中日協力の新たな原動力に

 

今年9月に5年を迎える「一帯一路」イニシアチブ。この5年で世界100余りの国家と国際組織が支持もしくは参加を表明し、国連総会などの重要決議にもその内容が盛り込まれた。

7月20日の『朝日新聞』は、中国と日本がタイの鉄道であるスカイトレイン(BTS)の敷設事業を初の「一帯一路」協力プロジェクトとする可能性があると報道したが、英国をはじめとする先進各国が早急に積極的参加の意向を示したのに対し、日本は「深慮」と「ためらい」の末にようやく決断をした感が強い。この5年の間に日本は「一帯一路」をどのように見ていたのか、今の時代における「一帯一路」の意義とは何なのか、そして両国の協力の可能性を見いだせる領域とは。5人の専門家と学者が読み解いた。 

 

413日、中国語を話せる社員が1000人に達した伊藤忠商事は「伊藤忠中国千名大会」を東京本社で行った。

大会あいさつで岡藤正広会長は「円滑なコミュニケーションで中国ビジネスを拡大したい」と意欲を示した(写真陳克/人民中国)

 

「構想」から「実務」へ

 

木村 まず、第一のテーマとして、過去5年において日本の「一帯一路」への観点はどのようなものであったのか、現在、その観点に何らかの変化は見られるかについてお話しください。進藤さんは「一帯一路日本研究センター」を立ち上げられていますが、いかがでしょうか。

進藤 率直に言って、このように激しく急速に展開するとは想像できませんでした。そして日本の反応があまりにも遅すぎます。単に政治や経済の分野だけではなく、日本の中国専門家があまりにも消極的だったことが印象付けられました。

「『一帯一路』は星座のごとし」という言説があります。「一帯一路」は天のはるかかなたにあり、見られるがつかめないものだという意味ですが、この言葉の是非については誰も議論していません。もう一つ、私が「竜の爪論」と例えているものがあり、これは「一帯一路」は中国が巨大な竜の爪、つまりエクスパンショニズム(拡張論)をもって周辺国を侵略し、事実上の中華圏を拡大するためのストーリーであり戦略であるというものです。

「星座論」も「竜の爪論」も、日本の専門家にとってはごく最近まで普通名詞でした。私は朱炎さんをはじめ日本華人教授会とも付き合いがありますが、彼らはその説を否定しますし、経済専門家や産業界は、「一帯一路」はすでに「イニシアチブ」ではなく「実態」として進んでおり、日本は巨大なチャンスを逃していると言います。

実際、産業界は一昨年くらいから非常にアクティブでした。17年5月に北京で行われた「一帯一路」国際協力サミットフォーラムに、二階俊博さんを筆頭に50人の日中経済協会の中心メンバーが出席し、その後5回にわたって大型訪中団が訪中しています。さらに17年9月28日の中国大使館主催の中日国交正常化45周年パーティーには、安倍晋三首相と河野太郎外務大臣が出席しました。そのとき私は初めて歴史の潮目が変わったと感じ、国家としてこれをバックアップして参画することで、歴史の歩みを進めていく転機になったと思いました。さらにジャーナリストや知識人などによる「一帯一路日本研究センター」を発足させてほしいと、アジア地域統合の研究学会である国際アジア共同体学会からの強い要望があり、昨年1130日の日中国交正常化45周年記念大会に合わせ、福田康夫元首相をメイン講師に、程永華大使や宮本雄二元駐中国大使にも来ていただき記念講演を行い、「一帯一路」構想を軸とした研究センターを立ち上げるという公的宣言を出しました。120人ほどの来場者を前に、来るべき時が来たという感がありました。

 

江原 政治とビジネスをあまり関連付けないほうが良いと、私は思います。日本には、例えば第三国のインフラ整備などは、「中国の『一帯一路』」という「枠組み」でなくても、日本は独自に取り組んでいけばいいとの考えがあるようです。ただ、一国が提唱した「一帯一路」プロジェクトに、提唱以来5年足らずで100カ国余りが参加支持を表明している事実は、深く受け止める必要があるでしょう。短期間にこれほど多くの関心を世界から持たれたプロジェクトはこれまでなかったのではないでしょうか。日本の産業界の関心は高まってきています。

日本の各界は、最近まで「一帯一路」はあくまで「構想」だと思っていたようですが、最近では「一帯一路」が「実務」の段階に入りつつあることが認識されつつあるようです。昨年5月、北京で開催された「一帯一路」国際サミットフォーラムに29カ国の国家元首をはじめ、政府関係者を含めて1500人が参加したことで、「一帯一路」は世界からさらに注目されるようになったと言えます。その「実務」の象徴は、今年11月に上海で行われる国際輸入博覧会です。「一帯一路」が「構想」から「実務」の段階へと移った象徴ともいえるこの博覧会には、世界が注目しています。日本政府は「一帯一路」との距離をもっと縮めようとする姿勢が強まっているように思います。この点、産業界も「このままではいけない」と感じていると考えられます。「一帯一路」に対する各界の温度差は急速に縮まっていると見られます。

 私も非常に速いスピードで展開したと感じています。例えばアジアインフラ投資銀行(AIIB)は15年の年末に設立、16年に開業しています。国際金融機関が2年間で立ち上がる事例は他にありませんし、アジア各国のインフラ整備への協力への支持や期待もあり、また投資や貿易、鉄道輸送などの多方面でも急速な展開を見せています。

日本は当初、「一帯一路」に対して「中国が政治目的で行うことだ、できるはずがない」という考えでした。その時期の日本の政界は、中国と戦略的な対抗時期で、中国の発展に役立つことや資するものは日本的には「戦略的不都合」だから参加はありえない、中国の発展にプラスになるものは、都合が悪いからつぶそうという考えすらあり、参加はありえませんでした。

変化が現れたのはやはり、二階幹事長が政府代表として参加した昨年5月の「一帯一路」サミットフォーラムからだと思いますが、背後には米国の変化が透けて見えます。昨年4月、習近平主席が訪米してトランプ大統領とフロリダで対談した際の合意内容は、「一帯一路」の評価と「一帯一路」サミットフォーラムに米国も参加するというもので、これを聞いた日本の態度が若干変わりました。その後、安倍首相の発言を経て日本も何らかの形で参加するということになり、当初の条件付きから少しずつ積極的になってきて今に至ります。

西園寺 日本では「一帯一路」の内容は何なのか、その本質は何なのかという点と、実際の進行状況についての認識が非常に遅れています。予想以上に物事が進んでいるにも関わらず、日本社会での関心がとても薄かったのだと私は感じています。それは、日本政府の動向と関係がありました。

日本の安倍政権には安保派と経済派という二つの勢力があります。安保派は中国脅威論を根拠に、日米同盟をベースにインドやオーストラリアと協調し、中国と対抗するという価値観外交が中心で、「一帯一路」にしろAIIBにしろ、非常に警戒の目で見ています。もう一方の経済派は、日本の経済発展にとって中国経済は無視できない存在だから、取り込まなければ経済戦略はあり得ないという考えが主で、この二つの勢力に安倍首相が足を掛けています。オバマ時代まで日米の認識は一致していましたが、トランプ大統領が「一帯一路」は良いものだと口走ったところから状況は変わりました。安倍首相は慌てて安倍親書を持たせて二階幹事長を中国に派遣し、少なくとも言葉の上では「一帯一路」肯定になりました。注目すべきは、安倍首相を支える安保派と経済派の力関係が変わったことで、かつては安保派がかなり強かったのが、今は経済派がかなり勢力を強めています。

経済界は、常に官邸の顔色を見ながら行動を起こすのが最近の常でしたが、私の知る限りでは、経済界の一部の大企業は「一帯一路」に対する認識をきちんと持ち、例えば伊藤忠商事などは早くから「一帯一路」について勉強し、事務職は全員中国語を学習しています。しかし経済界全体としてはまだまだ認識も取り組みも遅れています。

 

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