名作のセリフで学ぶ中国語(36)

 

おばさんのポストモダン生活

(姨媽的后現代生活)


監督 アン・ホイ    2006年 中国 110分
  
第19回東京国際映画祭   「アジアの風」部門上映作品

 


あらすじ

 寛寛のおばさんは上海で質素ながらも優雅な1人暮らしをしている。隣に住む小金持ちの未亡人の水さんとはそりが合わず、彼女の飼う猫も気に入らないが、そこは孤独な者同士、それなりに行き来をする仲。ある日、公園で京劇を通じて知り合った中年男に言い寄られたおばさんは、芸術に造詣の深いらしい男に魅かれていくが、男の勧めで投資のために墓地を買ったところ、販売会社が夜逃げして大切な虎の子を失ってしまう。男を追い出し、大怪我をして入院したおばさんを訪ねて東北に置き去りにした娘がやってくる。蓄えを失い、上海で暮らせなくなったおばさんは、娘と共に離婚した夫のもとへと帰るが、そこでの暮らしは上海とは違って、生活に追われる惨めな日々で、一気に老け込んでしまうのだった。

解説

 下放先の遼寧省の鞍山で現地の労働者と結婚した上海女性が、夫も娘も棄てて上海に戻ってから知り合ったさまざまな人たち。それは、いずれも不遇な人生を送る孤独な老若男女たちだった。中年女性と人々との交流をコメディタッチで描きつつ、おかしくて、やがて悲しき人生の哀歌をアン・ホイ監督が老練の手管で描きあげた佳作である。

 映画の舞台はほとんどが上海だが、最後に登場する東北地方の鞍山は実はアン・ホイ監督が生後2カ月までいたところ。1947年、国民党の将校だった父親が収容所の日本人女性を見初めて結ばれ、生まれたのがアン・ホイ監督であることは、自伝的映画『客途秋恨』にも出てきた。今回の作品のロケハンのために50数年ぶりに生まれ故郷を訪れたのだという。

 脚本の李檣はベルリン映画祭で金熊賞を受賞した顧長衛の『孔雀』の原作者であり、脚本家でもある。70年代生まれのまだ若い作家なのに『孔雀』では70年代の閉塞した社会と家庭に押しつぶされそうになる若者の姿を描き、この作品では変貌する現代の中国社会の市井の片隅に生きる中年女性の心理を巧みに描いて、なかなかの渋い作風。かと思えば、中国版『セックス・アンド・ザ・シティ』と言われたテレビドラマ『好想好想談恋愛(日本語題:恋愛都市)』のような現代都会風俗コメディも手がけるという幅広い才能を見せて、最近売れっ子の脚本家でもある。

 この不思議なタイトル「ポストモダン生活」は、夫や子供に縛られず、自分の思い通りに人生を生きるため東北から出てきたおばさんの上海での生活を指すと同時に、「更年期生活」の隠喩でもあるのではないかと思う。『無窮動』に続くこの更年期女性映画もまた、酸いも甘いも噛み分けた大人の女の映画であるといえる。

 
 

見どころ

 斯琴高娃、チョウ・ユンファ、ヴィッキー・チャオ、廬燕、史可がそれぞれはまり役で好演。斯琴高娃は厳浩、スタンリー・クワンに続いて、これが3度目の香港の監督作品出演だが、前二作では熱演ではあるものの、彼女の本来の魅力や面白さが引き出せていなかった感がある。この作品で彼女独特のとぼけた持ち味や頑なな感じが出ているのは、やはり女同士のゆえだろうか。

 アン・ホイ作品は『傾城の恋』以来というチョウ・ユンファも、昔のコメディアンぶりを十二分に発揮、ハリウッドスターとなった今の彼にこういう役をやらせられるのは恐らくアン・ホイだけだろう。トレンチコートを羽織って去っていく最後の後ろ姿には過去のチョウ・ユンファ作品のパロディさえ感じさせて、思わず拍手してしまった。ヴィッキーも監督の前作『玉観音(日本語題:愛された記憶)』で悲劇のヒロインをやらせてみて、彼女の本領は悲劇ではなくコメディだということがよく分かったのか、今回はハマリ役と言っていいほどの適役で、本人も気持ち良さそうに東北のがらっぱち女を演じていて、今後の役の幅が広がった感じ。

 その他、甥っ子を演じる男の子、彼とネットで知り合う娘、その祖母、一瞬、田壮壮がゲスト出演かと思ったおばさんの夫、ヴィッキーの夫と脇役の1人1人が実にいい味を出している。中でも私が一番笑ったのは、斯琴高娃とチョウ・ユンファの水着姿。一見の価値ありです。(2006年12月号より)

水野衛子 (みずのえいこ)
中国映画字幕翻訳業。1958年東京生まれ。慶応義塾大学文学部文学科中国文学専攻卒。字幕翻訳以外に『中国大女優恋の自白録』(文藝春秋社刊)、『中華電影的中国語』『中華電影的北京語』(いずれもキネマ旬報社刊)などの翻訳・著書がある。

 


 
 













 
     
 

















 
 
 
     
     
     
     
   

 
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