特集 歴史のロマンがよみがえる 「中国国宝展」の文物と仏たち

「国宝展」はここが面白い
西岡康宏東京国立博物館副館長に聴く

 
西岡・東京国立博物館副館長(撮影・王衆一)

 中国国宝展はこれまでに、日本で二回開催され、今回は三回目。その三回の中国国宝展すべてにかかわってきたのは、主催団体の一つ、東京国立博物館の西岡康宏・副館長(国立博物館理事)である。「中国国宝展の生き字引」とも言うべき西岡さんが、準備のため北京を訪れたのを機に、今回の国宝展の見所や展覧会の意義などについて聴いた。

(文中敬称略)

 ――過去二回の中国国宝展と今回との違いは。

 西岡 中日国交正常化直後の1973年に開催された最初の国宝展は、「中国出土文物展」という名前でした。河北省の満城漢墓出土の金縷玉衣などが出品され、大きな反響があり、東京会場だけで40万人の入場者がありました。二回目は2000年で、この国宝展には山東省青州の美しい仏像彫刻が人々を魅了しました。このときも40万人が訪れました。

 今回は「仏教美術の精華と新しい歴史の発見」をテーマに、約170点の国宝クラスの逸品が東京と大阪で半年間にわたって展示されます。大きな反響を呼ぶと期待しています。

 ――今回の国宝展のテーマに仏教美術を選んだのはどうしてでしょうか。

 西岡 仏教はもともとインドに発したものですが、日本に伝わった仏教美術は、中国、朝鮮からの、とくに中国からの大きな影響を受けたと考えられます。仏画にせよ仏像彫刻にせよ経典や仏具にせよ、その源は中国にあるのです。中国仏教美術を一堂に集めた国宝展にしたいというのは、長年の夢でした。

 ――仏教美術を中心とする展覧会の開催には、どんな困難があったのですか。

 西岡 この構想を中国側に伝えたところ、中国側も大いに賛成してくれました。しかし意外なことに、仏教美術ばかりを集めた展覧会は、これまで中国で開催されたことがなかったのです。

 そのうえ、中国の仏教美術品は、戦乱や盗掘で、海外に流出してしまったものが非常に多い。仏画、仏具も、代々世に伝わってきた「伝世品」があまり多くない。このため仏教美術だけで国宝展を開催するには難しいことが分かりました。そこで、仏教美術を中心にしながら、最近、出土した新発見の文物のうち、優れたものをこれに加えて展示することにしたのです。

 ――最近、中国は、新しい出土文物の発見が相次いでいます。今回の展示でとくに注目されるものはありますか。

 西岡 どれも非常に優れた作品で、国宝クラスのものが多いのですが、強いてあげるなら、江蘇省徐州出土の金縷玉衣や陝西省眉県出土の青銅器、秦始皇帝陵の近くで近年発見された雑技俑などでしょう。いずれも日本では初めて公開されるものです。時代的にも新石器時代の玉鳥(玉製の鳥)から明代まで、クロノロジカリー(年代学的に)展示します。

 ――秦始皇帝陵の雑技俑はたいへん珍しいのではないでしょうか。

 西岡 初めての出土です。この雑技俑を含め俑はきわめて写実的で、しかも等身大の大きさです。このような俑は、秦の始皇帝陵に突然出現し、しかもその後の俑はずっと小さく、写実性も劣るものになって行きます。どうして始皇帝の時にこんな俑が現れたのでしょうか。

 個人的な見方ですが、ギリシャ、ローマの影響ではないか、と考えています。ギリシャ彫刻の、あの写実性や像の大きさは、始皇帝陵の俑に通じるものがあります。ギリシャの彫刻芸術がシルクロードを通じて東方に伝えられたのではないか、あるいはパルチャなどを経由したかも知れませんね。(2004年10月号より)