名作のセリフで学ぶ中国語(39)

 

水墨画アニメ短篇3篇

 

中国☆上海映画祭上映作品より

 


あらすじ

『おたまじゃくしがお母さんを探す』
(小蝌蚪找ママ)

 お母さんカエルが目を離した隙に卵が孵って、おたまじゃくしたちはお母さんを探しに出かける。金魚やナマズをお母さんと間違え、池の中を大冒険。戻ってきたお母さんカエルも必死になって子どもたちを探し、水草にからまったところを助けてくれたカニが教えてくれて、ようやく子どもたちと巡りあう。

『牧笛』(牧笛)

 村の牧童が水牛を連れて川辺にやってくる。牧童の横笛にうっとりと耳を澄ます水牛。木の幹に腰かけ、うとうとし出した牧童は水牛の夢を見る。夢の中で水牛は牧童の呼ぶ声にも振り向かず、どんどん山の中へと入っていってしまう。やがて、ハッと夢から醒めた牧童が牧笛を吹くと、水辺にいた水牛が笛の音に気づいて、牧童のそばに戻ってくる。夕焼けに染まった、のどかな田園地帯の中を家路につく牧童と水牛。

『山水情』(山水情)

 古琴を抱えた旅人が行き倒れ、船頭の少年に助けられる。旅人はお礼に少年に古琴を教える。やがて、時は流れ、少年が見事に古琴を弾きこなすようになると、旅人は少年を連れて奥深い山へと登っていく。山の中腹で、旅人は少年に別れを告げ、古琴を託して、さらに山の頂きへと登って消えて行く。別れの悲しみを胸に夢中で弾き続ける少年の古琴の調べが山水の景色と一体になる。

解説

 いずれも今はなき上海アニメの殿堂、上海美術映画製作所の傑作短篇。『おたまじゃくしがお母さんを探す』は1960年の製作で、特偉と銭家駿の共同監督作品。1964年のカンヌ国際アニメーション映画祭の栄誉賞など数々の国際映画賞を受賞している。ぼわあっと滲んだタッチの水生動物たちのさまざまな生態が愛らしく描かれ、子どもに語りかけるようなナレーションといい、生き物の親子の情というテーマといい、これはもう見事な教育映画でもある。

 60年代前半までの中国の児童映画には実写物にも傑作が少なくなく、長い抗戦と内戦が終わり、少しずつ落ち着き取り戻した中国社会の小康状態を象徴するような、建国の明るい未来を信じる健康性は謝冰心の児童文学などにも通じるものがある。まさに新中国の古き良き時代の香りの漂う作品だ。エビやカニなどは斉白石の画にそっくりで、それがユーモラスに動くところに感動がある。

 こんな素晴らしい伝統と技術を持つ中国独自の水墨画アニメというものがあったのに、外国のアニメを模倣した結果、現在の中国のアニメが中途半端なものになっているのが惜しまれる。中国アニメの生きる道は下手なCGアニメではなく、中国の誇る芸術である水墨画に求めるべきでは?

 
 

見どころ

 『牧笛』と『山水情』はいずれも絵だけで見せる趣向。監督の特偉が1963年と1988年に手がけたもので、二作品を見比べると非常に感慨深いものがある。共に水墨画の精神である老荘思想の影響を色濃く漂わせているが、まるで王維の田園詩のような牧歌的な『牧笛』に比べると、『山水情』には明らかに厭世的な神仙思想があり、二作品をまたがる激動の四半世紀の歴史が監督の心境に及ぼしたものの大きさを見せつけられる思いがする。

 『牧笛』が朱色や褐色の色墨を用いた山水画であるなら、『山水情』は墨と水だけで描いた水墨画そのもの。雨雲からぽつんぽつんと水滴が落ちだし、雨脚が早くなるまでの過程などを絵で見せることにより、作品自体が水墨画の技法の教程にもなっている。川の水は描いていないのに、水の流れを感じさせるところなども、まさに水墨画の余白の美を生かした表現法の極致。全篇を流れる古琴の凄絶な調べも、作品の格調を高めるのに一役買っている。これはもう子どものアニメというよりは、完全に大人のアニメである。

 今回、これらの水墨画アニメを改めて見直して、そのクオリティーの高さに圧倒され、正月に中国に行ったついでに、世界漫画シリーズの「中国水墨画動画」というタイトルのDVDを購入した。70数篇の水墨画アニメが豪華な箱に収められたもので、定価はたったの119元。あまり数は出回っていないとのことだが、是非、中国旅行の際に買い求めてはどうだろう。お薦めです。(2007年3月号より)

水野衛子 (みずのえいこ)
中国映画字幕翻訳業。1958年東京生まれ。慶応義塾大学文学部文学科中国文学専攻卒。字幕翻訳以外に『中国大女優恋の自白録』(文藝春秋社刊)、『中華電影的中国語』『中華電影的北京語』(いずれもキネマ旬報社刊)などの翻訳・著書がある。

 


 
 













 
   
 

















 
 
 
     
     
     
     
   

 
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