口がないなら自分で作ろう」ということで、仲間と出資をして、お店や会社を旗揚げする人もいますね。 鮑 中国でも、個人企業を設立する人はますます増えています。「石を投げれば総経理(社長)に当たる」なんてことを言う人もいるくらいです。昨年12月には、「泥棒会社」の社員が警察に捕まって、話題になりました。この「会社」は社員が十数人いて、毎朝8時に「出勤」、夕方6時に「退勤してその日の収穫を提出」し、土日に出勤したら残業代を出し、外出については交通費も支給するというシステムを採用していました。また、旅館を借りて「社員寮」も完備していたそうです。 大西 しかし警察に捕まったら、即「倒産」ですよ。刑務所で再就職の為の知識や技術を身につけて、出所後はまともな会社に就職して欲しいですね。 鮑 中国でも日本でも個人の能力が厳しく問われる時代になってきていますから、一人一人が自分のセールスポイントを磨くように、努力しなければならないのでしょうね。 (2001年10月号より) |
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大西 宏子 (おおに しひろこ) 日本弁護士。糸賀法律事務所所属。東京外国語大学外国語学部中国学科卒業後、97年に弁護士登録。 |