名作のセリフで学ぶ中国語(30)

 

緑茶

 

監督 張元(チャン・ユアン)
2002年 中国 89分
  4月日本公開

 


あらすじ   

  大学院で比較文学を研究する呉芳はひっつめ髪にメガネ、肌を決して露出しない地味な服装をした愛想のない女性で、なぜか次々と見合いを繰り返している。たまたま彼女と見合いをした陳明亮はその日にホテルに誘って平手打ちを喰らって以来、急速に彼女に惹かれていく。そんな陳に呉芳は友人の話だと言って、母親に暴力をふるう父親を殺した女性の話をするのだった。
 
  呉芳に魂を抜かれたような陳を友人の現代画家はホテルでピアノを弾く朗朗という女性のところに連れて行き、金さえ出せば誰とでも寝る高級売春婦だと言う。その朗朗はあろうことか呉芳と瓜二つ。混乱する陳。やがて、呉芳にふられ、朗朗を誘って友人の画家たちと飲んでいる時、口論になって女友だちを殴った現代画家に「女を殴る男は最低」と平手打ちをする朗朗を見て、陳は呉芳と朗朗が同一人物だと確信する。

解説
 
  都会に生きる孤独な男女の物語。「北京でも東京でもニューヨークでも通用する話」と張元は言う。男嫌いのくせに安定した家庭を望み、見合いを繰り返す呉芳の見合い相手もいずれも実に変な男ばかり(そのうちの1人を張元自身が演じている)。なかなか人とコミュニケートが出来ない男女の姿を洒落た台詞でユーモラスに描いて、悲しくもおかしい不思議な味わいのある作品。何を職業としているのか正体不明な姜文演じる陳明亮もその友人の現代画家(実際に画家の方力均が演じて好演)も金にも寝る女にも不自由はしないが、どこか心は満たされない。北京にもこういう男女が増えたのかと感慨深いものがある。
 
  それにしても張元はよほどトラウマのある女性が好きらしい。『東宮西宮』でも『ただいま』でも『ウォ・アイ・ニー』でもこの作品でも生育環境が原因で精神と性格に問題を抱えた女性を繰り返し撮っている。そういう女性に惹かれる(らしい)張元を心理分析してみたいところだ。



見どころ
 
  実は私はこの映画で趙薇が透明のガラスコップにお湯を注いで飲む翡翠色の美しい緑茶が何のお茶か気になってたまらず、いろいろと試してみた結果、色と茶葉の形から小苦丁茶であることを突き止めた。来日した張元に確かめたところ大正解とのこと。苦丁茶は喉もとを通る時は文字通り本当に苦いのだが、喉ごしを過ぎると実に爽やかで病みつきになる。これを飲み始めてからコーヒーが物足りなくなったほど。日本ではまだあまり見かけないが、中国では結構どこでも買えるので是非お試しあれ。
 
  そして、映画で趙薇がいろいろな男と見合いをする茶館として登場するのは北京に実際にあるお洒落なバーやレストラン。残念ながら最初に姜文と知り合う建国門外SOHOにあった「茶馬古道」(実は画家の方力均が経営する雲南料理の店で壁画の現代絵画も彼の作)は後海のバー街に移転してしまって雰囲気もまったく変わってしまったが、趙薇と張元が見合いをする三里屯近くの「為人民服務」というタイ料理店は味もいけるし値段も手頃でお薦め。もっともガラス窓の印象的な白い文字は映画の美術さんが貼ったもの。他にも、労働文化宮入り口近くの東華門画廊や工人体育館の東側にある紫雲軒(『無窮動』で鶏の手のケータリングをした店)、蔵酷、粉酷などはすべて現存するので、北京のリピーターには是非「緑茶ツアー」をお薦めしたい。その際泊まるホテルは必ず東方君悦酒店(グランド・ハイアット)または崑崙飯店へ。君悦のロビーでは趙薇演じる朗朗がピアノを弾き、最後に陳明亮と2人で部屋をとるために走り回るシーンにも使われ、崑崙の1階のタイレストランでは最後に朗朗と呉芳が同一人物と判明する友人たちとのシーンが撮影されている。どちらのホテルのロケーションも北京での観光や買い物にとても便利なところにある。(2006年6月号より)

水野衛子 (みずのえいこ)
中国映画字幕翻訳業。1958年東京生まれ。慶応義塾大学文学部文学科中国文学専攻卒。字幕翻訳以外に『中国大女優恋の自白録』(文藝春秋社刊)、『中華電影的中国語』『中華電影的北京語』(いずれもキネマ旬報社刊)などの翻訳・著書がある。

 


 
 













 
   
 

















 
   
     
     
     
     
   

 
本社:中国北京西城区車公荘大街3号
人民中国インタ-ネット版に掲載された記事・写真の無断転載を禁じます。