大自然と歴史がいざなう
世界遺産の宝庫――安徽省
 
 
                            侯若虹=文  馮進=写真
 
古くから黄山には雲海が発生していた。清の康煕帝は黄山にあまりにもすばらしい雲海が漂っていたことから「黄山天都」という文字を揮毫した(写真・汪根華)

  21世紀の中国は、経済や科学技術が急速に発展している。日々忙しく暮らしている人々は、そうした中で歴史を顧み、自然に親しみたいという衝動にかられている。#E6D1BB

 安徽省は、中国東部に位置する内陸の省である。経済発展のレベルは中ほどに位置するが、ここならではの自然の景勝、歴史的遺跡、および古い文化が、人々に無限の楽しみと想像性を与えてくれる。

 そうした中で、日本はこれまで安徽省観光の主要な「顧客国」となってきた。安徽省は現在、日本の愛知県で開催されている「2005年日本国際博覧会」(愛知万博)の中国館に出展しているが、この機会に本誌では安徽省の独特な観光資源を紹介したい。


愛知万博で魅力をアピール
文海英副省長インタビュー

本誌のインタビューを受ける文海英安徽省副省長

 2005年3月から9月まで、愛知県で「愛知万博」が開催されている。中国からも厳選された12の省と市が、中国館の「都市週間」に参加している。この愛知万博に参加した省の一つとして、安徽省は豊かな観光資源の開発に力を注いでいる。こうした機会にあたり、本誌は先ごろ安徽省を訪問し、文海英副省長に最新の観光情報などについてうかがった。

 ――こんどの愛知万博のテーマは「自然の叡智」だそうですね。このテーマをどのように理解されていますか?

 文海英(以下「文」と略称)人類の発展と進歩は、自然との調和と切り離せません。これは万博のテーマと相通ずるものです。中国館のテーマは「自然、都会、調和〜ライフアート」で、このテーマを通して、中国の伝統的な哲学にある自然を敬い、自然に帰り、「天人合一」(自然と人との一体化)をはかるという思想を表し、大自然や中国の文化、都会などのいくつかの要素を合わせて、「人と自然の共存」という雰囲気をつくりあげました。中国館には安徽省特産の宣紙(画仙紙)でつくったメーンオブジェ「生命の樹」がありますが、それが「人と自然の共存」という意味を表しているのです。

安徽省の省都・合肥市を遠望する(合肥市旅遊局提供)

 ――愛知万博における安徽省の主なイベントは?

  安徽省に進出している日本企業の「投資成果展」と企業誘致活動のほか、観光関連の紹介は、重要な内容となっています。

 とりわけ、4月5日から11日まで「安徽週間」というイベントを行いますが、そこでは省内の合肥、蕪湖、馬鞍山、黄山、宣城、安慶、亳州という七つの都市を紹介します。蕪湖の鉄画や阜陽の切り紙などのような民間工芸の一部を、実演披露する予定です。

 ――おもしろそうですね。それらの都市には、いずれも有名な観光名勝があるでしょう。安徽省における観光業の現状をお教えください。

合肥市内の包公祠

  安徽省は、観光業を「重点建設の八大産業」の一つにしています。そのために、観光のインフラを絶えず整備してきたのです。現在、全省における高速道路は総延長1000キロあまり、鉄道網の充実は、華東地区のトップクラスに位置しています。中・高級ホテルや旅行社も多く、観光客の要望を満たすことができるでしょう。安徽省は昨年一年間に、のべ50万人もの外国人観光客を受け入れました。これは前年比78・39%増となります。

 ――安徽省の観光資源については?

  中国東部に位置する安徽省は、長江デルタと隣接しています。総面積は13万9600平方キロ、人口は6400万人です。

全長6キロあまりの地下運兵道は、曹操が建造したものと伝えられる(亳州市旅遊局提供)

 著名な大河、長江や淮河が安徽省を流れているため、ここの土地は新安江や巣湖、太平湖のようなきれいな河川や湖に恵まれています。また、大自然の力が黄山や九華山、斉雲山、天柱山のような珍しい山岳をつくり上げています。とりわけ、安徽省南部の黄山、九華山、太平湖は、まさに山紫水明の地といわれます。まるで絵画のようであり、帰るのを忘れるほどに美しいところばかりです。

 さらに、世界遺産リストに登録されている二つの場所があります。一つは1990年に「世界自然文化複合遺産」リストに登録された黄山、もう一つは2000年に「世界文化遺産」リストに登録された南部の古村落――西逓村、宏村です。

 自然の美しさだけでなく、悠久の歴史をほこり、すぐれた人物を輩出したところとしても世に知られています。多くの文人墨客や有名人が、安徽省の生まれです。中国古代の哲学者である老子、荘子、勇猛果敢で才知にたけた曹操、三国時代の名医である華佗、宋代(960〜1279年)に知られる清廉な役人・包拯、明(1368〜1644年)の太祖・朱元璋、近代史の重要人物・李鴻章、著名な学者・胡適、現代の物理学者・楊振寧らがいずれもそうです。

黄山のふもとの「翡翠谷自然風景区」(翡翠谷管理委員会提供)

 ――それでは、安徽省には多くの遺跡がありますね。

  北部の亳州は、魏の武帝・曹操のふるさとです。そこには曹氏一族の墓群があるほか、曹操が建造したといわれる地下運兵道(軍隊を輸送する地下道)もあるのです。現在、その地下運兵道は6キロ以上も発掘されていますが、頑丈な黒レンガで築かれており、じつにすぐれた内部設計となっています。中国では規模最大で、もっともよく保存された最古の地下軍事通路であり、「地下の長城」と称されています。

 それと同じく三国時代の遺跡には、馬鞍山市で発見された呉国の大将・朱然とその家族の墓地もあります。墓地から出土した漆器は、きわめて精緻で美しいもの。漆絵の構図はしっかりしており、色彩はじつに鮮やか、筆遣いはスッキリとして明瞭であり、その線画は流麗であるなど、ため息がもれるほどにすばらしい作品です。

 「覇王別姫」の故事で知られる2000年前の楚(項羽)漢(劉邦)の争いにおいて、決戦となった「垓下の戦」の戦場は、蚌埠市固鎮県の垓下一帯にあたります。そこには、いまでも「覇王城遺跡」や、当時の虞姫が髪を洗い、身だしなみを整えたといわれる「虞姫池」が残されています。

宋代の町並みを再現した「屯渓宋城老街」で、伝統的な「歙硯」は人気の観光土産に

 このほかにも、唐代(618〜907年)の大詩人・李白の終のすみかとなったところが、馬鞍山市当ヘソ県に残されています。「李白墓園」となっていますが、詩仙といわれた李白をしのび、その作品を鑑賞し、散策するのにふさわしいところです。

 李白の名詩「汪倫に贈る」は、「李白 舟に乗りて 将に行かんと欲す、忽ち聞く 岸上の踏歌の声。桃花潭の水 深さ千尺、及ばず 汪倫我を送るの情に」と詠んでいますが、詩に詠まれた「桃花潭」は宣城市のケイ県にあります。桃花潭の傍らの、汪倫が李白を送ったとされる場所には「踏歌岸閣」という楼閣が建てられました。そこで詩文を味わうのは、また格別の趣があることでしょう。

 ――李白は日本の人たちによく知られる詩人です。その場所は、きっと喜ばれるに違いありません。

  そうですね。日本は安徽省観光の重要な「顧客国」となっており、日本人観光客は年間5万人あまりに上ります。馬鞍山市が毎年旧暦9月9日の重陽節に行う「国際吟詩節」(吟詠祭り)は、日本人観光客の人気を集めています。秋になると大勢の日本人観光客が来訪し、李白をしのんだり、吟詠に参加したりしています。

安徽省の名物料理「毛豆腐」

 ここ数年、私たちが推進している「黄山世界遺産の旅」「黄山の冬の旅」「李白の足跡を訪ねる旅」「安徽省東北部の歴史を訪ねる旅」「長江のゴールデン水路の旅」などの観光プロジェクトは、いずれも日本の観光客に喜ばれているんですよ。

 今回の愛知万博に参加することで、より多くの日本人に安徽省を知ってもらい、訪れてもらいたいと願っています。(2005年4月号より)


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