専門の健診センター

北京九華山荘健診センターで人間ドックを受ける王樹傑さん(左)

  薄いブルーの検査服に着替えた王樹傑さん(46歳)は、北京九華山荘健診センターで、看護師に案内されて各科の健康診断を次々と受けた。

   河北省河間市に住む王さんが人間ドックを受けるためにここへやってきたのは、これで二度目。2年前と同様、今回も身体はいたって健康で問題なしという結果に、「健康でこそ、安心して仕事ができます」とうれしそうだ。

   王さんは河間市の建築会社でプロジェクト責任者をしている。住宅やオフィスビルなど民間建築物の建設を専門的に請け負う。建築市場は現在、競争が熾烈で、プロジェクト責任者の王さんは、建築現場へ赴いて生産指導をしたり、会社の各方面の管理を担当したり、さらには顧客と打ち合わせをしたりと、毎日10時間以上働いている。

マンツーマンの親切なサービスを提供する看護師が、診察室の前で受診者を待っている

  河間市から北京までは車で2時間かかるが、不便だとは思っていない。「ここはサービスが良く、検査も綿密なので、1日を費やすだけの価値がありますから」

   都市で生活する人にとって、健康診断は見知らぬものではない。健診との最初の出会いは、学校や軍隊に入るときや特殊な任務に就くときだろう。しかしその時の健診は、自分の体が条件を満たしているかを証明する必須の手続きであるだけで、病気の予防とは基本的に無関係だ。

  1980年代以降、一部の企業や事業体は健康診断を福利厚生とし、職場側が費用を負担して従業員や定年退職者に定期健診を行った。福利厚生といえども、健診の実施は職場の経済状況にしばしば影響された。経費が不足しがちなところは、支出も制限されるため、1年に1回の健診を二年または数年に1回にした。また、健診項目をできるだけ簡略化し、年齢や職種の違いを考慮せずに、最も基本的な一般検査だけを一律に行うところもあった。よって、隠れた病気を見つけ出すことは難しかった。

九華山荘健診センターの人間ドックは、VIPコースと普通コースの二つに分かれている。VIPコースでは、始めから終わりまでずっと看護師が付き添い、受診者の質問にきめ細かく答えてくれる

  健康診断はこれまでずっと、病院内で行われていた。健診科を設けている病院もあれば、数人の医師を臨時的にかき集めて行う病院もあった。

   何枚かの化学検査表と健診表を持って、各科の診察室をかけまわる。ほとんどすべての診察室は、入り口が長蛇の列となっている。受診者は焦燥感と不安にかられながら、順番を待ちつつ健診表をチェックして、あといくつ検査しなければならないかを数える……。多くの人はこのようにして健診を受けてきた。

   かつての人間ドックは、一般的に病院が休診の週末に行われていたが、医療改革後は週末も診察を行う病院が増えたため、健診の受診者たちは診察を受けにやってきた患者たちと入り交じって病院中を上へ下へとかけまわらなければならなかった。これにより、混乱をきたしたばかりか、感染の危険性も増えたため、病院で健診を受けるのを憂慮する人も多かった。

   王樹傑さんが利用している九華山荘健診センターは、1997年に中国初の専門的な健診センターとして創設された。規模も国内最大である。

同センターが行っている健診項目は120以上に及ぶ

  九華山荘は北京市北部の小湯山鎮に位置する。健診センターには最先端の医療検査設備が整えられている。ここで働く医師のほとんどが大病院の定年退職者で、30年以上の臨床経験を持つ。これらのベテラン医師が、自分の経験と技術をもとに、綿密な身体検査を全面的に行う。検査後には、各受診者の健康状態にあった治療や飲食、保健方法などを教えてくれるだけでなく、個人の健康カルテを作成して身体上の変化について注意を促してくれる。

   また、ホテル式の管理とヒューマニティーなサービスも売りもの。心地よい環境、使い捨てで衛生的な受診者の検査服、朝食の無料サービス、そして看護師の温かい笑顔と医師のきめ細かな検査。かつての健診では得られなかった快適さである。

健康は最大の財産

九華山荘健診センターの採血ルームは、豪華で落ち着ける環境。まるで家にいるような温かさがある

   近年、市場経済の激しい競争と社会生活のリズムの速さに、都市部の人々の多くは日増しに巨大なストレスを感じ、「亜健康」(病気と健康の中間)の状態に陥っている。

   IT企業でプログラマーとして働く李さん(25歳)は勤務先が遠く、毎日6時半に起床して、朝食を食べる暇もなく出勤していた。仕事に追われ、退勤時間は毎日夜の9時過ぎ。夜中の12時を過ぎることもあった。疲れすぎて家へ帰る気力もないときは、机にうつぶせになって眠り、目がさめたらそのまま仕事を続ける。週末も土曜日か日曜日のどちらかは出勤しなくてはならず、体を鍛える余裕もない。このような生活を2年続けた結果、体に不調を感じ、一日中やる気がなくなって、しょっちゅう睡魔に襲われるようになった。そこで、家から近い会社に転職した。それでも「私のような特別に頭を使う職業は、どの会社でも仕事量はそんなに変わりません。長くて10年、それ以上は続けられないと言われています」と語る。

同センターは、受診者に朝食を無料で提供する

  専門の調査会社が、ある大都市のコンピューターソフト、通信、商業、メディア、広告、コンサルティングなどの企業に勤める20から50歳までのホワイトカラー100人に対して行った調査によると、20%が胃病や肥満、貧血、便秘、高コレステロール、高血圧などの病気を抱えていると答えている。36%が食欲不振、ストレス、頭痛、疲労、風邪をひきやすいなどの症状をしばしば感じており、60%以上が適切な飲食や生活、運動量を維持しておらず、その主な理由は「時間がない」だった。

   また、これまで高齢者の病気だった高血圧や冠状動脈心臓病、糖尿病、脳卒中などが、中・青年にも及ぶようになり、過労による突然死も聞かれるようになった。

   このような現実を前にして、病気にならなければ病院には行かないという考えを改め、自主的に身体を「検査し整える」人がますます増えた。

  九華山荘健診センターの総支配人である張青松さんの紹介によると、当センターの業務量は、1997年の創設以来、毎年40%以上の伸び率で増えている。これまでは、健康を最も気にするのは高齢者であると一般に考えられていたが、現在、受診者の70%は中・青年であり、30〜50歳の人が一番多い。張さんは、「以前は、『30歳以下は人が病を探し、30歳以上は病が人を探す(30歳以上は病にかかりやすい)』と言われていましたが、今では、精神を張り詰めた生活や高脂肪・栄養過多の食事、都市の空気汚染や休息・運動不足により、30歳以下でも病が人を探しているのです」と話す。

病気の診察や健診は、やはり正規の病院で受けたいと考える人が多い。しかし、人が多くて時間がかかり、職員の勤務態度がよくないこともあるのが頭痛の種だ

   人々が次第に健康診断に関心を持ち始めたのは、健康観念が普及したからでもある。生活が豊かになった後、生活の質への要求が最大の関心事となった。医療や薬に対する問合せや保健の常識、保健法、薬膳の作り方など健康に関するさまざまな事柄が、テレビや新聞、書籍などで扱われるようになった。

 貧困で苦労した経験をもつ中国人も、よい生活とは飲食が足り、住む家があるという単純なことではなく、健康な体と精神の追求が必要だということにだんだん気が付き始めた。健康こそがよい生活を保証する、人生最大の富なのだ。

健診に対する新しい考え

高齢者の健診や病気の診察は、近くのコミュニティーの病院と職場の指定病院に頼るところが多い

  王樹傑さんが健康診断を重要視するようになったのは、つい最近のこと。それまでは病院にさえ行かなかったという。「15年前は家で農業をしていて、若くもあったため、健康に対する意識がありませんでした。健康診断とは何なのかさえ知らなかったのです。建築会社に勤めてからは、組織的に健診を受けたことがありますが、当地の病院で受ける検査は非常に簡単なものです。それに不定期であり、数年に一度なのです」

   すでに中年となり、仕事のプレッシャーも大きい王さんは、「経済的に余裕ができたからには、ちょっと余分にお金を払って人間ドックを受ければ、その場でどんな病気があるかを調べることができ、治療のための多大な出費を抑えることができます。こうしたほうが実際は経済的なのです」と話す。王さんは今回、2000元を払って総合的な検査を受けた。今後も毎年一回検査を受け、自分の健康状態を把握したいと考えている。

   大都市では、自費で人間ドックを受けることが一種のステイタスとなっているといってもいいだろう。しかしその数はまだそんなに多くはない。九華山荘健診センターの受診者のうち、健診費用を個人で負担しているのは30から40%だ。

  自費で健診を受けたいと考えるのは、自分の健康に関心があるという理由のほかに、中国の医療改革が健診の普及を促進していることも大きく関係している。

専門の健診センターで健康診断を受けるようになったのは、ここ最近のこと。しかし大部分は企業や事業体などが組織的に行う福利厚生で、個人的にやってくる人はまだ少ない

  これまでの公費医療制度では、国家が従業員の医療費をすべて負担し、個人の負担は基本的にゼロだった。現在の医療保険制度では、個人は一定の割合の医療費用を負担しなければならない。毎年一定の健診費用を支出し、深刻な状態になる前に、病気を発見して治療を行うことは、病状の悪化を防ぐだけでなく、治療費を減らすこともできて、実に経済的である。そのため、自費で健診を受ける人が増えているばかりでなく、会社側も従業員の健診をますます重視するようになった。どちらにしろ、従業員の医療費のかなり多くは会社側が負担している。

  また最近は、休日に一家で健診を受けるという新しいケースも現れている。若者が両親に付き添ってやってきて、孝行の気持ちとしてVIPコースの人間ドックを受けさせるのだ。友人の間で健診をプレゼントすることも流行っている。九華山荘健診センターの張総支配人の話によると、毎年春節(旧正月)前後になると、企業や個人が知人や顧客に贈るために健診券を購入していく。今年の春節前には、顧客への贈答品として3000元のVIPコースの健診券を200枚購入した企業もあったという。

   需要がますます大きくなるにつれ、各大病院はこれまでのようないい加減な健診を改めるようになった。規模を拡大して設備を整え、専門員を配置するなど専門的な健診センターを開設している。民間の医療機関もすぐさま健診市場に参入した。管理経営システムの柔軟性を生かして、高価格な設備を導入したり、大病院の医師を招聘したりし、ヒューマニティーなサービスを提供している。

1970〜80年代、都市の大きな国営企業や事業体は医務室を設置して衛生員を配置し、従業員の簡単な健康管理や、風邪、発熱などの手当てを行っていた

  人間ドックを普及させて来客数を増やすため、さまざまな販促手段が次から次へと現れている。シルバー健診、接待族健診、ホワイトカラー健診、企業家健診などコースも豊富だ。ほかにも「緑色通道」(手続きが簡略化され、安全かつ迅速に受診できる)の推進、中医保健や美容痩身サービスの提供、リゾート地での健診など各種の方法で受診者を招いている。費用も数百元から1万元とさまざま。統計によると、正規の病院を除いて、北京には30を超える非国営の専門健診機関がある。

   しかしこれらの中には経営が規範化されておらず、勝手に料金基準を上げたり、高い料金を取るために検査項目をバラバラにしたりしている機関もある。最近、北京の健診市場を規範化するため、北京市衛生局は『北京市健診レベルの保証と改善に対する評価基準』『北京市医療機関の外出健診業務規範』などの関連規定を公布した。健康診断で使用する場所の総面積は400平方メートル以上、各専門項目に5年以上の従業経験を持つ専門医師を少なくとも一人配置する、健診機関には検査ベッドなど54件の基本器具・設備を整えるなどの条件を要求している。こういった規定により、北京の健診機関の質はますます高くなり、条件を満たさない機関は徐々に淘汰されていくことだろう。(2005年9月号より)



 ▽ 基礎健診の項目は一般的に・血圧・身長・体重測定・胸部のX線検査・肝臓・胆嚢・膵臓・脾臓・腎臓の超音波検査・内科・外科・眼科・耳鼻咽喉科の基礎検査・婦人科検査と癌予防検診・心電図・尿検査・採血による生化学検査――肝機能(アラニン・アミノトランスフェラーゼALT)・腎機能(血中尿素窒素BUN、血清クレアチニンCr)・血糖(GLU)、血中脂質(総コレステロールCHO、中性脂肪TG)・B型肝炎検査(B型肝炎表面抗原HBsAg)など。

 ▽ 特別な要求がある場合、需要に合った検査項目を増やすことができる。例えば、腫瘍検査、血流検査、心臓や頚動脈のカラードップラー超音波検査など。

 ▽ 基礎健診の費用は一般的に1人300元前後。検査項目を増やすごとに費用もかさみ、1000〜7000元までさまざま。

北京九華山荘健診センターの外観


 
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