【@China わたしと中国】

太極拳の魔法の粉
          北京在住・太極拳研究者 日隈ひろみ

【プロフィル】1950年9月大分県生まれ。二女の母。91年から東京で大極拳を習い始める。99年、北京の首都体育学院に留学。2001年、中国で試験二酸化し、「一等奨」などを獲得。03年より、北京中医薬大学で学んでいる。04年2月、中国武術協会の「全国大極拳高級師資」(師範資格に)合格。

 ある日、公園で練習していると、一人の中国人が話しかけてきました。私が日本人だと言うと「不可能!外国人に太極拳がやれる訳ないではないか」となかなかのお世辞上手ですが、すっかり喜ばせていただきました。

 うれしかったです。 

 おっしゃるとおり、他国の人間にとって中国文化の太極拳は難しいものですが、世界中から歓迎されているということは、太極拳が含んでいる中国武術、中国医学、中国古代哲学、気功などは普遍的であり、つまりは太極拳は普遍性を備えていると言えるのではないでしょうか。外国人でも習得可能な訳です。

 ただし、中国人にあって、外国人にないものとして、自国の文化に対する誇りや、敬意は当然として、奥の深いものであることを十分に知っていることからくる恐れや謙虚さなどがあげられると思います。

 私などはちょっとわかってくると、舞い上りたくなります。謙虚さを忘れてはならないと自戒しておりますが……。 

 私は41歳の時に、東京で太極拳を習い始めました。週に一、二度電車に乗って教室まで行って、一時間半、習うということを、5、6年続けましたが、今思うに中国の方のように朝早く、近くの公園で気楽にのんびりというやり方は健康には最適のようです。 

 

 第一、ストレスが少なくて、気の通りがよくなります。

 当時は健康体操程度の理解しかなかったのですが、なぜ健康作りに役立つのか知りたいとは思っていました。そこでとうとう北京に来て、武術の基本功から始めて、今では関係の深い中医(中国医学)まで習うことになったのです。

 よくよく縁の深いものだと思います。


 さて、御存知の方が多いとは思いますが、太極拳について簡単にご紹介いたします。

 まず太極拳は武術に属します。ですから、練習を通して中国武術の一端をのぞくことになります。その完成度の高い技と芸術的ともいえる無駄のない動きの美しさ、攻撃と防御が同時進行することの妙味と合理性、等々。

 興味が高じて、武術を本気で習ってみようと思うかも知れません。そして知らず知らずのうちに足腰が鍛錬されていくことでしょう。

 

 また、気功との関連も見逃せません。気を丹田に沈めることを要求する太極拳によって、いわゆる胆のすわった人間に変身するやも知れません。

 気の運用は中国医学と関係の深いものです。

 中国医学の知識は、あなたの健康作りにおおいに役立つことになると思います。

 森羅万象に陰陽をみる中国人は太極拳の動作にも陰陽思想を重ねます。そのほかバランスを重んじる中庸の思想や、老荘の思想など関係の深いものです。

 太極拳はリラックスして自然にやるのがよいと言われます。上達用の「魔法の粉」があるかというと、それはありません。毎日の練習あるのみです。

 私としては、もしもこの世に自由自在の気なるものがあるとしたら、「ピーターパン」の中のティンカーベルの魔法の粉のようにそれをふりかけてもらって、自由自在に太極拳を打ってみたいと思っているのです。そしてまるで大陸に吹きわたる風に押されるように、動いてみたいと願っている次第です。

 中国の先生方と太極拳の朋友們(友人たち)には、感謝の意を表したいと思います。(2004年09月号より)