より多くの中国の人々にゴルフの楽しさを知って欲しい――そんな熱い思いを胸に、プロコーチとして、また経営者として日々汗を流す日本人がいる。日系の室内シミュレーションゴルフ「G.NEXT」で総経理を務める森田愁平さんだ。

「G.NEXT」総経理の森田愁平さん(写真=本誌尹康記者)
「僕が中国に来たばかりの2005年頃、練習場に行くと運転手付きの高級車がズラリと並んでいたものですが、今では普通の乗用車が目立つようになっていて、ゴルフが一般の方でも楽しめるレジャーになったと感じています。実際、上海近郊には23コースくらいあり、平日でも予約が取れないほどの人気です。富裕層のステータスとしてではなく、本当の意味でゴルフを楽しむ方が増えてきたんですね。当社の事業はもちろん商売ですので利益を上げなければいけませんが、それだけではなく中国にもっとゴルフを広めたい、そのためにみなさんが気軽に楽しめる環境作りをしたいという願いがあります」
森田さんによれば、中国に近代ゴルフが上陸したのは1984年とのことで、比較的歴史の浅いスポーツに分類される。しかし逆に言えば、これから大きく伸びる可能性を秘めているということでもある。
「中国といえばスポーツ大国で、いろいろな競技で強いですよね。これだけ広い国土があり、人口も多いですから、今後ゴルフで世界的プレイヤーが出てきても全く不思議ではありません」
このように中国でのゴルフ普及に全身全霊を傾けている森田さんだが、意外なことに中国との最初の縁はプロゴルファーになる夢を断つためだった。
「もともとは子供の頃、ゴルフが趣味だった父親と一緒に過ごす時間が欲しくて始めました。そうして将来はゴルフで生計を立てたいと思うようになったのですが、中学、高校、大学と続けていくうちに壁にぶつかり、これで食っていくのは難しいなと感じたんですね。そこで兄に相談したら、『お前にはゴルフしかないから、このままでは今後暮らしていけない。中国に行って中国語か何かしらを身に着けてこい。1年間は日本の地を踏むな。あとゴルフはするな、以上』って言って、留学費用をポンと渡されました。兄からすると、人生の中で留学や海外生活というものを必ずしておいた方がいい、でも弟はゴルフで親のお金を使ってしまっているから自分が出すっていう考えだったのだと思います」
中国に渡って分かった自分で事実を見極める大切さ
若くして中国に渡った森田さんにとって、現地での暮らしは驚きの連続だった。
「僕の場合、留学前にも何度か現地を訪れていたのですが、それでもやはり日本で暮らしている中で『中国って怖い国なんじゃないか』って思わされていた部分があったんですね。実際に嫌な目にあったこともないのに、買い物に行ったら騙されるんじゃないかとか。でも結局、行ってみるとそんなことはないわけですよ。そういう意味では、海外に出て本当に良かったと思っていますし、そのチャンスを与えてくれた兄には感謝しています。当時に比べると今はもっと情報が溢れていて、中には中国に対して悪い印象を持たせようという狙いを感じる記事やニュースもありますよね。ああいうものは鵜呑みにせず、自分が見極める能力を持たないといけないと思います。僕自身それができているとはまだまだ言えませんが、中国で暮らしていく中で、偏った目線で物を見るということがなくなったのかなと感じています」
こうして上海での留学生活が始まったが、ゴルフひと筋で生きてきた森田さんにとって、やはりプロへの夢は捨て切れなかった。
「当時、食堂の回鍋肉が5元とかそれくらいの時代に、1回練習するだけでもろもろ合わせて300元くらいお金がかかってしまっていたんですが、それでも我慢できなくて練習場に通っていました。その頃、たまたま僕の誕生日で兄から連絡がありまして、欲しいものはあるかって聞かれて『キャディバッグ』って答えてしまったんですね。ゴルフ禁止という条件での留学だったので怒られましたけれど、しばらくして国際郵便で送られてきたことをよく覚えています。そうして練習を続けているうちに、もともとプロ志望でそれなりに打てるので目立つのか、ゴルフスクールを経営している中国の方にうちで働かないかと声をかけられました。20歳そこそこの若造がいきなり副総経理をやることになり、30人くらいの部下を持つことになってしまったんです。そこから紆余曲折を経て、ゴルフスクールの代表となり、やがて今の会社の『G.NEXT』総経理としていろいろな方のサポートもあり、中国でゴルフに携わることができています」
オリンピックのゴルフ種目で中国国旗が上がる日を夢見て
自身と中国、そしてゴルフとの縁を笑顔で話す森田さんだが、全てが順風満帆だったわけではない。オーナーと意見の違いでぶつかったり、一緒に事業をする予定だった人がお金と共に消えたりといった試練を乗り越え、現在の成功を掴んでいる。昨年は新型コロナウイルス感染症の影響にも見舞われたが、森田さんはそのピンチすらチャンスに変えた。
「コロナで営業ができない間、スタッフの教育とブランディング作業を集中的に行っていたんです。その甲斐あって、昨年6月に再びお店をオープンしてから一気にお客様が戻ってきて、サービスにご好評をいただくようになりました」

お店でゴルフコーチをする森田さん(写真右、写真=本人提供)
昨年のコロナ発生当初、多くの駐在員が日本へ帰国する中でも、中国に留まり続けた森田さん。その目に中国の感染症対策はどのように映ったのだろうか?
「コロナ対策のように、みんなが同じ方向を向いて頑張らないといけないという時に、全力で向かせていく姿勢にちょっと感銘を受けたというか、心にドンと来ましたね。日本人、特に僕たちの世代って、そういうのを間違っていると教えられて育っていますよね。でも、こうしてコロナの抑え込みに成功しているのを見ると、中華人民共和国のすごさというか、中国共産党の強さを感じます」
かつて一度は諦めたゴルフで生計を立てるという夢を中国で叶えた森田さんは、チャイナドリームの実現者のように思える。しかし、ご本人にはより壮大な夢があるという。
「中国で夢を叶えたと言っても、これだけ広い国で現状6店舗ですので、まだまだだと思っています。それよりも中国でより一層ゴルフが盛んになって、世界的な選手がどんどん出てくることに貢献できたらと思うんです。ゴルフは今やオリンピックの正式種目にも復帰しています。これからも中国でゴルフ普及に努めて、いつか中国のゴルフチームが表彰台に上がる瞬間を見られたらというのが願いです。僕自身、プロのライセンスを持っていますので、コーチなのかアドバイザーなのかは分かりませんが、できれば何らかの形で中国のナショナルチームに携わること、それが僕にとっての夢であり、挑戦でもあります」
経済のみならずさまざまな分野で今も急速な発展を遂げている中国。来年には北京冬季オリンピックを控え、スポーツ熱はますます高まっている。森田さんの願いが実現するのは、そう遠い日のことではないのかもしれない。
「北京週報日本語版」2021年6月15日