中国が「国際人権A規約」を批准

            『
南方周末』記者 ケ 科

 
 

 2001年2月28日、中国の第九期全国人民代表大会(全人代)常務委員会第20回会議で『経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約』(A規約)が批准され、内外のマスメディアの高い関心を集めた。

 章啓月・外交部スポークスマンは、「これは人権分野で中国が取った大きな措置であり、たいへん意義深いものだ」と語った。

 同規約批准の詳しい状況について、中国社会科学院人権研究センターの副主任で教授の劉楠来氏に聞いた。

      人権にかかわる重要な国際規約

 劉氏によると、『経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約』は最も影響力のある、人権にかかわる国際的な公文書の一つだ(もう一つは『市民的及び政治的権利に関する国際規約』=B規約)。

 第二次大戦時、ナチスが人間の基本的な権利を侵したことをかんがみて、国連は設立当初から、世界の力を合わせて国際協力をおしすすめ、人権の保護と尊重を促すことを趣旨としている。

 1952年の第六回国連総会で、国連人権委員会は二つの規約、つまり『市民的及び政治的権利に関する国際規約』と『経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約』を起草することを決定した。66年の国連総会では『経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約』が、満場一致で採択された。

 これまでに、世界142カ国がこの規約を批准した。それは『市民的及び政治的権利に関する国際規約』とともに国際的に公認された、二つの最も重要な、法的効力を有する人権規約(国際人権規約)となっている。

 中国政府は、97年10月に『経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約』に正式に署名。関係部門の十分な調査研究と、全人代常務委員会の審議をへて今年2月28日、立法機関により批准されたのである。わずか三年余りでの批准は、世界でも比較的早い対応だった。アメリカは早くも66年に同規約の起草に携わったが、今になっても同規約を批准していない。

 専門家たちの普遍的な見方では、中国の同規約の批准は、国際的に普遍的な人権への尊重・遵守の姿勢を表すとともに、中国政府の人権保護への強い決意を示したものである、という。

        社会保障と男女平等

 劉氏によると、この国際規約はまず最初から、「すべての人民は、自決の権利を有する。この権利に基づき、すべての人民は、その政治的地位を自由に決定し並びにその経済的、社会的及び文化的発展を自由に追求する」(第一条の一)と規定している。

 いかにして各締約国の国内で国際法を貫徹し、施行するのか。それぞれの国には異なったやり方がある。一般的には二つのやり方がある。

 一に直接的使用。つまり、発効した国際法を内国法の構成部分の一つとして自動的におきかえ、裁判官はこれをよりどころに事件の判決を下す。

 二に間接的使用。つまり、内国の立法によって、国際法を施行する。

 劉氏によると、中国の法律には国際法の施行への明確な規定がないが、実際の状況や一部の条文の意味あいから、主として間接的に施行している。つまり現行の法律に対し、補完や修正を行い、国際法を貫徹し、施行している。

 事実、『経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約』の内容のほとんどは、すでに中国の現行法のなかで具現されている。一部の内国法には、国際基準を上回るものもある。たとえば、女性の出産休暇は国際基準の日数より多いのがそれだ。

 また、一部の内容はすでに内国法に規定されているが、カギとなるのは、実際の施行である。たとえば、同規約では教育を受ける権利が規定されているが、中国の現行法ではすでに、それがほぼ完全に規定されている。しかし、実際には貧しい山間地区で、一部の学齢児童が義務教育を受けられないでいる。そのため、社会が発展することでこれを改める必要がある。

 劉氏は、この国際規約を着実に施行するには、中国は目下、二つの突出した問題に直面するだろうと考えている。

 一に、社会保障の問題。同規約は「この規約の締約国は、社会保険その他の社会保障についてのすべての者の権利を認める」(第九条)と規定している。中国の社会構造は現在、程度の差こそあれ、依然として二元的体制、つまり都市部には一つの制度が、農村部にはもう一つの制度がある。現在実施中の養老保険、医療保険、失業保険などはまだ農村部に行き渡っていないが、どのようにして九億の農村人口を含む社会保険制度を構築するのか。それは中国にとって大きな課題であり、また、世界のいかなる国にとっても未曽有の新しい課題となっている。

 二に、古くからの課題である「男女平等」の問題。「男女平等」はもろもろの法律のなかで具現しているが、事実、それは楽観を許さない。多くの企業は、男性職員(労働者)のさらなる雇用を希望し、それにより女性職員(労働者)の雇用によって生じる産休制度や託児費給付などの問題を避けようとする。さらに女性職員の定年を、実際より何年か下げようとする企業もある。企業がリストラをする際は、女性職員はさらに解雇されやすい。

        労働組合とストライキ権

 『経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約』の第八条の一の(a)に、「すべての者が(中略)労働組合を結成し及び当該労働組合の規則にのみ従うことを条件として自ら選択する労働組合に加入する権利」を有すると規定されているが、これは中国の法律の定めるところと基本的に一致している。

 ただし、次の点に違いがある。同規約でいうのは、すべての者が「自ら選択する労働組合に加入する権利」を有することだが、中国の法律では、職員は全国総工会(労働組合の全国組織)系統の労組にしか加入できない、と規定している。この点については、どう解決すればいいのか。

 関係者によると、国際法の実践にあたっては、「留保制度」をとるという解決法が生まれた。この制度に照らして、締約国は同規約の条項の適用にあたり、条項の内容に拘束されない権利を留保するか、または解釈を加えた声明を発表することができるとした。

 中国の全人代常務委員会は、同規約の批准にあたって声明を発表し、労組加入の問題は『中華人民共和国憲法』『中華人民共和国工会(労働組合)法』『中華人民共和国労働法』などの法律の関係規定に従って、行使されるものだと表明している。

 もう一つはストライキ(同盟罷業)をする権利の問題だ。同規約第八条の一の(d)には、労働者は「同盟罷業をする権利」を有すると規定されているが、中国の現状は、次のようだ。新中国成立後にできた四つの憲法のうち、七五年憲法と78年憲法はこの権利を承認したが、新中国成立後の52年に初めて公布された憲法はこれについて触れておらず、現行の82年憲法では留保され、『労働法』でもこれを規定していない。

 劉氏によると、いま中国で施行されている法律が同盟罷業をする権利に対し、具体的な規定を設けなかったのは、長年すべての企業が国有企業か集団企業で、企業と労働者の利益が一致したため、対立する関係が理論上存在しなかったからだという。

 しかし、改革・開放をすすめるこんにちの中国では、状況が大きく変わった。民営企業、中外合資企業などの非公有制経済は、すでに中国の市場経済の重要な構成部分となっており、労使関係の範囲は国有経済に限らなくなった。労働者がストライキを行う現象が近年、一部の地方で起こったのは事実だが、労働者がストライキをする主な目的は、賃金支給の滞りや過度の残業に抗議することにある。

 雇用者と労働者との間の利害関係でバランスをとるためには、法律上、労働者にストライキの権利を与えるべきだろう。労働者のストライキの権利は、市場経済の社会において労働者階級の利益を守るために必要な、効果のある法的メカニズムだ。しかし条文化には、なお時間が必要だろう。

 『経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約』の批准は、すでに中国に、同規約に求められる具体的な条件が備わったことを表す。と同時に、政府にもより高い要求をしていくことを示している。この点で同規約の批准は、法制度の完備や経済、文化の発展を促すために有利である。

 劉氏によると『経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約』は、他の国際規約と比べ、その最大の特徴が「過程性」の原則を認め、同規約で認められた諸権利の「漸進」的な実施を許すことだという。

 たとえば、教育を受ける権利は、それを実現するために、充足した学校の設置を要求できる。また、社会保障を受ける権利は、それを実現するため、充足した社会保険基金の設立を要求できる。

 こうしたことから、同規約を実施する基本は、経済、文化の発展を大いにおしすすめ、国が充足した資源を出して、その諸権利の実現を保証することにあるといえる。

       締約後の監督を受ける

 劉氏によると、同規約の規定した制度にしたがい、締約国は同規約の実施状況及び進歩に関する報告を、国際人権委員会に定期的に提出する。また国際人権委員会は、その検査と監督を行う。この規約の中国での批准は、中国が同規約の法的拘束力を認め、同規約の定めた諸権利と諸義務の達成を約束することを指し示す。また同時に、中国が今後、定期的に国際人権委員会にこの規約の実施状況を報告し、その検査と監督を受けることを指し示す。

 中国全人代の関係者によると、関係部門は今まさに、現行法の補完と修正を含めた問題の研究にとりくみ、これを同規約に合わせるよう努めているという。(2001年8月号より)