この館 この一点

飛燕を踏んで翔ぶ
銅製の「奔馬」
 
 魯忠民



銅器
後漢(25〜220年)
長さ45×幅13×高さ34.5センチ

 


 1969年10月、まさに「地下博物館」と呼ぶにふさわしい甘粛省武威市の雷祖廟雷台漢墓から、多くの文物とともに、銅製の「奔馬」が発掘された。郭沫若氏が「馬踏飛燕」(馬、飛燕を踏む)と名づけたこの奔馬は、古代の馬を題材にした最高の傑作である。

 同奔馬は、空飛ぶツバメをとらえ、残りの三本足は空を駆り、首をもたげていなないている。その全身から、人を圧倒する勢い、しなやかさ、力強さ、スピード感などが伝わり、造型は愛くるしく精緻で、構造は巧妙で、工芸品の域を超越したすばらしい境地に到達している。

 生き生きとして気品ある奔馬は、アメリカ、日本、イギリス、フランスなどで展示された時、「芸術作品の最高峰」と絶賛された。

 1983年、国家旅遊局は、同奔馬を中国観光のシンボルマークに決めた。報道によると、国家旅遊局は近く、同奔馬を国際関連組織に推薦し、フランスのエッフェル塔、アメリカの自由の女神とともに、世界観光のシンボルマークという栄冠を競うことになる。

 専門家の考証によると、力強さみなぎるこの奔馬は、西域から中国に入ってきた「汗血馬」をモデルに創作されたものだ。「汗血馬」は古代、世界にその名をとどろかせていた名馬である。同馬が駆けると、首の辺りからまるで血のような赤い「汗」が出たため、この名がついた。肉付きがよく優美で、頭が細く首は長く、体の線が美しい馬である。

 中国のある史書によると、前漢の張騫が使節として西域に派遣された際、「汗血馬」を見つけた。その後、この名馬を手に入れるために、漢の武帝が西域の大宛国(現在の中央アジア)に何度も攻め入ったほどだった。当時歌われた詩には、「天馬」という美称が使われ、以来、中国での奔馬の名声は不動のものとなった。(2003年4月号より)


 
 

甘粛省博物館
文・魯忠民
 写真提供・人民画報出版社
 


 1959年に創建された甘粛省博物館は、蘭州市市街区に位置し、敷地面積は7ヘクタール、主要な建物の建築面積は1万8000平方メートルある。歴史、民族、自然などの文物標本8万点近くが所蔵され、国家1級文物は600点以上、国宝も16点ある。

 彩陶、漢代の木簡、仏教芸術が、所蔵品の三大特徴だ。花瓶型で口の部分は人間の頭の形をした原始時代の彩陶をはじめ、4〜5世紀の東ローマ帝国の銀皿、前漢(前206〜紀元8年)の儀礼用竹簡、今回紹介した奔馬などがある。常設展は、「シルクロード・甘粛省の文物精華展」「嘉峪関の魏晋壁画墓」「甘粛省の少数民族文物」「黄河の古象」など。

 同博物館は、彩陶、仏教芸術、簡牘学、西夏(1038〜1227年)史などの方面の権威的な研究者を数多く擁するほか、10万冊以上の専門書籍を所蔵する図書館、それに、かつて様々な国レベルの科学賞を受賞した文物保護技術実験室を有している。最近30年あまりの間には、1万5000点の文物に対し修復または保護措置をほどこしたが、その中には、国際レベルに達した技術も少なくない。また、『武威漢簡』『武威医薬簡』『甘粛彩陶』などの学術的価値の高い書籍を出版している。

 甘粛省博物館は2002年10月20日、拡張工事のために休館した。総投資額が1億元を超えるこの工事は、2004年に終了する。残念ながら、しばらく参観はできないが、今回の工事により、より先進的な設備を導入し、中国西北地区最大の文物保護センターに生まれ変わる。