特集A 齢化社会を迎えて
専門家インタビュー
「老人問題を軽視してはならない」

取材に答える中国老齢科学研究センターの張ト悌副主任

 中国が次第に高齢化社会に入るにつれて、老人に関連する問題が日増しに突出してきた。中国の高齢者の基本的状況はどうなっているのか。政府はどのような対策を取ったのか。こうした問題を、中国老齢科学研究センターの張ト悌副主任に聞いた。

 ――ある国家が高齢化社会に入ったかどうかは、国際的に通常、どのような指標で示されるのでしょうか。

北京市高齢者活動センターの落成式(北京市老齢委員会提供)

 張副主任 60歳以上の人口が総人口の10%を占める、これが一つの指標です。もう一つの指標は、65歳以上の人口が総人口の7%以上に達したとき、高齢化社会に入ったとします。わが国の第5回国勢調査の結果では、現在、全国の60歳以上の人口はすでに1億3200万人に達していて、総人口の10%を占めています。上海ではすでに14%、北京では13%に達しています。
 
 ――それなら中国はすでに、完全に高齢化社会に入ったと言えるのですね。

 張副主任 その通りです。北京は早くも90年代に、高齢化が始まりました。専門家の予測によると、2050年には、中国の60歳以上の老人人口は4億人に達し、中国の総人口の29%を占めるだろうといわれています。そうなれば、中国人の3人に1人は老人ということになります。

 ――中国の人口の高齢化はどこに原因があって引き起こされたのでしょうか。

 張副主任 70年代から計画出産政策を実行して以来、わが国の人口増加率は大幅に下降し、この30数年間の累計で、3億5000万の出生を減らすことができました。同時に、改革・開放は、人々の生活水準と健康水準を明らかに高め、全国の平均寿命はすでに新中国成立初期の40歳から、現在の71・4歳にまでのびました。これによって「人生七十 古来稀なり」という諺は打破されたのです。
 
――先進国と比較して中国の高齢化にはどのような特徴がありますか。

 張副主任 西側の国々では、高齢化は工業化と都市化にともなって形成され、経済の発展が高水準に達した段階で出現しました。つまり「豊かになってから高齢化が来た」のです。中国の高齢化は、計画出産政策が成功した結果なのです。しかし、経済はまだ発達していないので、「豊かになっていないのに高齢化した」ということができるのです。

北京の目抜き通りの王府井で、高齢者のために法律専門家や弁護士が『老人法』やその他の法律知識の質問に答え、アドバイスしている(北京市老齢委員会提供)

 日本は1970年に老人型社会になったのですが、そのときの一人当たりの国内総生産(GDP)は1689ドルに達していました。現在は3万5000ドルを超えています。わが国は現在、800ドルに過ぎません。だからわれわれは、経済の発展と人口の高齢化という二つの重い任務に同時に直面しているのです。これは、「二つの軽重を比べて、軽い方を取る」という問題です。我々はまず経済を発展させ、経済的基礎ができた後ではじめて老人サービス施設を建設することができるのです。

 そのほか、中国の高齢化の速度は、人々が想像できないほど速いのです。西側先進国は、高齢化するまでに百年近くかかりました。中国は成人型社会から老人型社会に変わるまでわずか20年しか経っていません。だから、社会保障体系も、人々の心理的な準備も、非常に欠けているのです。

 ――高齢化社会は、社会経済や人々の生活にどのような影響をもたらすのでしょうか。

 張副主任 老人人口の増加と青少年の教育年限の延長によって、労働力資源は相対的に減少します。またそれに応じて、労働人口が老人を扶養する負担は重くなり、社会的な養老にかかわる費用、医療保険費、介護サービスなど社会問題が日増しに突出してくるに違いありません。

 今、われわれは、街の至るところで出稼ぎ労働者を見かけます。もし求人広告を貼り出せば、すぐ人がやってきます。しかし、4人の祖父母、2人の父母、一人の子どもという「421家庭」がますます多くなり、おそらく数十年も経たないうちに、お金を出しても仕事をする人を探せないという場面がきっと出現するでしょう。ドイツが非常に典型的な例です。

「みんなで養老」の意識を

 ――私たちが直面している最大の問題は何だと思いますか。

 張副主任 すべての人々の養老に関する意識の問題です。計画出産政策を実行して以来、わが国は、人口構成の面で相当大きな精力を投入してきました。人口が急速に膨張するという趨勢がコントロールできるようになったとき、突然、人口の高齢化問題が顕在化してきたのです。個人の養老、サービス施設、社会組織などの準備の面でいずれも、高齢化した人口が多すぎて、問題解決に追いつかないという状況を生みました。我々はこの問題に注意し始め、いくらか措置をとったとはいえ、まだまだ足りません。だから目下、最大の問題は、全国民の養老意識を強化しなければならない、ということです。
 
――現在は、養老意識はどの程度重視されているのでしょうか。

北京国際学院の外国人留学生たちは、ホスピスを訪問してお年寄りたちを慰問した

 張副主任 我々が行った調査では、現在、老人の中で、自分のために養老預金をしている人は20%に過ぎず、また、若い人の多くは、この問題の深刻さをまったく考えていないことがわかりました。西側では、非常に早くから「終身養老の準備」という観念が提起されてきました。これは仕事に就いた後、すぐに養老の準備を始めることで、経済、心構えなどの各方面で準備をすることなのです。中国はこの面がまだ非常に遅れています。

 ――あなたは先ほど、わが国の老人人口の中で、農村の老人が大きな比重を占め、すでに75%以上に達しているといわれました。それなら、農村に住む老人の養老の主要な問題は何でしょうか。

 張副主任 主要な問題は、家庭で老人を看るという観念が弱くなったことです。中国の都市化の発展によって、農村の大量の中年・青年人口が都市に流動しています。四川省や安徽省の農村では、女性と子どもと老人が主となるという人口現象が現れました。これによって都市に出た働き手と老人との間の経済的なきずなが弱くなってきました。その他、市場経済が農村にも衝撃を与え、農村では年老いた親に対する子どもの扶養義務の意識が低下しています。だから倫理・道徳観念の強化こそ、我々は重視しなければならないのです。

 ――江蘇省の高郵市では、若い人が結婚前に、「老人を扶養する協定」を必ず結ばなければならないのですが、こうしたやり方は良いことでしょうか。

高齢者のケア活動で良い成績を収めた職場(単位)が表彰された(北京市老齢委員会提供)

 張副主任 これこそ我々が強化していかなくてはならない仕事です。協定は、法律的に子どもが年取った親を扶養する義務を保証するものです。とりわけ農村においては、子どもが結婚するとすぐに分家とか財産の再分配の問題が起こってきます。我々は老人の基本的な生活を保障しなければなりません。

 しかし、中国は肉親の情を重んずる国です。「児孫繞膝」(子や孫たちが膝にまとわりつく)は、多くの人が夢にまで見る晩年の生活です。だから我々は、法的な懲罰の方法をとらないのがもっとも良いのです。いったん裁判に訴えると、老人が得られるのは基本的な生活費だけで、肉親の情は完全に失われます。だから我々は、社会の世論が監督する力を強化し、「老人を敬い、幼い子を愛する」という伝統を発揚していかなければなりません。法律はただ、最後の防御線に過ぎないのです。 (2003年2月号より)