名作のセリフで学ぶ中国語(32)

 

胡同のひまわり

(向日葵)


監督 張揚(チャン・ヤン)
2005年 中国 132分  7月上旬日本公開

 


あらすじ
 
  1976年、「文化大革命」が終わり、下放先の農場から向陽の父が帰ってくる。厳格な父になかなか馴染めない9歳の向陽。近所の子供と外で遊んでばかりいる向陽に絵を教えようとする画家の父は、下放先での重い労働で手を痛め、もう絵筆を持つことは出来なかった。絵のために友だちと自由に遊べなくなった向陽はわざと右手を傷つけようと試みるがことごとく失敗する。
 
  1987年、19歳の向陽は什刹海でスケートをする少女に恋をし、美術大学に合格させようと監視の目を光らせる父親から逃れ、少女と広州に行こうとするが、見つかって連れ戻される。少女の妊娠を知った父親は向陽に内緒で少女を病院に連れて行く。傷心の少女は向陽に別れを告げる。
 
  1999年、新進現代画家となった32歳の向陽と父親の関係は相変わらずぎこちない。妻が妊娠しても、向陽は父親との関係からまだ父親になる自信がないと妻に中絶を勧める。向陽の初めての個展を見に来た父は、「お前には自分より才能がある」と言って息子を祝福すると家族の前から姿を消す。

解説
 
  『こころの湯』『昨天』(日本未公開)と父と息子の関係を描き続けてきた張揚監督の、今回は特に自伝的要素の強い作品となった。張揚の父は北京映画製作所の監督で、監督作には「文革」後初のアクション物『神秘的大仏』などがある。幼い頃から北京映画製作所の職員住宅(陳凱歌や田壮壮もここで育つ)であった四合院で育った張揚と向陽の少年時代がだぶる。一旦は広州の中山大学で中国文学を学んだものの、学生演劇の演出で認められ、北京の中央戯劇学院に転学、結局父親と同じ映画監督の道を歩みはじめたというキャリアや長年同棲している彼女がいるのに結婚もしなければ子供を持とうともしないことなどからも、この映画が張揚自身の父へのメッセージであることがうかがわれる。

 

見どころ
 
  北京映画製作所内のオープンセット(かつて『さらばわが愛/覇王別姫』もここで撮影された)に1970年代の北京の四合院を見事に再現。隣人との関係もかつての日本の町内との関係を思い出させられるし、子供たちが遊ぶパチンコやメンコ、ゴム段跳びといった遊びもすべて昔の日本の子供たちにお馴染みの懐かしい遊びだ。違うのはパチンコが日本では木の枝で作るのに、中国では羊の骨で作ること、メンコがタバコの空き箱で、その銘柄によって強弱が決まるということぐらい。もっとも、宣伝のために来日した向陽役の張凡君はいかにも北京の現代っ子でこういう遊びはまったくしたことがなく、撮影前に助監督に習ったそうで、来日取材の合間はDSに夢中だった。これもまた日本の今の子供と変わらない。
 
  青年時代の風俗も、それぞれ時代を見事に切り取っている。読みふるした連環画や本を売って小商いに励む80年代の大学浪人生や性に積極的な女子学生、90年代では、北京ジープを運転し、798工区を思わせるロフトや、廃棄工場での現代絵画展などが登場する。ちなみに、映画の中で成長した向陽の絵として使われるのは著名な現代画家張暁陽の作品。
 
  父親役の孫海英と母親役のジョアン・チェンが相変わらず達者な演技を見せている。 (2006年8月号より)

水野衛子 (みずのえいこ)
中国映画字幕翻訳業。1958年東京生まれ。慶応義塾大学文学部文学科中国文学専攻卒。字幕翻訳以外に『中国大女優恋の自白録』(文藝春秋社刊)、『中華電影的中国語』『中華電影的北京語』(いずれもキネマ旬報社刊)などの翻訳・著書がある。

 


 
 













 
   
 

















 
 
 
     
     
     
     
   

 
本社:中国北京西城区車公荘大街3号
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