名作のセリフで学ぶ中国語(45)

 

愛は迷走中〜Call For Love
(愛情呼叫転移)

 

監督 張建亜
2007年 中国 115分

 


あらすじ

 結婚7年、変わりばえのしない妻との生活に飽きた徐朗は離婚を申し出て、怒った妻に携帯電話を壊される。離婚は成立、家を出て携帯を修理に出すと、修理工が代わりに不思議な携帯電話を差し出す。ボタンを押すだけで、10人のそれぞれ違ったタイプの女性との出会いが訪れると言うのだ。次々に出会った美女たちは、それぞれに癖があり、お腹の子の父親になってくれる男性を求める女性、どんなことも原則を崩さない女性警官、超現代っ子のじゃじゃ馬娘、マンション取得に異常な執念を燃やす物質主義の女性、何の商売か知らないが、やり手の女社長、愛犬との生活を何よりも優先する女、男性不信で凝り固まった女などなど、徐朗は彼女たちに翻弄されるばかり。「一人として真っ当な女がいないじゃないか」と修理工に文句を言うと、「愛するとは、相手の全てを愛することだ」と答える修理工に後光がさす。修理工は天使だったのだ。愛の何たるかを知った徐朗は高校時代の同級生と再会する。実はその同級生もまた同じ携帯電話を密かに持っていた。

解説

 一見ドタバタに見えるが、中国の大都会に生きる男女の諷刺劇として、かなり洗練された上質のコメディである。登場する女性たちは、かなり誇張されてはいるものの、これまた中国の今を象徴していて、衣食住に不自由はないが、心に空洞を抱えているあたり、今の中国のある層の真実ではあるのだろうと思う。

 監督はこれまでもコミックタッチの作風を得意としてきた第5世代監督の張建亜だが、これだけ弾けたポップな作風になったのは、修理工を演じている劉儀偉の脚本の力に負うところが大きいようだ。彼が歌う主題歌のラップも、すべては聴き取れないが楽しい。

 それにしても主人公をめぐって12人もの女優が登場すると聞いて、それだけの数の女性との絡みをどう見せるのかと思ったら、そのあたりの処理も巧みで、一人当たり正味10分足らずの短いエピソードも気が利いているし、個性の描き分けもお見事、なかなかの手腕であった。

 中国国内では今年のバレンタインデーに公開され、ヒットしたというのもうなずける出来栄えである。

 ただ、肝心の道具が携帯電話である必要はなかったような。ボタンを押すだけで、電話をかけるわけじゃないのだから。そこが惜しい。

 
 

見どころ

  主人公を演じるのは『クレイジー・ストーン』で悪徳不動産屋を演じた徐崢。同じく『クレイジー・ストーン』で、地元のチンケなコソ泥3人組のボスを演じた劉樺も小さな役で出演している。

 対する12人の女優陣は、宋佳、范冰冰、黄聖依、白冰、車永莉、寧静、伊能静、瞿穎、秦海雍、キョウベービー、姜宏波、沈星。この全員の顔が思い浮かぶ人は大変な中国映画オタクである。私は車永莉と沈星は知らなかったが、沈星はアナウンサーだそうだ。それはともかく、この12人が短い出番で印象的な演技を披露し、中国の女優はただきれいなだけではなく、コミカルな芸も実に達者なのに感心させられる。葛優のお父さんの葛存壮や叢珊といった長年の中国映画ファンには懐かしい脇役の登場も嬉しい。

 男性の観客は誰が一番好みかを見る楽しみがあるだろうし、女性観客はどのタイプの女性に共感を覚えるかで、一種の心理テストにもなる。ちなみに私が一番同感し笑ったのは寧静演じるマンション転がしが趣味の女と、秦海雍が演じる男に深い懐疑心を抱いている女の辛辣な台詞だった。これって我が身を映し出す鏡かも。マンションは転がしてないけど。 (2007年9月号より)

水野衛子 (みずのえいこ)
中国映画字幕翻訳業。1958年東京生まれ。慶応義塾大学文学部文学科中国文学専攻卒。字幕翻訳以外に『中国大女優恋の自白録』(文藝春秋社刊)、『中華電影的中国語』『中華電影的北京語』(いずれもキネマ旬報社刊)などの翻訳・著書がある。

 


 
 













 
   
 











 

 

 

 









 
 
 
   
     
     
     
   

 
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