名作のセリフで学ぶ中国語(24)

 

パープル・バタフライ

(紫蝴蝶)



監督 婁ヨウ(ロウ・イエ)
2003年 中国・フランス 128分

11月日本公開

 


あらすじ

 1930年、旧満州の新京(今の長春)。日本人の伊丹と中国人の辛夏は愛し合っていたが、伊丹の帰国の日、抗日地下新聞を主宰していた辛夏の兄が日本人の過激な愛国主義者に襲われて爆死する。以後、辛夏は抗日地下組織の一員となる。

 1931年、上海。司徒と電話交換手の恋人は勤め帰りに映画を見たり、蓄音機から流れる音楽に合わせて踊りを踊る、ごく普通のありふれた若い恋人同士だったが、出張から戻った司徒と迎えに駅に出かけた恋人は、辛夏たちの地下活動と日本の公安の銃撃戦に巻きこまれ、恋人は辛夏の撃った弾に当たって司徒の目の前で死に、司徒は同じ汽車に乗っていたやり手の暗殺者と間違えられ、連れ去られる。

 一方、日本軍の諜報機関部員として上海にやってきた伊丹に抗日地下組織は情報入手のために看護婦と身分を偽った辛夏を近づけ、再会させる。伊丹は辛夏の本当の身分に気づきながらも、自分に対する気持ちを失っていないことを信じ、日本に一緒に行こうと誘う。また伊丹は司徒を拷問、抗日地下組織の動向を知らせる協力者となるよう強要する。日本の諜報機関長の暗殺を地下組織が決行するその日、一足先に送り込まれた辛夏とダンスを踊る伊丹の前に銃を手にした司徒が姿を現わす。

解説

 深刻な時代と残忍な事件を描きながら、どこか作品に虚構性の強い作り物感がある。実はこれは良くも悪くもこの監督の作品に一貫する特徴で、監督第1作『週末の恋人 デッド・エンド』にもコミック感があったし、『危情少女』は怪奇サスペンス風、『2人の人魚』という現代の寓話にしても、とにかく撮る作品がすべてアニメの実写版のようなのだ。

 私の似顔絵を描いてくれた山本さんは婁ヨウは絶対に日本の漫画が好きなはずと断言、女スパイのチャン・ツィイーが様々なスタイルに変装するのも、まるでコスプレみたいだと指摘する。北京電影学院入学前は上海アニメ映画製作所でアニメを作っていた婁ヨウがリアリズム中心の中国映画界で異彩を放っているのは確かで、中国の王家衛という日本での評価も確かにうなずける。その婁ヨウ本人は、上海事変のきっかけとなった事件の、中国人に殺されたとされる日本人僧侶に扮して坊主頭でワンカット登場している。






見どころ

 これまでの作品もすべて様々な時代の上海を舞台にしており、上海を撮らせたらピカ一という定評のある婁ヨウの手になる30年代の上海が堪能できる。個人的には司徒の家の窓から覗く街頭と、辛夏が歩く石畳の通りの雰囲気が一番好きだ。陳凱歌が『花の影』の撮影のために作らせた上海郊外の松江にある旧上海市街を再現したオープンセットを使っているのだろうが、とてもセットとは思えない濃厚な時代感と雰囲気はさすがである。

 チャン・ツィイーが汚れメイクのせいか、あまり美しくないのが残念だが、その代わり、司徒の恋人役の李冰冰の可憐な姿が印象的で、出番は少ないものの彼女の死は強烈な印象を残す。それも含めて、駅での群集の中での銃撃戦シーンはこの映画の白眉のシーンだ。『山の郵便配達』や『藍宇』の劉ヨウは自然体の演技だったので、さほどすごい俳優とも思わなかったのだが、今回の彼はとてもエキセントリックで、特に部屋で1人復讐を決意する表情をカメラが長廻しで撮ったカットには凄みすら感じられた。

 伊丹を演じた仲村トオルの中国語はちゃんと中国語として通じ、感心させられた。最近は日本の男優が次々に中国映画に出演、果敢に中国語の台詞に挑戦しているのが好感が持てる。また小料理屋の女将を演じた馬島洋子は賈章柯映画の撮影監督余力為の夫人。映画初出演ながらなかなかの好演で、ちょっと三田和代(三田佳子ではない)に似た色っぽさがあり、存在感があった。(2005年12月号より)

水野衛子 (みずのえいこ)
中国映画字幕翻訳業。1958年東京生まれ。慶応義塾大学文学部文学科中国文学専攻卒。字幕翻訳以外に『中国大女優恋の自白録』(文藝春秋社刊)、『中華電影的中国語』『中華電影的北京語』(いずれもキネマ旬報社刊)などの翻訳・著書がある。

 







 
 






 
   
     
 
 
     
   
     
     
   

 
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