雲南省大理ペ ー族・本主節

  湖面を渡る聖なる像


写真 文・楊振生 

 

 

 雲南省大理のペー(白)族には、一種の宗教のような本主信仰がある。本主は、土地を司り、村人の禍福をすべて掌握する神である。本主をまつることによって、ペー族は、五穀豊穣と家畜の多産、厄除けを願う。

 村ごとに本主がおり、一部の土地では、さらに家族ごとに本主がいる。それぞれの本主に、廟があり、本主の地位、また祭る者の財力によって、相当の規模にもなる。

 本主としてまつられる者は、民族の別や過去の戦いにおける実績など、決まりがあるわけではない。それは、時には帝王や高官であり、また庶民であり、勇者であり、敗者でもある。およそ、ペー族の人々に何か福をもたらした人は、すべて本主となり得る。ペー族の心の広さを映すような様々な本主には、それぞれ伝説が纏わっている。

 十数年前、民族識別の調査が行われた際、湖南省桑植県で、9万人ものペー族が発見された。歴史学者の考証によれば、ペー族の大理国が約700百年前にフビライによって滅ぼされたのち、蒙古族の南京侵攻に従ったペー族の傭兵たちの末裔であるという。この地区のペー族もまた本主を信仰する。桑植県内の十のやしろにまつられた本主には、ペー族の根源的文化が見られる。

 本主信仰は、ペー族の祭りの日となっており、独特の儀式がある。村ごとに毎年、本主がまつられ、祭りの日は盛大に市が開かれる。祭りの日は、旧暦1月4日か、あるいは本主の誕生日となることが多い。特に1月4日には大理の湖、ジ(?に耳)海のほとりの多くの村では、盛大に本主をまつる行事が始まり、一連の催しは16日まで続く。

 1月3日、私たちは、昆明から出発し、大理自治州政府がある下関にむかった。

 翌日、ジ海の源であるジ源県双廊鎮虹山本主廟に到着すると、鮮やかな色の旗を掲げた二隻の大きな木船が湖面からこちらに向かっているのが見えた。船が停泊すると、爆竹が鳴り、十数人の中年男性が船を下り、廟に安置された本主像に拝礼を始めた。

 その後、彼らは6体の本主像を厨子から取出し、各自1体、計6人で船に運びこんだ。それぞれに船に三体ずつ本主像を安置し、その前にあらかじめ置かれた小卓の上に、菓子、果物、タバコ、酒などを供える。香炉からはほのかな煙が漂っている。船上では一人の老人が厳粛な顔つきで本主に仕える。

 本主像をのせた船には、男性のみが乗船を許される。私たちに同行した女性はただ遠くから船を望み、道を譲るしかなかった。

 船は東に向かい、船の舳先に立つ人は、ひっきりなしに湖面に香や紙銭をまき、爆竹を鳴らす。湖の東岸は真っ黒な人波で埋まり、壮観だ。

 船が岸辺につくと、爆竹が鳴り、ドラとタイコが鳴り響き、獅子舞や竜の舞が始まる。若い男性たちは、服が濡れるのも、寒いのにもかまわず、湖に飛び込み、木船にむかい、争って本主像に抱きつこうとする。抱きついた若者は決して放そうとせず、別の者はまた奪おうとする。どうしても像を奪えない若者は、前列に出て、せめて像を触ろうとする。触れれば幸福が訪れるとされているのだ。

 岸から村への道には、駕籠が二台、先に用意されている。人々は本主像を駕籠の上に置き、像の後ろには二人の屈強な男たちが「護衛」として立つ。車の左右には荒縄がつけられ、青年、壮年の男性たちが、長い列となって縄をひく。虹山本主は、大理ペー族自治州ジ県双廊鎮の木点旁村と、康海村、天生営村の山村の本主であり、この本主の移動には、日時や道筋に決まりがあるという。

 本主を迎えるのは、一大重要事であり、行列は封建時代の統治者がやってきたかのような、威風堂々たるものである。先頭はドラとタイコの楽隊で、彼らが道を開けさせる役割を担う。次に獅子舞や竜の舞が続き、それから覇王鞭(両端に銅の飾りのついた棒)を持ち踊りながら進むペー族の若い女性たち、二人一組で香炉を捧げた男性たち、紅の傘、竜と鳳凰の旗、虎の旗、開道の旗などの一対の旗持ち、そしてやっと本主像をひく車の長い行列になる。

 村の家々の門、通りごとのかどには、木の小卓が置かれ、その上には供物が山のように置かれ、地面には三尺もの長さのお香が立てられる。壁には爆竹を束ねたものが下げられる。本主の行列が到着すると、村人たちは爆竹を鳴らし、叩頭する。ペー族の年配の女性たちは盛装を身にまとい、首から数珠と、香袋を下げ、手には木魚を持ち、ペー族の言葉で経文を唱える。表情は、重々しく、念仏を唱え終わると、老人たちも行列の後ろに続く。村人たちも老人をささえ、幼児の手をひいて、さらに列の後ろに続く。

 本主が木点旁村の本主廟に到着すると、それぞれの村ごと竜の舞が本殿と廟の中庭で行われる。その後獅子舞と、覇王鞭の舞が中庭で続く。

 舞が終わると、すべての村人が一軒ずつブタの頭やニワトリなどの供物を持ちよる。まず廟の前で焼香し、その後、紙銭を燃やす。そして廟にいたり、拝礼をする。

 二日目、本主は村で一日を過ごし、敬虔な信者であるペー族の老女たちは一日じゅう廟の中で念仏を唱えるほかは何もしない。その後、また、同様の盛大な行列が次の康海村と天生営村を回り、六日目の早朝、廟の前で獅子舞と竜の舞を行ったあと、本主に焼香し、拝礼する。その後、本主は湖に運ばれ、船に乗せられる。岸辺には、百人近くの年配の女性たちが集まり、湖面に向かって焼香し、木魚を叩いて念仏を唱える。やがて本主を乗せた船が遠く見えなくなってしばらくして、ようやく老婦人たちはその場を離れる。

 ペー族の人々の深い信仰心に私たちは深く打たれた。村ごとに本主を迎える儀式の方法は大筋は同じだが、細かな違いはもちろんある。だが、そのどれにも、村人の情熱が注がれ、非凡な光景が生まれているのだ。 (2001年8月号より)