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甘い話にご用心 中国的悪徳商法の実態 |
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大西 いやー、2001年は、ヤクルトの優勝以外あまりいいことがなかったから、なかなか明るい話題は出てきませんよね。 鮑 ヤクルトの優勝を喜んでいる人はあまりいないと思いますけどね。北京では3人もいれば上出来ではないでしょうか。いずれにしても、中国は北京オリンピック開催や2002年のワールドカップ出場が決まって、明るい話題が続いたのに比べると、日本は景気がますます悪くなるなど、対照的ですね。 大西 日本ではお正月に初詣に行く人がさらに増えるんじゃないでしょうか。神頼みするしかないという気分ですからね。そうなってくると、中には、藁にもすがる思いで、怪しげな宣伝につられて「開運の壷」なんかを買ってしまう人もいるでしょうね。今日はそんな「悪徳商法」について話してみませんか? 鮑 そうですね。中国でも最近毎日のように報道されているホットな話題ですから、一つ検討してみましょう。 大西 「悪徳商法」と言っても本当にいろいろな種類がありますから、今回は思いきりしぼることにして、まず、典型例の一つである「開運の○○」について話してみましょう。これは、日本では「霊感商法」と呼ばれるもので、病気や家庭問題などの悩みを抱えている人に近づいて、「あなたの苦しみは三代前の先祖が人殺しをしたことに由来している。この壷を買えば呪いが晴れて、悩み事は必ず解決する」なんてインチキなことを言って、高価な商品を売りつける商法です。日本では、2001年に改正された『特定商取引法』(旧『訪問販売法』)などにより規制されています。中国にもこんな事例はあるのでしょうか? 鮑 被害額は日本ほど大きくはないようですが、事件の数は相当あります。被害に遭うのはお年寄りが多いようです。最近の新聞では、あるおばあさんが、セールスマンから「これがあればどんな病気も必ず治る」と言われて水晶玉を5000元(約7万円)も出して買ったのですが、もちろんそんなもので病気が治るはずも無く、おまけに水晶ではなくてただのガラス玉だったという事件が報道されていました。法律的には、民事の面からは、このような売買は『契約法』に基づいて取り消し、または無効を主張できますし、刑事の面からは、『刑法』に規定されている詐欺罪の要件にあてはまると考えられます。 大西 やはりどの国でもみな考えることは同じというわけですね。次に、中国で今一番流行している悪徳商法というと、いわゆるマルチ商法に関係する事件が多いようですね。 鮑 そうです。中国語ではマルチ商法のことを「伝銷」と言いますが、悪質で詐欺的な伝銷が各地で発生し、社会問題となっています。 大西 「悪質なマルチ商法」、すなわち「悪質な伝銷」をごくおおまかに説明すると、「いい儲け話がある」などとして、商品の販売組織に次々と人を勧誘していくことでピラミッド型の組織を拡大していき、会員が加入する時に「入会金」や「保証金」などのいろいろな名目でお金を払わせたり、仕入れ名目で不当に高額な商品を強制的に買わせたり…などの方法で、ごく一部の統括者だけがお金を吸い上げ、会員達は支出がかさむばかりで儲けを得られないという商法です。中国で、伝銷はどのように広まっていったのでしょうか? 鮑 それでは、伝銷の歴史と、関連する法律について説明しましょう。1980年代末ころ、改革開放と一緒に、伝銷が外国から導入されました。しかし、中国では、正常な伝銷よりも悪質な伝銷が幅を利かせるようになってしまい、会員を騙したりニセモノや不良品を販売したりして大金を稼ぐ人が現れました。そこで、1997年には、『伝銷管理弁法』という法律が施行され、工商行政管理部門による一連の規制が規定されたのですが、悪質な伝銷の影響があまりにも大きいため、翌年の1998年には、『伝銷経営活動の禁止に関する通知』が国務院より公布され、これにより全ての形式の伝銷が禁止されることになりました。ただ、例外的に、政府から認められて正常な伝銷業務を合法的に行っている企業も幾つかあるのですが、法律は、原則として全ての伝銷を禁止するという態度をとっています。 大西 ずいぶんと思いきったものですね。それなら、もう悪質な伝銷は無くなっていても良さそうなものですが、実際はまだ生き残っているのですね。中国は広大で人口も多いので、取り締まりはなかなか難しいのでしょうね。 鮑 そのとおりです。工商行政管理部門は1998年の通知に基づき、伝銷に対して行政処罰を課していったのですが、それでも悪質な伝銷が後を絶たないため、行政処罰だけでなく、刑事罰の対象とすべきであると考えられるようになりました。2001年4月には、最高人民法院(日本の最高裁判所に相当する)が、『情状の重い伝銷又は変形伝銷行為の性質を如何に決定するかに関する問題の回答』を公布し、「伝銷または変形伝銷行為に従事し、市場秩序をかく乱し、情状の重い場合には、刑法第225条四項の『違法経営罪』として処罰する」ことを明言しました。しかし、インターネットを使った新手の伝銷も出現しているため、取り締まりにあたっている公安などは、対応に苦慮しているとのことです。 大西 実際の事件としてはどのようなものがありますか? 鮑 数が多すぎるので、刑事裁判の判決が下された事件の中から一つだけ紹介します。
大西 なるほど。しかし、霊感商法にしても悪質なマルチ商法にしても、法律的には、詐欺などを理由に契約を取り消して、代金などの返還を請求できるはずですが、かりに売主がどこかに逃げてしまったり、倒産していたりしたら、結局現実にはお金は戻ってこないので、被害は回復できないことになりますね。 鮑 ですから、日本でも中国でも、最初から悪徳商法にひっかからないように、気をつける必要があります。 大西 霊感商法についていえば、人の弱みにつけこむ商法なので、病気などの悩みごとがある人、相談相手がいない人などが被害にあうケースが多いのです。その点を普段から意識して、何かあったらすぐ友達や家族に相談するように心がけるべきでしょう。ただ、お金持ちがターゲットになりますから、貧乏な人は心配ないですかね。 鮑 いやいや、なけなしのお金を取られたと言うケースもたくさんありますから、油断してはいけません。 悪質なマルチ商法についていえば、手っ取り早く大金を儲けようなんて考えていると、甘い話にうっかりのってしまいやすいのです。 大西先生は勤労意欲がゼロみたいですから、引っかかりやすそうで、心配ですね。 大西 気をつけます。「楽して儲かるわけはない」ことを肝に銘じないといけませんね。(2001年12月号より) |
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大西 宏子 (おおに しひろこ) 日本弁護士。糸賀法律事務所所属。東京外国語大学外国語学部中国学科卒業後、97年に弁護士登録。 |