「BOOKOFF」に啓発 AI活用し広がる読書の縁

 

「一席」フォーラムで「デジャビュ」を紹介する魏穎さん(写真提供デジャビュ)

20175月、「デジャビュ(多抓魚)」(フランス語déjàvu=既視感の意、中国語で音が近い漢字で構成)という名の中古本取引プラットフォームが、ネット上にひっそりとオープンした。大掛かりな宣伝も行わず、文化グループや本好きの人たちの口づてだけが頼り。それでも今は北京、上海などに70万人の利用者を抱え、日々の図書取引量は数万件に達している。

「デジャビュ」は創立当初、日本の新古書店「BOOKOFF(ブックオフ)」に啓発され、後発者としてそのスタイルを踏襲した。両者はいずれも多くの人から中古本を買い取り、きれいに処理した後、統一化した価格を付けて販売する。異なるのは、「デジャビュ」はネット書店であり、本の売買価格を決めるのは人ではなく、人工知能(AI)が算出する点だ。

BOOKOFFから啓発

「デジャビュ」の創業者魏穎さんは2016年、それまでの職を辞して起業することを決めた。彼女は、循環経済での中古書籍の取引に注目した。「最近、中国では多くの中古取引のプラットフォームが現れています。高度経済成長のときは、自分の収入に対して楽観視し、たくさん消費し、過剰消費となります。すると、人はこれまでの自分の消費行為を反省し始めるのです。この点で、今の中国は1990年代の日本とよく似ています」と彼女は語る。

現在の中国の若い消費者は、彼らの両親の世代と違い、モノを長く所持するということにあまり執着していない。むしろ今持っているモノを使うことを重視し、使っていないモノは他人とシェアすることを望んでいる。洋服やデジタル製品、家具などの分野では、レンタルや中古品取引のプラットフォームが現れている。中でも最大規模を持つ二つの総合的な中古品取引プラットフォーム、「閑魚」と「転転」は、合わせて4000万人近くの利用者を誇る。

こうした背景の下、魏穎さんは書籍から中古品取引マーケットに参入することを選んだ。その主な理由は、中国の書籍は低価格で安定していて、電子商品のように日々価格が変動することはない――というものだった。彼女が国内外の有名な古書店を見回って、最も印象が深かったのが日本のBOOKOFFだった。

魏穎さんはこう話す。一部の中古書店は一歩店に入ると古い本の臭いが鼻を突き、見栄えも良くない。中には店主が深い見識を持つ古本屋もあるが、素人の客は店主の鋭い視線にすくみ上がってしまう。ところがBOOKOFFは違う。「初めてBOOKOFFに行ったとき、新書本を割引している店かと思いました。というのは、本が全てすごくきれいで、マンガを立ち読みしている人も多く、全く買う気がない感じなのに店員は気にする様子もない。それどころか、『読んだら元に戻してください』という張り紙を書棚に張っていたんです」

「私は、中国でもこんなリラックスした雰囲気の中古書店をぜひ開いてみたいと思いました。相手が本を直接私たちに売り、私たちがチェックして代金を渡す――この取引は効率も良い。私たちは本をきれいに仕上げて確認した後、本棚に並べて売る。この作業は統一化できます。私はBOOKOFFから啓発されました」

人でなくシステムで判断

中国では、ネットでの支払いと配送が便利であるため、「デジャビュ」では当初から自らをネット企業として位置付け、顧客が書籍の売買をより簡単な手順で行えるようにした。BOOKOFFと違うのは、本の取捨選択と価格設定の点だ。「デジャビュ」では、どの本を受け入れ、いくらで買い、いくらで売るかは、全て人工知能がはじき出して決める。

魏穎さんは続ける。われわれは価格設定スキャンシステムを開発した。利用者は「デジャビュ」のシステムを使い、本の裏表紙にあるバーコードをスキャンするだけ。それで、「デジャビュ」がこの本を買い取るかどうか、その価格がいくらかが分かる。その後、利用者は宅配業者が無料で本を回収に来るのを待つだけだ。

「まず従業員が買い取ると判断した本をグループ化し、買い取らない本も別途グループ化します。コンピューターは各グループの特性を抽出し、持ち込まれた本がどのグループに近いかを判断するのです。当初、買い取りの90%以上は人が判断していました。しかし、コンピューターも平行して判断するうちに次第に学習し、今ではその正確性は大変高くなりました。現在、人による判断はわずか5%だけです。販売価格は経済学の計算モデルに基づいて決めています。1冊の本で、需要より供給が多いと価格は次第に下がり、その逆ならば値上がりして行きます」

興味深いのは、「デジャビュ」のこの買取価格設定システムが出てきてから、利用者は自分が買う本の価値について、このシステムを判断のよりどころとしている点だ。つまり、「デジャビュ」が高く買えば、それは良い本の証であるということだ。

コミュニティーの雰囲気づくり

1年余りの経営で、「デジャビュ」は北京、上海などに70万人もの利用者を有するまでになった。内訳は、1535歳の若年層が中心で、スタッフが応対した中で最年少は11歳、最年長は70歳余りだった。この70歳を超えたお年寄りは「デジャビュ」に本をたくさん売っている。スタッフが、ここでは数多くの絶版本を探し出せるのに、どうして本を買わないのですか、と尋ねたことがある。するとお年寄りは、これからも本は買えません。目が悪くなったからなんです――と答えた。彼は、持っている本を売り払い、読みたい人に読んでもらいたいと願っているだけなのだ。

似たような例から「デジャビュ」のスタッフたちは感じた――古本の売買は単なる商品の取引ではなく、本にまつわる多くの物語と思いを伝えることなのだと。そこで彼らは、北京や上海、南京など多くの都市で「本の中の生き物たち展(中生物展)」を開催した。

「本の中の生き物たち展」では、「デジャビュ」が過去1年に引き取った100万冊近い本の中に挟まれていた搭乗チケットやラブレター、写真、成績表、落書きといったさまざまな「現実の残片」を展示している。持ち主の同意を得て、こうして挟まっていた物と本を一緒に展示するのだ。これら残された物自体は決して珍しくはない。しかし、それらと本が描き出す関係は、大変興味深い。例えば投資の解説書に挟まれたルイヴィトンのレシートや、英語の小説から出てきた仏教の経文「大悲呪」は、本と符合していたり逆にまったく対照的だったりするが、いずれも想像力をかきたてる。

「本の中の生き物たち展」は、読書によってつながりや共感が生まれていると思わせる。これが「デジャビュ」の創りたかった雰囲気だ。「デジャビュ」は自分たちを「ネットショッピング」と位置付けたことはなく、読書コミュニティーや本好きたちの交流の場であるとしている。だから、「デジャビュ」では難しい科学などの書籍は見当たらない。その代わりにあるのが、「大人が読む漫画」や「お茶を飲みながらや寝る前に読む軽い読み物」「この本に出てくるカップルが大好き」「書名のせいで売れなかった名著」「お願いだから映像化しないで」などといった個性的な本のリストや、本好きな人たちによる討論である。

このほか、彼らはネット上で「精神株主総会」を開いている。ここではベテラン利用者やファンからの求めや意見を受けて、「デジャビュ」の改善と発展により深く関わってもらっている。これも「デジャビュ」と「先輩」BOOKOFFの異なるところだ。(高原=文 楊振生=写真

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