自動車のある新生活

 
 合弁企業で働く王国慶さんは、2000年に初めて自家用車を手に入れた。買ったのは中古車だったが、王さんの家族が車を大切にする気持ちには、何の影響も与えなかった。中でも王さんは特別で、いつでもピカピカに磨いておかなくては気が済まない。奥様は、「部屋の掃除では、あんなに熱心な夫は見たことがないわ」と笑う。

 車は赤いシトロエンで、新車よりも約四万元安い12万5000元、一回払いで手に入れた。

 奥様は、車のある2年間の生活を満喫し、新たに新車を手に入れようと計画している。目星をつけているのは、上海大衆汽車公司(上海自動車とフォルクスワーゲン社の合弁会社)の新車種パサートだ。20万元ちょっとするため、ローンを組もうと考えていて、「シトロエンを売って戻ってきたお金を頭金とし、分割払い分は、夫婦の一人分の給料を当てようと思っているの。日常生活に支障はきたさないはずよ」と話す。

王さん一家の生活は、自家用車を手に入れて以来、より刺激的になった

 中国では、王さんのように自家用車を購入する人が、ますます多くなっている。1993年には、中国の自動車購入者のうち、個人購入者は全体の10%に満たなかったが、00年には、50%まで跳ね上がった。自動車の「スピード」は、人々の生活に変化をもたらしている。

 車を手に入れてから、王さんの家庭生活は大きく変わった。週末には、家族で車で郊外に出掛け、親戚を回り、買い物を楽しむ。01年には、20歳になったばかりの息子が運転免許を取得し、交替で運転できるようになった。近場だけだった行動範囲が、さらに遠くまで広がった。

マイカー時代の到来によって、都市の彩りが加わった

 02年、メーデーの一週間の長期休暇には、北京から湖南省まで家族旅行に出掛けた。車には、ミネラル・ウォーターや食べ物などを充分に積み、小さな枕やタオルケットなども用意した。車はさながら、「移動する家」のようになり、旅路はすこぶる快適だった。

 以前の王さんは、多くの中国人同様、自転車で通勤し、毎日、片道約1時間の道を往復していた。冬の強い北風を突いて必死にペダルを踏んだあの感覚はいまでも脳裏を離れない。当時の、王さんと奥様の週末といえば、買い物、料理、洗濯、掃除の繰り返しで、郊外への日帰り旅行や、いまでは彼の趣味になった魚釣りを楽しむことなどは、夢のまた夢だった。

大都市の駐車難

 車を買って、確かに時間は節約できた。しかし王さんの親戚が、王さんを頼る機会は明らかに増えた。「今日は友達を迎えに行き、明日は親戚を送り……」と、みんなから協力を求められる。河北省の親戚が結婚式を挙げた際にも、花嫁のお迎えを手伝ってほしいと言われたほどだ。

王さんは、愛車を自分の子どものようにかわいがる

 もうすぐ50に手が届く王さんがいま一番ほしいのは、一週間の仕事の疲れを癒せる週末だ。幸いにも、息子が父親に代わって車を運転できるようになり、息子が父親を魚釣りのポイントまで送り、父親を降ろしてから一人で人の手伝いに行くことが多くなった。そして、夜に父親を迎えに戻る。

 車を買ってから、王さんには重要な仕事が増えた。車拭きである。車は家族にとって大切な存在で、心を込めて接している。しかし、どこに駐車するかは、頭痛の種になっている。

国際モーターショーに足を運んだ人びとは、自分の未来を思い描いた
自動車台数の増加にともない、一刻も早い渋帯問題の解決が望まれる

 王さんの生活区では、車所有者は増える一方で、駐車スペースはどんどん少なくなっている。アパート周辺、道端など、あちこちに自家用車が止まっていて、毎日、なかなか駐車場所を見つけられない。もし、アパートから少し離れたところに止めれば安心できず、アパートの前に止めればいつでも目に入るが、人の行き来が多く、やんちゃな子どもが車に傷をつけるのではないかと心が落ち着かない。

 細心の注意を払って駐車場所を選んでいたにも関わらず、ある日強風が吹いた際、階上から落ちてきた木片がボンネットにぶつかった。王さんはその時にできたくぼみを指しながら、「ここですよ。これじゃあ、妻の新車購入計画も考え直してもらわないとなあ」と悔しそうに言った。

ショッピングセンターでの自動車展示や、自動車ショールームも増えてきた

 中国には以前、社会体制の関係で自家用車はなかったため、都市や生活区の開発計画に、駐車スペースは考慮されてこなかった。近年、自動車が増加し、生活区は自動車に占領され、車と車、人と車の間での不愉快な出来事が絶えなくなった。また、ショッピングセンター、映画館・劇場、スタジアム・体育館などに行く人も、出発前に駐車場を探す時間を計算に入れなければならない。さもなければ、慌てて駐車スペースを探す気まずさを味わわなくてはならなくなる。これでは、自動車でのスピードある生活の魅力は、かなり割り引かれてしまう。

 北京市政府は、駐車スペースを増やす措置を推進すると同時に、繁華街の駐車料金を引き上げる政策を出した。通常一時間2元のところを、繁華街の商業区では1時間5元とし、中には10元の場所も登場した。こうすることで、公共交通機関の利用をうながしている。

交通、市政の新課題

 自動車は、90年代以降、徐々に中国人の生活に入り込んだ。

 北京大陸自動車クラブの総裁・高洋さんは、自分の起業についてこう振り返る。

駐車場不足は、庶民を悩ます問題の一つ

 「救援と修理サービスを行う自動車クラブを立ち上げた95年当時、友人からは、『お前は進みすぎてるよ』と言われたものでした。実際、97年になっても会員はわずか数千人でしたが、98年には3万人に膨れ上がりました。当時は、その会員数を3年間維持できるようなら成功だ、と思っていた程度でした」

 98年以降の発展は、幾何学的だった。いま、会員はすでに15万人になり、北京で最大の自動車クラブに成長した。うち、自動車の個人所有者は80%を占めている。

車所有者は、買い物、旅行などの自動車がもたらした新生活を満喫する

 中国では、自家用車が飛躍的に増え、大衆文化、都市計画、交通などの様々な分野に影響を与えている。最近6年で、高速道路網の総距離は3000キロから2万キロに延びた。01年には、中国最長の高速道路である1262キロの京滬(北京―上海)高速が開通した。これにより、移動時間は、従来の20時間以上から12時間に短縮され、自動車旅行も可能になった。

 しかし自動車の増加は、間違いなく交通事情や市政に新たな難題を突きつけている。北京には、二環路から四環路の三本の環状道路が開通したが、交通ピーク時の主要道路や交差点は、必ず渋滞している。

 王さんは、通勤・帰宅の時間帯には、四環路が一番走りやすいと言う。四環路は、制限時速80キロに設計されていて、交通ピーク時でも、時速30から40キロを保つことができる。もし市中心なら、とてもこのような走行はできない。

排気ガス排出基準は、年一回の車検での重要なチェック項目の一つ。合格すると、緑色の環境保護マークをフロントガラスの貼る

 渋滞に巻き込まれないために最もよく用いられる手段は、早めに出発することだ。筆者のある友人は、会社まで約20キロの場所に住んでいる。順調に走れば20分で着く距離だが、毎日出社時間の1時間前には出発している。彼はいたずらっぽい口調でこう言った。「これには二つのメリットがあるんだよ。一つは渋滞でイライラせずに済むこと。もう一つは、毎日一番早く出社することで、上司への印象が良くなること」

 都市、特に北京のような大都市の交通問題は、近年人びとの関心を集めている。

 ある学者は、現在の都市は規模があまりに大きく、中心部に機能が過度に集中しているため、交通の負荷が大きすぎると主張する。また他の学者は、交通管理の不徹底、特に立体交差や交差点の設計の不合理性が、交通渋滞を引き起こしていると考えている。中には、都市の自転車台数の多さや、中国人の交通規則の軽視が、交通を乱している重要な原因だと考えている人もいる。

 最近、北京の自動車総数をコントロールすべきだと主張する専門家も出て来た。

 この政策は、上海など一部の都市ですでに行われている。自家用車のナンバープレートは競売されていて、一枚、約2万元する。毎年発行されるプレートの枚数は、平均速度の変化により決定し、交通量をコントロールしている。

自動車産業の発展は、修理、洗車、アクセサリーなどの関連産業の発展をうながしている

 北京の昨年10月の自動車総数は170万台で、専門家は、00年からの10年間で350万台を超え、市街区の道路の負荷は、現在の2・5倍以上になると予想している。そのため、北京市は今後10年で1800億元を投資し、バス・鉄道網を整備し、交通事情を改善させようとしている。

 交通渋滞と密接に関係しているのは、排気ガスによる大気汚染問題である。

 弊社がある車公荘地区は、二環路の交通量の多い交差点に隣接している。渋滞は日常茶飯事で、大気汚染も非常に深刻な場所だ。国家環境保護総局、北京市交通管理局も、偶然にもこの交差点から近いため、近所の人たちの話題は、必然的に環境や交通に及ぶ。

 98年以降、北京市では、一連の大気汚染抑制措置を取ってきた。石炭燃料による汚染、浮遊物による汚染、排気ガスによる汚染に、それぞれ具体策がとられている。

 99年1月1日からは、自動車排気ガスには、EUROTの環境基準が採用された(EUROは、数字が大きくなるに従い、厳しい基準値となる)。不合格の車両には、電気コントロールによる浄化装置が取り付けられた。装置を取り付けた車両には、緑色の環境保護マークを貼ることで、走行許可が下りる。また、毎年排気ガス検査を行い、その都度、マークを更新することを義務付けている。

 一方で、公共バスやタクシーに対しては、低汚染の天然ガス(液化石油ガス〔LPG〕)を使用する改造が施された。01年末までに、北京市は、1630台の天然ガスバスを導入し、世界で同種のバスの最も多い都市となった。

 このような措置により、北京の大気汚染は大幅に改善した。01年、北京市の大気基準は、良好を意味する二級および二級以上の日が185日となり、年50・7%を占め、98年同期比23・3%増だった。しかし、自動車台数の急激な増加により、大気中の酸化窒素などの汚染物質は、いまだ増加傾向にある。

 このような状況を改善し、北京市が世界から認知されるため、08年の北京五輪開催時には、排気ガス排出基準は、EUROVレベルに引き上げられる。北京市では、03年1月1日から、新たな「国家車両排気ガス排出基準第二段階排出限度値」を適用する。これは、EUROUに相当する。この基準が全国で執行されるのは、05年である。(2003年1月号より)


ガソリン、天然ガス

▽二大元売り
 ・中国石油化工集団(グループ)
 ・中国石油天然ガス総公司
 ※このほか、ロイヤル・ダッチ・シェル、
  モービルなどの外資も合弁で参入して
  いる

▽小売標準価格
 ・国家発展計画委員会が発表。
 ・同発表価格の上下8%以内で、各小売
  会社が定価を決定

▽1リットル当たりの小売標準価格(2002年9月現在)
 ・No.93ガソリン  2.94元
 ・No.97ガソリン(ハイオク) 3.06元
 ・ディーゼル油  2.75元
 ・天然ガス  1.95 元

中国の大・中都市では、どこでも無鉛ガソリンが使われている