中国の働く女性の喜びと憂い
特集2
 
「選択と責任」女性の悩みは中日共通

高原
張越
泉京鹿
張越 中国中央テレビ局女性向け番組「半辺天」司会
泉京鹿 本誌日本人スタッフ。日本の複数のメディアで中国のメディアで女性の生活に関する記事を執筆
高原 本誌記者

女性の問題を話し合う3人(左から高原、張越、泉京鹿)

 高原(以下、高と略す) 近年、働く女性の問題は中日両国でたいへん注目されています。張さんも泉さんも働く女性の一人として、この問題には非常に関心があることでしょう。そこで今日は、お二人の考え方や思いを聞かせてください。私の印象では、中国の女性は未婚既婚を問わずみんな仕事を続けるけれど、日本女性は結婚したらほとんどは家庭の主婦になっていると思うのですが。

 泉京鹿(以下、泉と略す) 私の母たちの世代の女性は専業主婦が多かったのですが、今の30代、40代では、働く女性が増えています。でも、中国に比べて、日本の女性たちの多くが当たり前のように働くようになってからの歴史は、まだそれほど長くはありません。ですから、今日は現代の中国の女性たちがどんなふうに仕事と家庭の問題を考えているのか、話を伺いたいと思っています。

中国女性の解放は、上から下へと解放したもの

家に集まってヨガの練習をする家庭の主婦

  張越さん、中国ではいつごろから女性たちのほとんどが働くようになったのでしょうか。

 張越(以下、張と略す) およそ清代末期、民国初期からです。まず女性のための学校ができ、女性たちは教育を受けてから働き始めました。しかし、当時は大都市の比較的家庭条件のよいエリート女性に限られていました。

 女性が大々的に家を出て、仕事をするようになったのは、1949年からです。毛沢東主席の有名な言葉があります。「時代は変わった。男も女も同じである。男ができることは、女にもできる」「女性が天の半分を支える」

  張さんが司会をしている番組名「半辺天」は、それに由来しているのでしょうか。

  そうです。中国の憲法は「男女平等」を明文化し、女性が家を出て仕事を持ち、男も女も同じ仕事なら同じ給料で働くことを要求したのです。ここが、中国と他の国との違いです。他の国の女性の解放は、下から上へと働きかけて実現したもので、女性たちは自ら立ち上がって自分の権利を勝ち取りました。でも、中国は反対なんです。こうしたやり方は、一部の欧米の研究者たちから羨ましがられもしましたが、少なからぬ後遺症も残しました。

感情
感情的に落ち込む原因(%)
  仕事のプレッシャーが大きい
24.4
  子供がいうことをきかない
10.7
  夫(恋人)が満足させてくれない
7.9
  人間関係のトラブル
8.1
  生活が単調すぎる
11.9
  理想が満たされず、生きがいが見出せない
13.0
  友人より収入も仕事も劣る
8.3
  所得が低すぎる
13.0
  その他
2.6
結婚に対する評価(%)
 
幸せ
夫婦で尊敬し合える
平凡
冷めている
苦痛
20−30歳
44.9
16.3
36.7
2.0
0.0
31−40歳
48.6
23.4
27.5
0.5
0.0
41−50歳
46.4
14.0
33.6
3.0
3.0
51−60歳
38.2
27.6
31.7
0.0
2.4
今後の生活への期待(%)
 
今と変わらない
今よりよくなる
今より悪くなる
20−30歳
14.6
84.6
0.8
31−40歳
23.1
74.8
2.1
41−50歳
34.8
63.6
1.6
51−60歳
37.3
55.6
7.1

  どんな後遺症ですか。

  社会に入っていくことを要求したわけでもないのに働かせるようにしたわけですから、女性たちは疲れを感じ、働きたくないと思うのです。そのうえ、自分たちが社会に出て働くことを引き受けても、家事に手を抜いていいとは考えられず、家事をするのはやはり当然だと思っています。家のことを取り仕切りながら働かなくてはならないのですから、女性にとって二重のプレッシャーです。

  張越さんの話を伺って、なんとなくわかったような気がします。日本の女性は経済的な必然性の有無に関わらず、働きたいと考える人も多いです。生き甲斐を求めた精神的な欲求のためだと思います。中国ではここ数年若い女性の多くが、経済事情が許すなら家庭に入って専業主婦になりたいと望んでいるそうですね。それもおっしゃるような理由からでしょう。

  確かにそうです。今の女子学生たちは「仕事でがんばるよりも、いい人に嫁いだ方がいい」といいますから。

  自分が欲しがっていないものは、与えられても大切にしないんですね。でも、彼女たちが家庭に帰りたいというのなら、帰ってもいいと思います。それも悪いことではありません。社会の発展に伴って女性の自意識も強くなりますから、またぐるりと一周して、再び戻ってくるでしょうから。

「家庭」と「仕事」の板ばさみ

株の達人となった女性も少なくない

  日本の働く女性に一番の悩みは何かと尋ねたら、ほとんどの人が「仕事と家庭(結婚、出産、子育て)の両立の難しさ」と答えると思います。中国女性も同じでしょうか。

  中国は大きいですから、異なる環境にある女性では、直面している問題もそれぞれまったく違います。高い教育を受けた都市の働く女性にとって、一番の悩みは仕事のプレッシャーと競争がもたらす焦りです。それに対してあまり高い教育を受けてこなかった年齢も比較的高い女性にとっては、職を失うかもしれないということがいつでも一番の悩みでしょう。

  数年前、日本で「負け犬」という言葉が流行りました。30代以上の、独身で子供のいない働く女性を指す言葉です。結婚相手が、自分が働くことを理解してくれるかどうか心配する女性たちも多く、まだまだ結婚しなくてもいいとある意味開き直った女性が増えたんです。その反動で、去年あたりからは結婚ブームとも言われていますが。中国の女性たちは、結婚に対してそういう心配はないのですか。

  結婚は中国の働く女性にとって、ふつう問題にはなりません。大部分の男性の収入は一家三人の生活を維持してゆくには足りませんから、奥さんにも働いてもらって、収入が増えたほうがいいと思っていますよ。その上、子供の頃から男女平等の教育を受けていますし、彼らの母親も働いていましたから、女性が結婚後は家庭に入らなければならないなどと考えたりはしません。むしろ女性が仕事もせず、毎日家にいたら面倒だと思うでしょう。関心がすべて夫に集中し、面倒を引き起こしかねない、と。だから奥さんに仕事を続けてもらう方が、精神的にもいいと思うくらいです。

  私の印象では、中国の男性は女性が働くことに理解があって、女性にとても気をつかっている気がします。日本では、かつて私の父の世代、たとえば私の父が若い頃には、母がネギや大根を買ってきてと頼んでも、男がそんなものを下げるのはみっともないと拒否していました。ゴミを捨ててきてと頼んでも、嫌がっていましたね。

  その方面では、確かに中国の男性は日本の男性よりも頼りになるかもしれませんね。中国における「いい男」とは、高い教育を受け、高い収入があるだけでなく、思いやりがあって、奥さんの家事を手伝うことを知っている男性のことですから。私の同僚にも、奥さんより料理のうまい男性がいますが、それはとても自慢できることで、笑われるようなことはありません。

学校に行く子供の送り迎えは、多くの場合母親の仕事である

  中国の働く女性にとって、結婚と仕事の両立は問題になりませんが、出産、子育てにはやはり難しい問題があるようですが。

  確かに、大きな問題です。ふつう女性は事業が上手くいけばいくほど、子供を産もうとしなくなります。仕事を続け、昇進してゆく上で、出産や子育てが障害となることが多々ありますから。

  中国の会社では、出産に際してはしっかり産休もとれ、産休の後にはスムーズに仕事に復帰できると聞いていたので、日本の女性はみんな羨ましく思っています。でも今のお話では、そういう状況も変わっているようですね。

  国家機関や国営企業で働いている場合なら、それほど問題にはなりません。けれど、今では多くの女性が民間企業で働いています。保障もありませんし、出産後に仕事を失ったり、昇進のチャンスを逃してしまったりすることもあるのです。

  でも中国の女性は、実家の両親に子供を見てもらえるという点で、やはり有利ですよね。日本の女性は自分で子供の面倒も見なくてはならないから、余計に大変だと思います。

  そう、そう。日本の女性は働いていても、多くは自分で子供を見ています。中国では最近は一人っ子が多いと思いますが、日本では一人っ子とは限りませんから、それだけ負担も大きくなります。誰かに頼むのも簡単ではありません。仮に見てくれる人がいたとしても、両親やベビーシッターさんに任せっきりだったら、自分はいい母親ではないのでは、とかえってストレスになってしまう人も少なくありません。中国の女性には、そういうストレスはあまりなさそうですよね。

  これまで、中国では祖父母が孫を見るのは至極当たり前のことでした。けれどそうした状況も見られなくなりつつあります。例えば私の母のように、高い教育を受け、ずっと働き続けてきた女性は、退職すると子供たちにきっぱりと宣言します。「あなたの子供の面倒は見られないわよ。私には私の生活があるし、私だって人生を楽しみたいから」

  でも、若い人たちは両親が助けてくれると信じています。

  両親があてにできないとなると、お手伝いさんだけに任せるのも心配です。仕事は忙しいし、それなら子供なんかいらない、ということになるわけです。今後、大都市の働く女性の出産の年齢はますます高齢化し、子供を持たない人もどんどん増えると思います。

自立した女性は自分で人生を選ぶ

  仕事の現場では、男女は完全に平等ですか。 日本では、男女の待遇の格差は依然として存在します。

  中国では、同じ仕事をしたら同じ収入なのはもちろんですが、隠れた不平等というものはやはり存在します。例えば同じ能力の男女がいたら、指導者は男性を選びます。人々は意識の底で、やはり男性の方が女性より仕事ができると思っています。だから、中国の女性の就職構造はピラミッド型なんです。全体の就職率はとても高いけれど、大多数は技術的な仕事ではなく、給料も高くありません。

  女性にとって、働くこと自体は決して難しくはないけれど、社内で昇進や、事業で成功したいと思ったら、男性以上に努力をしなければならないんですね。その点は中国も日本も同じです。辛くてもひたすら走り続けなくてはなりません。

  努力を続けていかなくてはならないのは確かです。中国の女性が社会進出してからわずか百年で、ここまで発展してきたのは驚くべき進歩です。男性は数千年も社会でやってきたわけですから、そんな彼らと女性が同じ速度で歩こうと思っても、それは無理な話です。

  それなら、男性と一緒になって熾烈な社会競争にもまれることを女性に求めるのは、女性の本質的なものをつぶしてしまうことになりませんか。

  仕事のひどいストレスは、男性にとっても女性にとっても非人道的なものです。それは性別の問題ではなく、経済の急速な発展、社会の急激な変化が生んだものです。ある程度まで発展してようやく、人々は自分の生活のどこが問題なのかということに目を向けることができるようになるのです。

  これからの自立して成熟した女性とは、どのようであるべきでしょうか。

  ある種のモデルで総括するのは難しいですね。いわゆる自立した女性とは、自分の人生を自分で選択できる人だと私は考えています。そういう女性は働いても、家事が行き届かないからといって自分を責めたりはしません。同時に、仕事を辞め、収入はなく、家で子供と過ごすのが好きな女性も、専業主婦になったことで他の人たちにはかなわないなどと考えません。本当に幸福な自立した女性とは、自分の選択が支払うべき代価に責任を持つことができ、自分の選択によって束縛やストレスを感じない女性、ということではないでしょうか。 (2007年5月号より)



 
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