特集3     
専門家インタビューなぜ移住が必要なのか
                                                                                          張春侠=文・写真

 中国の貧困問題は、ますます社会の広い関心を集めている。現在、中国全体の貧困状況はどうなっているのか。どのくらいの人々が、移住によって貧困状態から抜け出す必要があるのか、移住による貧困扶助は、どんな成果を挙げているのか――国務院の中に置かれた扶貧弁公室の政策法規局を訪ね、劉福合局長から話を聞いた。

移住の狙いは何か

国務院扶貧弁公室政策法規局の劉福合局長
  ――現在、中国の貧困人口の状況はどうなっているのでしょうか?

  劉福合局長(以下敬称略) 現在、一人当たりの年間純収入が668元以下の人たちを、衣食の問題がまだ解決されていない「貧困人口」と認定しています。この基準に照らせば、我が国の「貧困人口」は、1978年の2億5000万人から現在の2610万人に減少しました。

  衣食の問題がまだ解決されていない人口が全農村人口に占める比率である「貧困発生率」は、当初の30.7%から、現在の2.8%に下がりました。しかし、一人当たり年間純収入が924元以下を「貧困人口」とする国際基準を適用すると、中国の「貧困人口」は、8000万人から1億人に達します。

  ――こうした「貧困人口」は、どのような地区に分布しているのですか。

   中国の西南、西北地区に集中しています。いずれも山深い山間部や荒地・砂漠の地域、高冷地、高原地帯などにあり、このほかに一部の辺境地域と少数民族の地区に分布しています。こうしたところは交通が不便で、情報は遅く、教育程度なども比較的に低く、解決はなかなか難しいのです。

寧夏・中寧県に建設されたばかりの「エコ移住地」、渠口農場太陽梁移民新村

  ――中国はなぜ、移住という形で貧困問題を解決しようとしているのでしょうか。

  劉 こうした貧しい人たちは、人類の生存に適さない場所に住んでいます。また彼らの居住地はかなり分散し、環境もかなり劣悪です。資金を投入する方法で貧困を解決しようとすれば、コストがあまりにも高くつきます。しかも、こうした地域の生態系は脆弱であり、人口一人が占めることのできる資源には限界があります。ですから、根本的にこうした人々の生存の問題を解決しようとするなら、移住という方式を取らなければならないのです。

  ――どのような地区で、移住という方式を採用する必要があるのでしょうか。

   主に山間部、黄土高原地帯、高冷地です。一部の平原地区もその必要があるでしょう。現在、移住は、各省、自治区とも取り組んでいますが、比較的典型的なのは広西、雲南、貴州、山西、陝西、甘粛、寧夏などの省や自治区です。初歩的な統計によれば、現在、まだ衣食の問題を解決できていない人口の中で、だいたい500万人がほかの土地に移住するという方法で、この問題を解決する必要があります。

  ――移住してから、政府はどのような措置をとって援助していますか。

きれいに出来上がった興鎮中学の校舎

   移住した人々が暮らす居住区の土地をどう配置するかや、移住民がどの居住区を選択するかは、みな政府が調整します。また住宅の様式も政府の統一規格によります。同時に、居住区の基本施設は逐次、整備しなければなりません。この中には、水道、電気、道路、生活用メタンガス、教育、衛生などが含まれています。

  このほか、青年農民に対しては、就業訓練を施し、彼らを、農業以外の職業に従事させます。現在、政府は毎年、数億元の財政資金を投入し、もっぱら貧困地区の労働力の訓練と就業転換に用いています。2004年だけで40万人以上が、そうした訓練を受け、各種の資格認定証書を取りました。そして90%が順調に転業したのです。

  移住民が安定して産業を発展させることができるように、小額の貸し付けを通じ、あるいはまた貧困扶助の先頭に立つ企業を育成することを通じ、企業が農家を動かし、農産物の販売問題を解決するようにさせています。例えば貧困農家に牛を飼わせ、同時に、貧困地区で先導的な役割を果たす企業を育成して、牛肉と牛乳などの買い付けと加工を行わせるのがよいと考えています。

移住政策の目標は?

南梁農場では、生活が豊かになった後、村では多くの移住民が家を建て替えたり、増築したりしている(写真・虞向軍)

  ――中国はいつから移住による貧困の解決を始めたのですか。その効果はどうですか。

   最初の移住は1983年で、甘粛の定西、河西地区と寧夏の西海固地区から始まりました。この数年、地域や地区にまたがる移転やその地域内での移転などを通して、約200万人の貧困人口を適当な場所に落ち着かせました。現在、移住というやり方は、中国の貧困扶助の重要な措置の一つになっています。

  ――ほかの措置と比べて、移住による貧困解決はどのような特徴を持っていますか。

   移住は、貧困人口の生存状態と生産・生活状況を根本から変えるものです。しかし、投入する費用は大きく、人口一人当たり1万元以上かかります。同時に、自由参加の原則を守らなければなりません。

西吉から南梁農場に引っ越してきた郭巧紅さんは、ソーラー釜を使っている(写真・虞向軍)

  また、移住は、政策の問題にも関連しています。例えば土地政策や住民の生活に関する政策などとも組み合わせて、ワンセットにする必要があります。しかも、いかにして移住民を引っ越した土地に溶け込ませ、その土地の人々といっしょに生活させるか、それにはつり合いをとる必要があり、細かく計画を立て、担当者がしっかりと仕事をしなければなりません。ですから、移住のプロセスは、単なる経済的行為であるだけでなく、人間本位の政治行為であり、社会行為でもあります。

  したがって、移住は貧困扶助の有効な措置ではあるが、主な手段ではないのです。もっとも貧しく、自然条件が極度に劣悪な地区に暮らしている人々が、貧困状態から抜け出す一つの手段にすぎません。しかし、中国の貧困人口が次第に減少するにつれて、最後に残った一部の貧困人口は、移住によって解決する必要があるのです。

  ――移住による貧困扶助を制約している要因は何ですか。

   第一の制約要因は資金の不足です。もし移住民一人当たり、1万元かかるとして計算すると、500万人を移住させるのに500億元を投入しなければなりません。しかし、現在、毎年、これに使う資金は130億元しかありません。資金に限りがあることから、移住は、何回か時期に分けたり、グループに分けたりして解決するほかはありません。

  このほか、移住には、資源を調整するという問題もあります。中国の農村では、生産請負制という土地政策が採用されているので、移住する人ともとからそこに住んでいる人に対し、請け負う土地を再配分するか、あるいは新たに土地を造成しなければなりません。

  ――移住による貧困扶助の事業で、どんな成果が上がっていますか。

   移住は、仕事の量が多く、コストも高いけれども、いったん移住して落ちついたあとは、衣食の問題を解決できるだけではなく、それを飛び越えて一挙に「小康(いくらかゆとりのある)」段階にまで達することさえできます。

  また我が国は「エコ移住」も行っています。現在、4カ所の省・自治区で試験的に行っています。すなわち、一部分の人が生態系の脆弱な地区で生活していますが、彼らはそこに住み続けるなら、衣食の問題を解決することは難しく、生態環境の保護にとっても不利です。そこで政府は、約20億元の資金を出して、もっぱら生態系の脆弱な地区での「エコ移住」に使っています。このようにすれば、衣食の問題を解決すると同時に、生態系も回復することができるのです。

  ――今後、移住による貧困扶助の目標は?

   5年から10年かけて、もっとも移住する必要のある人々を移住させ、衣食の問題を解決します。これに関連する人口は500万人ですが、すべて徹底的に移住という方式で解決するのではなく、一部が移住し、一部は留まることもあります。すなわち、人類の生存には適しているが、資源が乏しく、負担能力を超えている一部の地方では、移住によって人口を減らし、残された人々が生存してゆくのに資源が足りるようにするのです。たとえそうしても、300万人が引っ越さなければならないでしょう。(2006年3月号より)



 
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