河南省 鄭州市

 古代文明つたえる三つの博物館

       写真・閻新法 牛愛紅  郭 実 文郭 実

 

春秋時代の神獣(河南博物院蔵)

 

 


 

 河南省は、黄河中・下流域の「中原」に位置する、中華文明発祥の地のひとつだ。地理的な条件に恵まれているので、夏、商、東周、後漢、西晋、北魏、唐、北宋など多くの王朝が、ここに都をおいた。戦乱は絶えなかったが、各時代の文人や職人たちにより、すぐれた文化も数多くつくられた。それは豊かな文化遺産となり、今に残されている。

 そんな河南省の省都・鄭州市には、省・市・県など各クラスの博物館がある。規模は異なるが、いずれも国宝級の文物を収蔵しており、見どころも多い。そこで、悠久の中華文明にふれようと、有名な博物館をいくつか訪ねてみた。

 

   

     省内で最大規模ほこる「河南博物院」

 


河南博物院の夜景

 

 鄭州市農業路に面した「河南博物院」は、同省最大の規模をほこる博物館だ。前身は中国最古の博物館のひとつとされ、もとの省都・開封市の三聖廟街に1927年に起工された河南博物院。その後、61年に省都が鄭州に移されたのを機に、博物院も移転した。以来、数十年にわたって、文物の収集や保護、展示、研究など各分野で大きな成果をおさめてきた。

 しかし建物の老朽化が進み、その業績も伸びなやんだだめ、国務院(中央政府)と河南省政府が3億元(1元は約15円)を共同出資して改築。8年もの工事をへて99年、新しい河南博物院がオープンした。

 新博物院の敷地面積は、10万余平方メートル、建築面積は7万8000平方メートル。展示ホールが一万平方メートルあり、広大な規模をほこる。建物は上部がとがった角錐形で、斬新なデザインだ。伝統的な建築と現代アートを用いて、中原の黄河文明を表現したものだという。



唐代・則天武后
の金の書簡(河
南博物院蔵)

 収蔵する文物は12万点余り、うち国家・省クラスの重要保護文物は4万点余り。有史以前の文物や商・周代の青銅器、歴代の陶磁器などが充実している。展示ホールは、総合テーマの「普通陳列館」と、特別テーマの「特別陳列館」、短期間展示の「臨時陳列館」にわかれており、ビデオや録音テープで解説したり、質問に答える、コンピューター・システム化された視聴覚教育機器が設けられている。


   仰韶文化期の紅陶双
   聯壺(河南博物院蔵)

 

 商代の乳丁紋方鼎
 (河南博物院蔵) 

    青銅器方鼎の形の新館「鄭州博物館」

 
鄭州博物館の外観
 

 市の中心部、緑城広場の隣にそびえ立つのが「鄭州博物館」の新館だ。鄭州で出土した商代の青銅器方鼎を模しており、人目を引いている。

 57年に、もとの公園用地に建てられた。その後、97年に総投資額3千万元の新館の建設が着工され、2年後の99年にオープン。青銅器方鼎の形のユニークな建物は、上部が皿状の屋根に覆われている。「天はまるく、地は四角く、鼎は中原に立つ」という意味がこめられたものだという。建築面積は、1万4206平方メートル、展示用メーンホールの面積は、8337平方メートル。


商代の牛首銅尊(鄭州博物館蔵)


唐代の仏像(鄭州博物館蔵)

 河南省は、中国最古の王朝が都を定めたところとして知られるが、夏代は陽城(いまの登封市)に、商代は殷(いまの安陽市)に都がおかれ、それぞれ奴隷制時代における中国の政治、経済、文化の中心地として栄えた。省内の各地から出土した文物は、さまざまな王朝の歴史を今に伝える。

 鄭州博物館では、「鄭州文明の曙光」「古都鄭州の風采」「古代文化の趣」という三大テーマにより、鄭州で出土した文物を八つのホールに分けて紹介している。時代の流れにそくした展示は、歴史と文化の精髄を示すものとして評判を呼んでいる。


唐代の三彩缶状鼎
(鄭州博物館蔵)

北宋時代の磁枕。白い釉薬をかけ、ボタンの花模様が施されている(鄭州博物館蔵)

    仰韶文化の石器など展示「新鄭市博物館」

 
新鄭博物館の外観
 

  鄭州市から南へ20キロほど行くと、新鄭市に着く。春秋・戦国時代、鄭の国と韓の国が前後してここに都を定め、中原に覇をとなえる大国となった。紀元前230年に韓が秦に滅ぼされるまで、都としての歴史は五百年におよんだ。新鄭市は現在、鄭州市に属する県レベルの市である。

 古い歴史をもつ新鄭市には、多くの文物が残されている。鄭・韓時代の古い城壁が、ほとんど昔のままに保たれ、古城の遺跡からは、つき固めた土台や戦国時代の兵器、古代の生活用品や芸術品の数々が発掘されている。新鄭市から西北へ約八キロ離れた村・裴李崗村からは、いまから約八千年前の新石器時代の石器や陶器、墓葬品が数多く出土している。こうして、新鄭市は古くから「露天の博物館」と呼ばれている。

青銅器の展示コーナー(河南博物院 )

 市街区の西北部にある「新鄭市博物館」は、1994年に建設された。敷地面積1万6000平方メートル、建築面積2300平方メートル。主要建築は、中国の伝統的な建築様式をとり入れた二階建て。3つの大ホールが5つの部分に分けられ、そこに千点余りの文物が展示されている。主な展示物は、次のとおり――。

 一に、旧石器時代以前の古生物の化石。中国で発見された、最も長いナウマン象の象牙化石(長さ3・55メートル)がある。

 二に、裴李崗村で出土した石器や陶器、墓葬品など。文物からは、八千年前に早くもここが、農業や手工業、家畜の飼育を主とした経済社会を築いていたことがわかる。

 三に、新石器時代中期の「仰韶文化」(紀元前5000〜前3000年)に代表される石器や陶器、骨器、墓葬品、装飾品など。

 四に、春秋・戦国時代の鄭・韓の古城に出土した兵器や楽器、祭祀器物、生活用品など。当時の高度な都市建設や工業、科学技術の水準から、発達した都市の様子がうかがえる。

 五に、四千年前から民国時代までの貨幣。

 展示物が時代ごとに区分されているので、そこから歴史や文化の発達のプロセスをつかむことができる。鄭州の博物館めぐりで、悠久の中国の歴史に思いを馳せてみてはいかがだろうか? (2001年8月号より)

 


春秋・戦国時代の楽器、編鐘(新鄭博物館蔵)