浙江省竜泉市石馬村・元宵節

灯籠と老酒に酔いしれる


写真 文 朱志敏

 石馬村は、浙江省南部の山岳地帯にある竜泉市から約12.5`。約600年前、蒋、陳、鄭の三家が移り住んだのが起こりといわれ、以来、村人は農業を営んできた。いつからか、石馬村では、毎年の元宵節を村をあげて盛大に祝うようになった。

 元宵節は旧暦1月15日。祭りには、豊作を祈ると同時に、過去一年に吉事のあった村人を改めて祝う意味も込められている。とりしきる責任者は、毎年くじで決められ、その仕切りのもと、村人がみな力をあわせる。

 祭りは「迎灯(インドン)」と「品酒(ピンジゥ)」が一番の山場になる。「迎灯」は、竹竿に灯籠を下げたものを村の男たちが担いで練り歩く「竜灯」を各家が迎えること。「品酒」は、吉事のあった家が提供する老酒(ラオジゥ)の利き酒をすることだ。村の方言では、「迎灯」は「人丁」と、「酒」は「久」と同じ発音になる。だから村人たちは「迎灯」と「品酒」で、村の人口が増え、久しく栄えることを願う。

 元宵節の午後、楽隊のにぎやかな音と共に「請酒隊」が村を練り歩き始める。「請酒隊」はその名の通り、吉事のあった家が提供する老酒を集めてまわる隊だ。彼らが到着すると、それぞれの家は爆竹を鳴らし、茶菓を供して丁重に迎える。 村の習慣では、この一年、婚礼のあった家、または子供が生まれた家は、自家製の一番良い老酒を一かめ用意する(婚礼があり、そのうえ子供も生まれた家であれば、二かめ用意する)。かめは紅絹で飾られ、おめでたい文句を記した紅の紙で封をされている。 酒が集まると、「請酒隊」は、それを祭りの会場になる竜王廟に運びこむ。ここは土地の神を祭る場所で、廟内には、雨水を司る竜王爺と、この地方の特産物であるシイタケ栽培の祖とされる呉三公なども祭られている。

 日が落ちると、今度は竜灯行列が始まる。各家はあらかじめ灯籠一対を準備しておき、夕方、男たちがそれを提げて竜王廟に集まる。そして、廟の前に置かれた竹竿に結びつけると、長い「竜灯」ができあがる。

 男たちは、竜灯を担ぎ、村を練り歩く。行列が家の門にやってくると、主人は爆竹を鳴らし、にぎやかに迎える。この「迎灯」では、爆竹と灯籠の光が輝き、チャルメラやドラ、太鼓が響き、たいへんな華やぎになる。こうして村を一周した「竜灯」は、また竜王廟にもどる。灯籠は竿からはずされ、廟の中に掛けられる。

 こうして村人がすべて揃い、楽隊の音楽がにぎやかに始まると、いよいよ利き酒が始まる。            

 村の屈強な若者が温めた老酒を木桶にいっぱい満たし運んでくる。碗に注がれた酒が次々に村人に手渡される。「××家の婚礼の酒だよ! たんと飲んどくれ!」「××家の赤ん坊の酒だよ! たんと飲んどくれ!」酒が渡るたび、掛け声が景気よく響き渡る。

 酒をふるまう家の主人たちは、廟の外で爆竹を鳴らし、会場をさらに盛り上げる。

 酒と共につまみとして落花生、ナツメ、ウリのタネが配られる。酒を飲みながら食べると、未婚者はよい妻に恵まれ、既婚者は子孫に恵まれるという。村人たちは争うように受け取り、盛んに食べる。そしてどの家の酒がいちばん味がよいか、熱心に品評を続ける。

   酒は配る時に少しずつ残し、最後にそれを一つに合わせて再び村人に配る。これは「和酒(フゥジゥ)」と呼ばれ、各家庭と村の和を象徴する。村人たちはみな最後に「和酒」を飲み干し、新たな一年の団結を誓いあう。

 利き酒をしながらのもう一つの楽しみは、各家の灯籠の鑑賞だ。灯籠の上には、詩歌や、謎かけの文句や対句が書かれ、出来栄えが競われる。

 村人たちにとって、灯籠は、文学的才能と手先の器用さの見せどころだ。毎年旧正月が過ぎると、祭りにそなえて、どの家も灯籠を準備し、一家でいちばん字のうまい者が文句を書くという。

 美酒を飲み、灯籠の鑑賞をしているうち、夜は更け十二時近くになる。次はいよいよ「搶灯(チャアンドン)」だ。まず灯籠がはずされ、それぞれの持ち主に戻される。そして誰が一番早く家に持ち帰るかを競うのだ。最初に家に到着した者は、すなわち幸福と繁栄を最も早く家に届けたとされる。

 村人はみな必死で、年長者たちは祭りの終盤、「和酒」が配られるころから、廟の出口に近い有利な位置をとり、若者に先を越されまいとする。若者たちもみな、誰よりも早く家に駆け込もうと狙う。村人が狩りで獣を追い立てる時につかう爆竹「三勾連」が高らかに響くと、それを合図に人々は一斉に駆け出す。灯籠が門に到着したら、家族は高らかに爆竹を鳴らす。その爆音がすなわち勝利宣言だ。

 男たちが「搶灯」に夢中の間、未婚の青年、そして結婚後まだ子宝に恵まれない夫婦は、酒がめに結ばれた紅絹を獲得しようと必死だ。紅絹を持ち帰るのは、新妻と子宝の訪れの象徴とされているからだ。

 さて、灯籠を持ち帰った村人たちは、それを家の客間に飾り、菓子と果物をそなえ、自家製の老酒を温めて客を待つ。  一晩中、石馬村の灯はともり、村人は互いの家を訪ね歩き、気のむくまま酒を飲み、つまみを食べる。訪れる客が多いほど家の主人は歓迎し、村は熱気のなか、豊かな時間が過ぎていく。(2001年1月号より)