時代に翻弄された中国女性
――『徽州女人』と『香魂女』


                    池 倩

 今年の春、北京の戯曲舞台で特に注目を集めたのは、安徽省地方劇の黄梅戯『徽州女人』と河南省地方劇の豫劇『香魂女』だった。劇の筋書き、舞台美術、表現方法などに工夫を凝らした二つの劇は、戯曲舞台に新鮮な風を吹き込み、観衆の好評を得た。また、『徽州女人』と『香魂女』が描いた三人のヒロインの運命は、歴史と現実を語るに足る意義を含んでいる。

黄梅戯『徽州女
人』のヒロイン

 『徽州女人』の筋書きは比較的簡単で、次のようなものだ。清の時代、徽州のある女性は、親が決めた婚約者を偶然見かけて、「彼となら、きっと一生幸せに暮らせる」と一人満足していた。ところがお嫁に行ったその日、夫は他の理想のために家を出てしまった。素直でおとなしい彼女は、舅と姑の世話をしながら夫が帰るのを三十余年も待った。しかし、やっと帰ってきた夫は、もう一人の女を娶り子供までできていた。絶望した彼女だったが、自分のことをなんとも思っていない夫の前で、何気ないふうを装って、夫の新しい妻に向かって、「私はあなたの子の叔母さんです」と自己紹介した。

 劇はここで終わる。劇中、徽州の女性は、自分を夫の「姉」と偽るという絶望の選択をするしか道は残されていなかった。男尊女卑という封建道徳に縛られていた女性たちには、少しの自由もなかったのだ。――嫁ぐ前は父に従い、嫁いだ後は夫に従い、夫が死してからは子に従う。男性は、妻や妾を何人持っても許されるが、女性は、節を守るという理由から再婚すら許されなかったのがこの時代だった。徽州の女性に扮した名女優・韓再芬は、その一流の演技と複雑な表情で、観衆に女性への同情心を沸き起こさせ、同時に昔の中国女性の運命に対する社会的不公平を上手に表現した。

 豫劇『香魂女』は現代劇で、次のような物語だ。香魂塘畔に住んでいる香嫂は、もともと沈家の「童養ソク(昔、息子の嫁にするために買ってきた女の子)で、怠け者の夫にしばしば怒鳴られたり、殴られたりしていた。知的障害のある子供を生んでから、家庭からの圧力は一層ひどくなった。それでも離婚は許されないため、ついに慰めてくれる愛人に情を移すようになった。80年代始めには、香魂塘にも改革・開放の波が波及し、香嫂は鈞磁生産を営み、苦労に苦労を重ねて当地の金持ちになった。そして、非常に多い礼金でいやおうなしに環環という女の子を息子の嫁にした。――香嫂は、自分自身が童養マア出身だったが、今度は自分の手で売買婚姻の悲劇を作ってしまった。

豫劇『香魂女』の香嫂と環環

 『香魂女』の脚本家・姚金成は、こう指摘している。改革・開放から二十余年が過ぎた現在でも、多くの地域、特に農村での封建意識は根深く、それに縛られる女性たちは自己解放を勝ち取る勇気がないばかりか、他の女性の目覚めを妨げることさえある。暮らしが豊かになってから、精神の貧弱さと観念の遅れは目立っている。香嫂はまさにその典型。香嫂は最後には、愛人が離れ、夫が賭博で落ちぶれたことから目覚め、きっぱりと息子と環環の不幸な関係を解除し、自分も歩むべき道を改めて考えるようになった。

 また、『香魂女』の監督・李利宏は、窯の温度、火加減、材料の違いによって焼成される鈞磁の「窯変」を引き合いに出し、詩的な舞踏の手法などを用いて、改革・開放後の中国において変化している人々の道徳観念、女性の生活環境や精神状況を表現した。(2001年12月号より)