『興亡夢の如し』銭寧・著 東洋書院刊


 李斯は「性悪説」をとなえた旬子の弟子であり、秦王贏政のもとで丞相となった人物である。彼の献策に沿って贏政は、次々に他の六国を滅ぼし、中国を統一することに成功した。いわば始皇帝最大の功臣とも言うべき人物であった。しかし始皇帝の死後、李斯の歯車は狂っていく。これらのことはみな小学校時代に先生が私に教えてくれた話である。歴史の本を読むことは、一種、記憶に残っているものと実りある対話をするような側面をもっている。また、読み手も、その本の登場人物に対する見識ありや、なしや、いろいろと考えさせられる。本書は筆勢があって、読んでいるとその流れに乗せられ、独特な快感を覚える。著者は言う「李斯と彼の経歴は、中国の政治を理解する一つの鍵であり、数千年来変わることなくゲームのように同じ規律に従って進行している」。歴史は現代にむかって絶えず「汝はいったい何者ぞ」という問いを投げかけたがっているが、そのたびに昔の人物が澱のように沈澱せず、書籍というかたちで人々の前にあらわれてくるということが幸いに思われる。(文・毛丹青)