名作のセリフで学ぶ中国語@
 
和你在一起
北京ヴァイオリン

監督 陳凱歌 2002年作品 117分
2002年サン・セバスチャン国際映画祭
最優秀監督賞 最優秀主演男優賞受賞


  ◆あらすじ

 息子のヴァイオリンの才能を信じるリウは息子チュンを連れて北京に出てくる。最初に師事したチアン先生は才能はありながらも運に恵まれず、人生も音楽も諦め、世捨て人のような暮らしをしている変人だったが、チュンに教えるうちに生きる希望を取り戻していく。しかし、ソリストとして成功するには、音楽界に力のある教授につくことが大切と知ったリウはチアン先生を断り、音楽学院のユイ教授にチュンを託す。

 一方、北京で偶然知り合った高級娼婦のリリに少年らしい思慕を寄せると同時に母親の面影を求めるチュンは、チアン先生を勝手に断った父への反発から自分のヴァイオリンを売って、リリに毛皮のコートを買ってしまう。国際コンクール出場者を決める当日、自分がいてはチュンの将来の邪魔になると考え北京を離れるリウ。ユイ教授に出生の秘密を聞かされたチュンは、コンクールを棄権して北京駅に父を追いかけ、駅頭で父とリリとチアン先生にチャイコフスキーを演奏して聴かせるのだった。

  ◆解説

 陳凱歌監督が初めて現代の北京を撮った作品。『覇王別妃/さらば、わが愛』のカンヌ映画祭パルムドール受賞以来、気負いばかりが強すぎて作品的には今ひとつだった監督が、肩の力を抜いて撮ったのは、一見、人と人との絆を強調したヒューマンな人間ドラマだが、そこは陳凱歌監督、そう単純な見かけ通りの映画ではない。

 登場人物の姿は中国の急速な発展が人々にどんな変化をもたらしたかを浮き彫りにしている。子どもに音楽を習わせる親は情操教育のためではなく、子どもの立身出世に自分たちの将来の安定を賭けて必死だし、若い女性は消費社会で物質的要求を満たすために体をはっている。古いタイプの知識人や芸術家は時代に取り残され、時代に上手くのれた人間だけが豊かな生活を保証される。そんな社会だからこそ、リウのような無私無欲の人間の存在が心を打つ。陳凱歌監督は冷徹なまでに北京の今を描き出し、批判の目を向けている。そして、その批判は他人だけではなく自分自身にも向けられ、登場人物の中で最も功利的で偽善的な人物、ユイ教授を自ら演じている。

 私が驚いたのは、ユイ教授が成功した弟子に言う次のセリフだ。

 これはまさに監督が自分自身に対して言っているセリフではないだろうか。実際、来日した監督はインタヴュアーに「自分も世間から見れば成功した人間の一人。だから自戒の念をこめて、この役を演じた」と答えていた。私は監督の処女作『黄色い大地』に感動して、中国映画に魅せられたので、個人的には今でも監督のベスト3はこれと、『大閲兵』『子供たちの王様』のアメリカに行く前の初期3部作だと思っている。だから、『北京ヴァイオリン』を見て、久しぶりに「ああ、私の好きな監督が戻ってきたな」と嬉しかった。これからも中国の現実から目を背けず、バジェットは小さくとも、本当に自分の撮りたい物を撮り続けていってほしいと思う。

  ◆見どころ

 何といっても見どころは、リリを演じる監督夫人の陳紅だ。2人のなれそめは『花の影』で、コン・リーが演じた役の候補の1人だった陳紅は役は逃したものの監督を射止めた。台湾のロマンス小説作家瓊瑶をして「私の作品のヒロインそのもの」と言わしめた美女だが、作品に恵まれず、中国語では「花瓶」と言われる美しいだけのヒロイン役が多かった。今回、さすがは妻の本質を知る夫の演出により、地で演じているのでは?と思わせるほどぴったりの役を生き生きと演じている。女性が描けないのが陳凱歌監督の欠点だったが、この陳紅演じるリリは陳凱歌監督作品でも飛びぬけてリアルな女性像として成功している。彼女はこの映画のプロデューサーも務めており、なかなかの辣腕ぶりを発揮したと聞いている。今後は夫婦で監督とプロデューサーの二人三脚を続けていく予定らしい。次回作は韓国、日本の俳優も出演する時代物とのこと。2004年1月号より