特集 古来の調べ 経済と伝統に 揺れる民族音楽
二胡製作の名人 李俊傑さん


 
   
北京・琉璃廠にある李俊桀さんの楽器店   アシの茎に熱を加えて曲げ、京胡の弓を作る   李俊桀さんの工房では、手工業で民族楽器を製作している   京胡の柄は石炭の火にあぶって作る
  

 李俊傑さんの一家は、三代にわたって二胡の製作に従事してきた。李家の作業工房は河北省献県の山秋村にある。国有の楽器製作工場が次々に倒産・閉鎖される中で、李さんの作る二胡は逆に非常に売れ行きがよい。その秘密はどこにあるのか。

 材料についていえば、李さんの二胡は本体に黒檀あるいは紫檀の木をつかい、大蛇の皮の尾に近い部分を選んで胴にはる。蛇のこの部分が、もっともよく共鳴するからだ。弓は内蒙古の馬の尾と福建の紅竹で作る。棹の頭は牛骨あるいは駱駝の骨をつかうか、木に竜の頭の形を彫刻する。接着用の膠は、豚の皮あるいは魚の浮き袋を煮詰めて作り、化学物質は一切つかわない。

李俊桀さんの一家

 李さんの工房で二胡を注文する演奏家は非常に多い。演奏上の必要に基づいて、二胡の一部や部品、色にまで特殊な処理が施される。例えば演奏家の左手の親指と人差し指の間の大きさに基づいて棹の太さを微妙に変え、手がスムーズに上下に滑り、ビブラートもし易くしている。

 最後の仕上げは二胡の上に詩文を刻むことだが、この内容は二胡の製作者が決める。それには自分の作った楽器に対する歓びや、二胡の所有者に寄せる期待を表現したりする。だから、中国の民族楽器は単に音を出すばかりでなく、製作者の心血が注がれている芸術品ということができる。(2004年12月号より)

 

 
 




【二胡】

 俗称は「胡琴」。古くは「奚琴」「稽琴」と呼ばれた。日本の鎌倉時代末期に漢文で書かれた百科事典的な雑録『拾芥抄』の「楽器名物」の中に、「奚琴二張 天慶九年四月」という記載がある。天慶九年は九四六年で、中国では五代十国の時代に当たる。このことから 琴は、五代十国時代には存在し、日本に伝わったと推定される。宋代には、奚琴から発展した二胡が現れる。

 二胡は棹、軸(糸巻き)、大蛇の皮を張った胴、弦、歯止め、弦を支える琴柱と弓から成っている。音色は豊かで柔らかく、澄んだ高音を出す。歌の伴奏や器楽合奏に使われるだけでなく、一九二〇年代にはすでに独奏楽器になった。

 著名な民族音楽家の華彦鈞や民族音楽を革新した劉天華は二胡芸術の発展に尽くし、代表作『二泉映月』『光明行』などを作った。

 



京胡】

 これも昔は「胡琴」と呼ばれた。京劇の主要な伴奏楽器である。『梨園軼文』という本の中に「京劇の本は崑曲であり、胡琴もまたこれとともに興る」と記載されている。

 京胡の形は二胡と似ているが、二胡よりずっと小さい。棹と胴は竹で作られている。音色は高く、澄んでいて、楽団の中で際立っている。主に京劇の伴奏に使われ、独奏することは少ない。代表曲に『夜深沈』がある。

 




【琵琶】

 琵琶は漢代に西域から中国の中原に伝わった。当時は、楕円形の胴(共鳴箱)にまっすぐな柄がついていた。これは現代では「阮」とよばれている楽器である。それが南北朝以後、梨形の胴に首の曲がった柄がついた琵琶が興ってきた。これが今日、広く使われている琵琶である。

 琵琶は音楽的表現力が豊かで、唐の詩人、白居易は『琵琶行』の中で「大弦獎獎如急雨 小弦切切如私語」(大弦は獎々として急雨の如く 小弦は切々として私語の如し)と琵琶の音色を描写した。

 琵琶の曲には緩やかな調べの「文曲」と、張りつめたリズムの「武曲」があり、『十面埋伏』は「武曲」の代表作である。

 




【揚琴


 揚琴は「洋琴」「胡蝶琴」とも呼ばれる。明代にペルシャなどから中国に伝わったといわれ、最初は広東一帯で流行した。現在は全国的に使われている。戯曲の伴奏や器楽の合奏に使われ、独奏は二十世紀の初めから始まった。現在の揚琴の共鳴箱は木製で台形をしている。硬い木で箱の下の部分が作られ、桐の木で上の蓋の部分が作られている。その上にスチール製の弦を二十一本張り、二本の竹の槌で叩いて音を出す。音色は澄んで明るく、和音を奏でることができる。揚琴の代表曲は『将軍令』。

 



【筝】


 筝は中国に古くから伝わる弾奏楽器である。司馬遷は『史記』の中で、秦の時代に筝は歌の伴奏楽器であると記載している。白居易が「奔車看牡丹 走馬聴秦筝」(車を奔らせて牡丹を看 馬を走らせて秦の筝を聴く)と詠っているので、筝が唐代には広く民間で流行っていた楽器だったことが分かる。

 筝の胴は木製で長方形をしており、上に張られた弦は十二本から十六本まであり、さまざまである。それぞれの弦に一つの琴柱があり、音の高低を調節する。代表曲は『漁舟唱晩』

 




【笛】

 昔は「横笛」と呼ばれた。俗に「笛子」という。民間の吹奏管楽器である。竹笛は中国でもっとも古い楽器であり、主旋律を奏でる楽器でもある。また戯曲や歌舞の伴奏にも広く使われる。この半世紀、笛は次第に独奏されるようになった。

 笛は竹の管で本体が作られ、吹き口、リード孔、六つの指孔、二つの気孔(音の高低の調節用の孔)があけられている。笛には、「曲笛」と「ー笛」の二種類ある。「曲笛」の音色は豊かで潤いがあり、叙情的で曲折があり、歌唱性に富んでいる。「ー笛」は音が高く、はっきりしていて、情熱的で奔放だ。代表曲は『鷓鴣が飛ぶ』『パミールの春』。(張栄華製作)

 



【葫芦絲】


 葫芦絲はダイ族、イ族、アチャン族で広く使われている楽器である。葫芦(瓢箪)を共鳴箱にし、三本の竹管を瓢箪の内部に差し込む。もっとも長い竹管の上に七つの孔があけられている。この楽器はよく、山歌など少数民族の調べを吹奏するときに使われ、流暢な曲や舞曲を演奏するのにもっとも適している。曲は一般に、長音が多く、和音や美しいハーモニーを演奏することができる。(王沢雲製作)

 




【三弦】


 三弦は「弦子」ともいう弾奏楽器である。「大三弦」と「小三弦」に分けられる。「大三弦」は「書弦」ともいわれ、音色は豊かで、低い。北方の「大鼓書」(民間の歌いもの芸術)の伴奏に用いられる。「小三弦」は「曲弦」ともいわれ、崑曲の伴奏楽器である。

 三弦は棹、胴、弦、琴柱、軸などから成り、胴は楕円形で両面に大蛇の皮がはられている。演奏するときは腿の上に斜めに乗せ、左手で棹を握って弦を押し、右手の撥で弾奏する。

 




【古琴】


 古琴は「琴」とも「七弦琴」とも呼ばれる。音色は豊かで深みがあり、演奏の技巧は複雑で表現力に富んでいる。典型的な独奏楽器で、合奏は比較的少ない。古来より常に、文人が詩歌を吟ずるときの伴奏楽器となってきた。

 こういう伝説がある。周の時代、兪伯牙という人は琴の演奏に長け、楚の国へ出かけて民謡を収集していたが、そこで偶然、鍾子期という樵に出会った。鍾子期は、兪伯牙の演奏する『高山流水』を聞くとすぐ、彼が表現しようとしている境地を悟った。そして二人は友人となった。鍾子期が死ぬと兪伯牙は、大いに嘆き悲しみ、「これより音を知る者は絶えたり」と大きく叫んで、琴の弦を切ってしまい、終生、二度と琴を弾くことはなかったという。

 古琴は二〇〇三年、ユネスコの世界無形遺産に登録された。

 




【笙】


 笙は中国の古いリード管楽器である。殷の時代(紀元前一六〇〇〜同一〇四六年)に早くも笙に関する記述がある。春秋戦国時代には、笙は非常に流行した。早期の笙は竹製で、後に銅製となった。民間に伝わっているものには、四角いもの、丸いもの、大きなもの、小さなものなどさまざまな形をしている。

 笙の構造は、銅製のリードを竹管の下端に取り付け、この竹管を木製あるいは銅製の吹き口のある匏の上に差し込む。吹くときは、指を竹管の下端にあけられた孔に置いて、リードと竹管内の空気を共鳴させて音を出す。笙は伴奏や合奏に使われるばかりでなく、すでに独奏楽器にもなっている。(王沢雲製作)