名作のセリフで学ぶ中国語(22)

 

独り、待っている(独自等待)
 

監督・伍仕賢(ダイアン・オン)
2004年 中国 116分

第17回東京国際映画祭 参加作品

 


あらすじ

 友人と怪しげな骨董屋を営む陳文は作家志望で、ホラー小説を出版社に持ち込んでは断られる日々。テレビドラマの録音助手の友人に紹介された新人女優の劉栄にひと目惚れして、色事の策士を自認する友人「孫子」に教えられたあの手この手で彼女にアプローチを試みるが、劉栄の気持ちはいまひとつはっきりしない。

 相手に嫉妬心を起こさせたらというアマチュアロックバンドに所属する友人のアドバイスで骨董屋の共同経営者の妹を恋人役に仕立てるが、それも効果なく、劉栄に決定的に振られた後、実はその友人の妹がずっと自分のことを好きだったことを知る。

 デザイナーを志す彼女が南方の都市に旅立つのを見送った陳文は、自分も本気で小説家を目指すことを決意、自分と自分の仲間たちの物語を書き始める。いつもつるんでいた仲間たちもそれぞれの道を模索しつつ別々の道を歩き始めていた。

解説

 まだ30歳にもならない監督・伍士賢の長編デビュー作。映画の中でも主人公のハーフの友人役で出演している彼は中国人の父親とアメリカ人の母親を持ち、アメリカと中国を行ったり来たりして育った。

 ワシントン大学の映画芸術科から北京電影学院の監督科に転校、97年同校卒。そうした経歴にふさわしく、作品全体を流れるポップな感覚にはこれまでの中国映画になかった軽快さが溢れ、躍動感のあるストーリーと映像が去年の東京国際映画祭で若い観客に圧倒的に支持された。台詞も北京の若者が普段使っているスラングが満載で、等身大の中国の若者像を生き生きと描き出すのに大いに成功している。

 この作品の身上は明るさと未来への希望。そこが中国の第6世代やポスト第6世代の監督作品とは決定的に違う。人生のある時期、誰にでも経験のある、まだ何者でもない若者が自分を模索する様は国境を越えて世界中の若者とかつて若者だった人間の共感を呼ぶに違いない。






見どころ

 北京の若者の生態ウォッチングが楽しめる。だが、この作品はトレンディなスポットを登場させて若者のお洒落なライフスタイルを描くだけではなく、北京の庶民としてごく普通に暮らす彼らの生活も描かれているため、地に足がついている感がある。朝早く秧歌(豊年祭りや娯楽用の田植え歌)を歌い踊るおばあちゃんたちに叩き起こされたり、計画出産のための避妊具を配る祖父をからかってやり返されたり、スイカをかぶりつきながら父親と恋愛について語り合ったり。

 そして、その祖父や父親、骨董屋に撮影に来るディレクター、大物テレビ俳優役に中国映画でお馴染みの有名俳優がチョイ役で出演しており、ラストには超大物香港ハリウッドスターのカメオ出演もあって、この監督はなかなかプロデュースの才もあるらしい。

 夏雨演じる3枚目の主人公と李冰冰演じるコケティッシュな女優もいい。最後に夏雨の本当の彼女である袁泉を登場させる仕方も粋だし、仲間たちを演じる若手男優たちもそれぞれが個性豊か。監督と同世代の俳優たちが仲間感覚で楽しみながら作ったという雰囲気がよく伝わってきた。(2005年10月号より)



水野衛子
(みずのえいこ)


 中国映画字幕翻訳業。1958年東京生まれ。慶応義塾大学文学部文学科中国文学専攻卒。字幕翻訳以外に『中国大女優恋の自白録』(文藝春秋社刊)、『中華電影的中国語』『中華電影的北京語』(いずれもキネマ旬報社刊)などの翻訳・著書がある。
イラスト・山本孝子
 







 
 






 
     
   
 
 
   
     
     
     
   

 
本社:中国北京西城区車公荘大街3号
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