快速便利な庶民の「足」

趙慧梅さんは毎日、電動自転車を使って娘の送り迎えをする
   趙慧梅さん(38歳)は毎日、青色の電動自転車を利用して小学校六年生の娘を送り迎えしている。娘が小学校に入学したその日から、雨の日も風の日も自転車で送り迎えを続けてきた。学校から家までは自転車で30分。そんなに遠くはないが、路上は車や人が多いため、一人で通学させるのは心配なのだという。「送り迎えをするのは一苦労ですが、安心できます」と趙さんは話す。

 娘は母親と変わらないぐらいに背丈が伸び、自転車の後ろに乗せて走るのは楽ではない。「特に、冬に冷たい北西の風を浴びながら自転車に乗るのは、本当に大変です」

 電動自転車で子どもの送り迎えをする人は少なくない。子どもたちが厚いダウンジャケットを着て、ずっしりと重いカバンを背負っていても、電動自転車ならがんばってこぐ必要がないからだ。ペダルの上に足を乗せているだけで進む。

2006年3月に天津市で開催された国際自転車展覧会には、日本や韓国、オランダ、フランス、台湾、香港などの国や地域および中国の国内メーカーなど計430社が参加。世界各地から10万人以上が会場を訪れた
 自転車は、中国の工業製品のなかでもっとも早くから普及した大衆の製品だろう。中国人の暮らしにおいて、非常に重要な交通手段であり続けた。

 しかし近年、都市はしだいに近代化し、拡大した。それにともない市民の活動範囲も広がり、地下鉄や路線バスの利用が便利になった。マイカーを購入する人も増えた。

 道路には自動車が増え、かつて至るところにあった駐輪場はどんどん駐車場に変わっている。自転車専用車線の大半が、スペースの半分を自動車の駐車場所にされてしまった。自転車の利用者たちは、自分たちの専用車線を走っているのに、後ろから自動車にクラクションで道を譲るよう促され、腹をたてたり悔しい思いをしたりすることも多い。

 道路は以前よりも広くなったが、自転車は以前のように自由自在に走ることができなくなった。朝夕のラッシュ時、渋滞した自動車が時速20キロ足らずで走っているのを見ただけでたじろいでしまう。

 それでも自転車が、庶民の暮らしのなかから消え去ることはない。買い物や子どもの送り迎え、通勤にはやはり自転車が使われる。特に、大通りや路地を自由に行きかう電動自転車は、環境の変化に応じた新しい選択肢だ。

都市には電動自転車の専門店がたくさんある
 電動自転車は、「助動車」「助力車」「電動車」「軽型電動車」など、都市によって呼び方が異なる。外観はバイクに似ているものもあれば、自転車に似ているものもあるが、どちらも動力はバッテリーだ。動力装置で自動走行もできるし、普通の自転車と同じようにペダルをこいで進むこともできる。バイクよりも安く、普通の自転車よりも速くて楽に進める。

 利用者はお年寄りから若者まで世代を問わない。お年寄りは比較的ゆっくりと走らせる。「平らな道は自分でこぎ、坂道になると電力にたよります。体を鍛えたいときはペダルをこぎ、休みたいときは電力にたよることができます」とあるお年寄りは言う。それに比べ、若者はスピードを出す。特に速達便や飲料水の配達をしている人は、大通りや路地をスピードをあげて走りまわっている。

 電動自転車はすでに日常の交通手段となった。農村には大容量のバッテリーを装備したものもあり、一回の充電で60キロ以上走行できる。これにより、農民は都市部へ働きに出かけたり商売をしに行ったりすることが便利になった。電動自転車が生計をたてるための交通手段になっているのだ。

禁止か容認か

王さんは定年退職してから、毎日30カ所の新聞スタンドに新聞を配達している。電動自転車があると速くて楽だ
 1995年、中国初の電動自転車が上海に登場。99年には国家標準ができ、生産の奨励が始まった。しかしその一方、電動自転車は自動車なのか非自動車なのか、ずっと明確にされずにきた。そのため、都市によって管理方法が異なる。

 上海市や江蘇省、浙江省などでは、電動自転車の消費を奨励する政策をだし、ナンバープレートを交付して、路上走行を許可している。それに比べ、生産や販売を許可しているのに、路上走行を禁止している都市もある。ナンバープレートを交付しない都市さえある。

 こうした状況が現れているのは、電動自転車に対する考え方が人によって異なるからだ。

 賛成者は、速くて楽なうえ価格も安く、中・低所得者の使用に適しているので、もっと奨励するべきだという。反対者は、普通の自転車より速く、自動車より遅いため、自動車専用車線、非自動車専用車線のどちらでも混乱を招くし、ブレーキをかけたときのけたたましい音は、深刻な騒音被害になっていると指摘する。廃棄電池による環境汚染の懸念もある。

2005年に南京市で開催された省エネ技術の展覧会に、太陽エネルギーを利用した電動自転車が出展された。車体の前部と後部にそれぞれ3つの太陽エネルギー電磁翼板が取り付けられ、電源を切ると翼板が開き、充電できるというしくみになっている
 北京市は2002年に市場調査を実施。当時、市内には電動自転車が十万台あった。それにも拘らず交通管理部門は政令をだし、電動自転車の臨時ナンバープレートは05年末までしか使えず、06年1月1日からは路上走行を禁止するとした。

 電動自転車は北京では許可が下りていないと知っていながらも購入した趙慧梅さん。「そうは言っても、必要だったのです。買ったときからずっと、使用が禁止されたら娘の送り迎えはどうしようと心配していました」と話す。

 メーカー側も不満を抱いた。生産は禁止されていないのに、路上走行を禁止するとは理解しがたいからだ。

 しかし幸いなことに、この政令の施行はしばらく保留となった。この間、社会各界が電動自転車について話し合い、それぞれの意見を発表しただけでなく、交通管理部門も安全性などについての理解をより深めた。

 04年5月1日、改正された新しい『道路交通安全法』が、電動自転車は「非自動車」であると法律上で明確にした。そして臨時ナンバープレートの期限が切れる前、北京市は政令を改正し、06年1月4日から、国家標準に合った電動自転車にナンバープレートを交付し、路上走行を許可するとした。

今後の行方は

電動自転車は一台1500〜2000元
 北京市の決定に電動自転車の利用者は安心した。しかし交通管理員は息をつくことができない。北京のような大都市では、大半の道路が自動車車線と非自動車車線に分けられている。電動自転車は非自動車車線を走るのだが、普通の自転車より速いため、危険要因となっているのだ。

 しかも利用者の多くは、電動自転車の速さが危険を引き起こすとは意識していない。これまで利用していた普通の自転車の延長で、自分の都合のよいように交通ルールを無視する傾向がある。われ先にとスピードをあげたり、突然まがったり、逆走したり、信号無視をしたり、自動車車線を走ったり……。道路の秩序を乱している。

バッテリーは自宅や会社などで簡単に充電できる(写真・カオ慧琴)
 電動自転車の出現により、公衆の交通理念や行動と都市の近代化やスピード化の間の矛盾がはっきりした。この矛盾を短期間で解決することは不可能だ。このため、電動自転車は禁止すべきなのか容認すべきなのか、最終的な結論はでていない。

 数カ月前、広州市は広東省政府から承認を受け、電動自転車の路上走行を禁止した。大多数の都市が容認しているなか、広州市がこのような決定を下したことに、人々は驚くと同時にやむを得なかったのだと思った。これについては再び議論が起こっている。 (2007年3月号より)

参考データ
 

 ▽2003年、中国の電動自転車の生産量は400万台だったが、04年は750万台を突破し、05年は1000万台に達した。電動自動車メーカーは現在、1000社以上ある。

 ▽電動自転車のバッテリーの充電時間は8〜10時間、1回の充電で60キロ走行可能。

 ▽中国が1999年に制定した電動自転車の技術標準には、「時速20キロ以下、重量40キロ以下、車体の幅30センチ以下」と規定されている。この規定は今では少々保守的のように感じるが、新しい標準はまだ出ていない。市場の現状は、国家標準に合った製品は売れず、標準を超えた製品のほうが人気だ。しかし、標準を超えた製品を生産するとメーカーは処罰される。


道端は電動自転車の駐輪場となっている

 
本社:中国北京西城区車公荘大街3号
人民中国インタ-ネット版に掲載された記事・写真の無断転載を禁じます。